嫌な予感
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「先輩には失望しましたよ!」
「だから、もしもの話だっつーの!!」
日野君とのお付き合いを始めて、私達二人でルームシェアを始めた。端から見れば完全に同棲だと言われそうだけど、そこは断じてルームシェアだと宣言したい。
「私、めんどくさい男って苦手かも……。」
そう一言言い放ったら、日野君が一瞬にして黙った。そして、何も無かったかのように、あからさまに話を逸らした。
「菜都美先輩、俺の学生最後の夏休み、海か山へ行きませんか?車で。」
「私、まだ死にたくないからいいや。」
「失礼な!死なないですよ!!」
日野君はこの夏、自動車教習所に通って、最近免許を取得した。そして、その新しすぎる免許で、私を連れてどこかへ行きたいらしい。どこ?地獄?地獄へ連れて行くの?
「死ぬよ!初心者マークついた車なんて乗ったらすぐ死ぬよ!」
「死なないですよ!車乗ったぐらいじゃ死なないですよ!」
「普通の車じゃないよ!日野君の車だよ。」
「普通の車ですよ!人間そう簡単に死なないですって!」
日野君は自分に信用が無いと凹んでいた。
そもそもアウトドアなんて、インドアな私には無理。私にとっては厳しい試練でしかない。
「海は焼けるから絶対嫌。」
「じゃ、山へ……」
「山は蚊に刺されるから嫌。」
日野君は少しため息をついて言った。
「俺、女のワガママに振り回されるのは、嫌いじゃないっすよ。」
それ、ため息ついて言う台詞なの?!
「それに……そんな気分じゃない。」
「何?まだ他人の事で悩んでるんですか?」
「別に悩んでる訳じゃないよ。どう、言葉をかければ良かったのかな?って……。」
日野君は何かいい事を思い付いた!と言う顔をして言った。
「じゃ、引率だったら行きますよね?ね、センセ?」
「いや、私先生じゃないから。」
嫌な予感しかしない……。