後悔してない
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悠太とのキスの後、全然心臓の鼓動が収まらなかった。顔が熱くなって、帰り道で鞄を持つ手が震えた。
今でも、思い出すと…………感触を思い出す。
頭に血がのぼると、自分が何しでかすかわからなくてちょっと怖い。でも、不思議と全然後悔してない。
この事を一番に相談したくて、ちーちゃんとマックで待ち合わせした。
「ミホ~!こっち!」
「ちーちゃん!久しぶり!」
「久しぶりって…………一昨日会ってるよね?」
夏休みが始まっても、ほとんど毎日のようにちーちゃんと会っていた。明らかに加島君と会うより、断然ちーちゃんと会ってる。
「あのね、聞いてちーちゃん!」
「どうした?」
「キス…………しちゃった。」
ちーちゃんはこっちがびっくりするぐらい驚いていた。
「え?えぇええええ!?は?え?キス?…………あ、加島と?良かったじゃん。」
「違う。悠太と。」
「は?はぁ?今、誰と付き合ってるかわかってるよね?」
ちーちゃんならわかってくれると思ってた。大丈夫だよって言ってくれると思ってた。
「でもね、なんか、全然後悔してない。これで悠太とダメになっても…………」
「ミホ、加島は?加島はどうなるの?どうしてそんなに平然でいられるの?私が言えた義理じゃないけど…………それは、最低だよ。」
ちーちゃん?
「そう……だよね。…………ごめん。」
「どうして私に謝るの?謝る相手が違うんじゃない?」
「そう……だけど……。」
何やってんの?って笑って……笑い飛ばしてくれると思ってた……。
「私…………加島君に謝って来る。」
「そうだね…………。ごめん、ミホ。ごめん。」
「どうして?どうしてちーちゃんが謝るの?悪いのは私だよ?」
私はドロドロに溶けきったシェイクをゴミ箱に捨てて、マックを飛び出した。
悠太の事で頭がいっぱいで、加島君の事を忘れていた。
まるで、キスで催眠が解けたみたいに、消えていた。