命拾い
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「菜都美先輩……いや、菜都美……。」
「日野君……。」
俺はそっと菜都美の肩に手を添え、その唇に…………
なんて事に、なるはずもなく……
「どうしよう。トイレ行きたくなってきた……。」
かろうじて、足元の小窓が、人が人が1人通れそうだった。
菜都美先輩の中では、真剣にパンツが見える、見えないという物議がされていた。
「もういいよ。もう、パンツ見せて外に出てさ、俺が鼻血出しすぎて出血多量で死ぬから、密室遺体ができたら、警察呼んで謎解きしてよ!じゃ、はい、どうぞ!」
「バカじゃないの?何変態宣言してるの?」
「さだまさし?…………それ、」
「関白宣言!」
二人の声がハモった。
「あはははは…………ってコラ!何スカートめくろうとしてるの?!」
「どうせ見えるなら、堂々と見ても同じだな~と思って。」
「バカじゃないの?」
久しぶりの高校の教室に、気持ちが高校生に戻ったようだった。出会う前の菜都美先輩は、どんなだったんだろう?
からかって来る男子生徒にあんな風に『バカじゃないの?』って言ってたかな?
「始まった?」
「いや、全然?」
「何やってんだよ日野~!」
「加島声が大きい。」
「教室で?あり得ないでしょ。」
「密室だよ?密室ではラブロマでしょ!」
廊下から、複数の話声が聞こえた。
「あんた達~!!今すぐ開けて!!」
「うわっ逃げろっ!」
菜都美先輩が怒ると、生徒達はパタパタパタ……と足跡を響かせて去って行った。あーあ。
「あ!ちょっと待って!せめてここ外して!」
俺は足元小窓を開けて、どうぞ。と促した。菜都美先輩はスカートを抑えながら、小窓をくぐって教室から出た。そして、戸にはまっていた棒を外すと、戸を開けて言った。
「全然鼻血出ないじゃん。」
「良かった~命拾いした。」
「あははははは!!日野君、これから暇?今日のお詫びに、何かおごるよ。」
それってデート?と、思うのは俺だけなんだろうな。
「その前にトイレ!日野君、先に出て校門の所で待ってて!」
「了解で~す!」
そう言って菜都美先輩は走って行った。
まぁ、命拾いはした?かな?