当て馬
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「あ、いた!茂木先生!」
教室を出ると、男子生徒に話かけられた。
「加島君、どうしたの?」
「今から話聞いてもらえますか?」
私と加島君は教室の中に戻って、加島君の話を聞いた。
「えっと…………何から説明すればいいんだろう?」
いつもは冷静な加島君が冷静でいられない様子だった。
「落ち着いて、ゆっくり話して。」
「あの…………芦原さんに告られて、付き合う事になったんです。」
「え?えぇええええ~!?」
昨日失恋したって言ってたのに!!昨日の今日で?早っ!!早すぎるでしょ!?
それって自棄になって?だからって一番近い小崎君の親友にいく?
「多分、俺は当て馬みたいなもんなんだと思います。」
当て馬!?当て馬キャラ!?加島君当て馬キャラなの?!
「芦原さんはきっと、俺と付き合って、小崎の気を引きたいだけなんですよ。」
「でも、それがわかっててどうしてOKしたの?」
「それは…………好きだからです。」
加島君、芦原さんの事好きだったんだ。
…………って三角関係じゃん!!
でも、好きな人が彼女になったのに、浮かない顔してる……。
「小崎にその事を話すべきかどうか……。芦原さんは、小崎どころか野々村にさえ言ってないみたいで……。」
「お互い、お互いの親友に伝えられずにいるんだね。」
友達に報告しなきゃいけない義務はないけど……こうゆう時、少し勇気がいるよね。
「内緒で付き合うっていう選択肢はないの?」
「内緒……?内緒で付き合ったら当て馬の意味無いですよね?」
加島君、当て馬の自覚ありすぎ。
「加島君はどうしたいの?」
「俺は…………当て馬なんて嫌です。当て馬になるくらいなら、悪者になります。でも、そんな覚悟はなくて…………親友としての小崎も失いたくないし、恋人としての芦原さんも失いたくないです。」
それは、難しい事だと思う。だって、誰かの願いが同時に叶う事は無い。
それでも私は…………話を聞くだけで、誰の味方にもなれない。みんなの味方でいなきゃいけない。みんなの味方でいたい。
「でも、何となく…………小崎を失えば、芦原さんも失う。そんな気がするんですよね。」
加島君は、力なく笑っていた。