いっそのこと
37
「そっか、小崎君は加島君と付き合いたいとかじゃないんだ。」
「茂木先生も勘違いしてました?」
「だって全然説明不足で加島君とキスとか言うから!勘違いもするでしょ!?」
他人に説明するって難しいな……。
「じゃあ、どうして芦原さんの誤解は解かないの?」
「それは…………」
バスケの試合の数日後、美帆乃は家に来て、何を話す事なく、黙って座っていた。
「やっぱり帰る。」
そう言って立ち上がると、何故かまた座った。
「悠太は…………変わったね。」
「美帆乃の方が変わった。」
「変わってないよ!今までの私は、ずっと悠太に合わせてた。でも、催眠術にかかったふりして、本当の私を見て欲しかった。こっちが本当の自分。」
じゃあ…………今までの美帆乃は何だったんだ?今までお前と過ごした時間って…………何だったんだ?
ゴーレムが好きだろうが、MJが好きだろうが、関係なかった。
ただ…………僕は置いて行かれるのが嫌だったんだ。催眠を解いて、元の美帆乃に戻れば、戻れる気がした。でも、もう催眠は解けた。もうこれ以上、戻る事は何もない。
置いて行かれるくらいなら…………いっそ…………
僕は美帆乃の顔の前に手を置いて言った。
「あなたはだんだん眠くなる。だんだんだんだん眠くなる」
「え?何?また催眠術かけるの?」
美帆乃は笑っていた。
いっそ、美帆乃も、加島も、幸せな方がいい。
「今度は何?スライムが好きになるとか?」
「目覚めた時には…………加島を好きになる。」
その言葉を聞いた美帆乃は…………もう笑ってはいなかった。
茂木先生、僕は、美帆乃に魔法をかけました。
それは、美帆乃が、二人だけの世界から、飛び出して行けるように……。
置いて行かれるなら…………自分から一人になった方がマシだ。