バスケの話
35
美帆乃が叫んだ。
「ヤれない女よりヤれる女の方がいいでしょ!?」
「やめろ美帆乃!」
そりゃそうだけど!!そうじゃないって!!
美帆乃がぶちギレた。
それは、僕がたまたま美帆乃の教室の前を通りかかった時、美帆乃の友達……野々村が教室から出てきた。
「野々村、泣いてた?」
野々村が去った後、廊下にいた美帆乃のクラスの男がそう言っていたのが聞こえた。
「あー、あいつすぐヤれるらしいって誰かが言ってたから、それ聞こえたんじゃね?」
「あーそれ俺も聞いた~」
「はぁ?」
ちょうど廊下に出てきた美帆乃がその言葉を聞いてしまった。
「誰がそう言ってたの?」
美帆乃は男達に食って掛かった。
「いや、それは……誰だろうな?」
男達は、はぐらかそうとした。はぐらかして、やり過ごそうとした。
「ちーちゃんとヤった事もないくせに、悪口言うな!!」
「はぁ?じゃ、お前野々村とヤった事あんのかよ?」
「あるもん!!」
ちょっ!!美帆乃の言葉に、周りがどよめくのがわかった。
「ヤれない女よりヤれる女の方がいいでしょ!?」
「やめろ美帆乃!」
「私、ちーちゃんとバスケしたもん!!ちーちゃんは簡単にバスケやれるよ!それが悪い事!?」
「…………。」
さすがの男子も言葉を失った。
「はぁ?」
「あ、うん、そう、そうなんだよ。野々村とバスケやれていいよな~って話。じゃ、俺達行くわ。」
そう言って二人は教室に入って行った。
すると、野々村がハンカチで手をふきながら帰って来た。まだ怒りが収まらない様子の美帆乃を見て言った。
「どうしたの?」
そう野々村に声をかけられると、やっと美帆乃も落ち着いた。
「何でも無いよ。ちーちゃんこそ、目赤いけど大丈夫?」
「アレルギーかな?痒くて擦ったら赤くなっちゃった。」
お互い…………わかってて本当の事を言い合わない微妙な距離。それでも、美帆乃に野々村がいて良かった。
美帆乃はこっちを見ると、ため息をついた。
「ねぇ、ヤれない女よりヤれる男の方が好き?」
野々村は驚いていた。
「ちょ、ちょっとミホ?何の話?」
「なんのって…………バスケの話。」
「バスケの話?」
え…………それ…………本当にバスケの話だよね?
「うん。そう。バスケの話。だよね?悠太?」
僕に振るなよ……。
「加島が野々村バスケ部に欲しいって言った。」
「うち女子バスケ部ないじゃん。」
「じゃあさ、マネージャーは?マネージャーならバスケ部入れるんじゃない?」
マネージャーか……。そう思っていたら、野々村は険しい顔をして言った。
「何で自分が競技できないのに、競技してるやつの世話しなきゃなんないの?」
確かに……。加島はそうゆう意味で欲しいって訳じゃないだろうしな。
「よし、決めた!!みんなでマネージャーになろう!!」
「はぁ?」
え…………?僕も?一緒に?マネージャーやるの?
「ちーちゃんも一緒に悠太を応援して!」
僕のため!?美帆乃がそんな事を言うとは思わなかった。
美帆乃は変わった。
昔とは全然違う。僕も変わりたい。でも、どう変わりたいのか……まだわからない。