何かが必要
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僕が茂木先生のいる空き教室へ行くと、茂木先生は何かを読んでいた。
「失礼します。」
先生は僕に気がつくと、紙を集めてひとまとめにしていた。
「先生、何読んでるんですか?」
「あ、これ?妹の書いた漫画。妹が漫画家志望なの~。」
漫画……。
「妹さんはどんな漫画書くんですか?」
「いつもはBLかな~」
「いつもはBL?」
BLって…………ball?baseball?野球漫画か。
「でも、今回はそうじゃないみたい。赤ちゃんの時に育てた魔王の子供が成長して、グレてヤンキーになったから、ラグビーで更正させるって話みたい。」
野球じゃなくてラグビーか……。
「それ……どことなくパクってませんか?」
「そうだよね~。昔育てた魔王の子供がグレるって設定、いらないと思うんだよね。」
「それなかったらほぼパクりになると思いますけど……?」
僕はそう言って茂木先生の前の椅子に座った。
「まぁ、そこはアレンジで何とか?何とかなるんじゃない?」
何とかって……雑だな……。
「それより、幼なじみの催眠は解けた?」
「ああ、そうだ先生、僕、加島にキスしようとしたんですけど、」
「ちょ、ちょっと待って?催眠解きたいのは芦原さんだよね?どうして加島君にキスするの?意味がわからないんだけど?」
僕の一言に、茂木先生は混乱していた。
「それで、美帆乃に押し負けて……。」
「ちょっとちょっと!全然話が繋がってないから!」
「僕、力が強くなりたいんですけど、何から始めたらいいですか?」
ラグビー?…………タックル!!
「ラグビーやります!!」
「ちょっと、ちょっと待って?じゃあ、色々ちょっと置いといて、力強くなりたいって……うちの学校ラグビー部なんてないよね?」
「じゃ、相撲部の顧問になってください。」
「無理だよ!先生じゃないから顧問になれないし!うち相撲部もないよね?」
何か……僕には何かが必要だ。
「他の運動部は?野球とかサッカーとかバスケとか……」
僕には何もない。僕には、美帆乃より優れた所が何もない。それじゃ…………美帆乃の隣にいる資格が無い。
「あ、加島君と同じ部活は?何部だっけ?」
「加島と同じ…………?加島はバスケ部です。」
「友達となら続けやすいし……」
加島と同じ…………バスケ……。
僕と美帆乃だけの世界では、それでも良かった。でも…………それじゃいけないと気づかされた。