解けない
2
次の日の朝、美帆乃は僕にこう言った。
「悠太、私ゴーレムと結婚する!」
「…………はぁ?」
朝からこの冗談はキツイよ。朝だと全然声が出ないよ!
ゴーレム?ゴーレムって…………あのゴーレムですよね?え?ちょっと待って?あれ、人じゃないよね?人ですらないよね?
「えーと、MJじゃないの……?」
きっと何かの間違いだ。僕の聞き間違いだ。うん、きっとそうだ。落ち着け。一旦落ち着こう。
「MJ?別に好きじゃないよ?何だかね、急にゴーレムが好きになって…………ゴーレムって格好いいよね!」
良くねー!全然格好良くない!ゴーレムってアレだろ?石の塊だろ?砂の集合体?どこが?どこが格好いい?
なんだろう…………嫉妬できるくらいがちょうどいい。…………MJの方が1億倍マシだよ!!
「どうしたんだよ美帆乃?」
「どうしたって?どうしたの悠太?」
え…………おかしいのはこっち?こっちなの?
「悠太、好きな物があるって…………幸せだね。」
美帆乃は満面の笑みでそう言った。
「そうだね……。」
それってゴーレムの事?たかがゴーレムなくらいで幸せとか語っちゃってんの?ヤバい……!ヤバいよ!!………なんて言葉はとりあえず飲み込んだ。
美帆乃の幸せは僕の幸せだと思う。…………幸せ…………だと思う。
幸せは…………何だか辛い。
美帆乃は、ゴーレムで話す事そんなにある?ってくらいゴーレムの話をした。うんざりだった。MJよりはるかにうんざりだった。
「ゴーレムと相合い傘したら、肩の所雨で溶けちゃったりしないかな?」
何の話だよ!
「防水加工なんてできないよね~?」
だから何の話だよ!!
どうにかしないと…………!どうにか…………美帆乃の催眠術を解かなくては!!
僕は一刻も早く美帆乃の催眠術を解く為に、放課後僕の家に呼んで、本の通りにやってみた。
でも……本の通りにやってみても全然で……それから仕方なく、目薬を打ってみたり、頭から冷水をかけてみたり…………それでも、何をしても戻らなかった。
戻るどころか…………
「悠太、これ、何の意味があるの?もう帰っていい?私これからゴーレムとデートなの。」
ひぃいいいいいい!!全然効果がない!!むしろ何!?ゴーレムとデートって何!?何なの!?
「じゃ、またね~!」
そう言って美帆乃は帰ってしまった。
僕は…………何て事をしてしまったんだろう……。あの、美帆乃が真顔でゴーレムと結婚するとか言ってる……。地獄だ!!
もうあの頃の美帆乃は帰って来ないのか…………!?この先ずっとアホなのか!?変人!?嗚呼っ!!どうしたらいいんだ!?
僕は途方に暮れて、1人部屋で悩んでいると、机の下に1枚の紙が落ちている事に気が付いた。その紙には、スクールカウンセラーのお知らせが書いてあった。
スクールカウンセラー!
プロに相談してみよう!美帆乃も連れて行こう!!相談して、それでもダメなら精神科だ!!
そうだ、京都へ行こう。
みたいなノリで思った。
そうだ、精神科へ行こう。