押し負け
19
僕はゲイじゃない。男が男に迫るとか…………無い。それでも、美帆乃の催眠術を解くには、それしか無いと思った。
相当なショックがあればきっと目が覚めるはず。きっと…………目が覚めて、僕から去っていくはずだ。
それなのに…………美帆乃が戻って来た。
「悠太……携帯、私の携帯ない?」
なんだ……。忘れ物か。
美帆乃が催眠術にかかったと言って僕を縛ろうとしてるのはわかってた。美帆乃が催眠術にかかったふりをするなら、僕は解きたいふりをする。
「携帯にかけてみてくれる?」
「わかった。」
本当は……美帆乃がゴーレムが好きだろうが、MJが好きだろうが、何も変わらない。僕の想いは……何も変わらない…………。
でも、加島の気持ちに気づいた時から、僕は僕の想いは…………封じられた。
美帆乃の携帯に電話をかけた。
「加島は……?」
「え?先に帰ったけど?」
そう言って、美帆乃は部屋から出て行った。
「もしもし?あったよ!携帯!階段に落ちてた。」
電話に美帆乃が出た。僕はドアを背にして座った。
「美帆乃、もうここには来ないで欲しい。」
「どうして?私の催眠術はもういいの?」
「もういいよ。もう……解かない。美帆乃はゴーレムと付き合えばいい。」
もう、いっそのこと、ずっとこのままでいてくれればいい。
「本気?本気でそう言ってるの?」
「本気だよ。」
自分の気持ちに嘘をつきつづけるのは…………何だか気持ちが疲れる。
でも、このままでいれば、誰も傷つかない。
「ねぇ、このドアを開けてよ。」
「ダメだ……。」
「開けてよ!!」
ドンっ!!っとドアが揺れた。
ちょっ……マジか!!もしかして、ドアを破るつもりか!?美帆乃は昔から僕よりも力が強い。でも、もう高校生だ。押し負けるはずがない。
押し負けるはずが…………くっそ……
そのままドアを押されて、必死にこっちからも押さえる。が、どんどん押されて、どんどんどんどん押し負けて…………
とうとう、ドアの隙間から美帆乃が入って来た。