嫉妬から
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そうだ、京都へ行こう。
みたいなノリで思った。
そうだ、ゴーレムになろう。
「悠ちゃんは魔法使いだね。」
僕は魔法使いなんかじゃない。魔法なんて…………魔法なんて…………
僕には可愛い可愛い幼なじみがいた。でも…………彼女は、高校一年の春に変わってしまった。僕の知ってる彼女とは別人になってしまった。それは、確実に僕のせいだ…………。僕が、あの時、あんな事さえしなければ…………
悩んだ結果、学校のスクールカウンセラーの先生に相談した。
「失礼します。」
「君また来たんだね。」
「元木先生、話を聞いてください!」
元木先生の所に通い初めて1ヶ月。毎週月曜日は元木先生の日だ。
「中村君、私、元木じゃなくて茂木ね。いい加減覚えようか?」
「最近あいつ、何でもデコるのにハマってて…………」
「あいつ?ああ、幼なじみの子ね?確かにいまだにデコるの流行りだよね~」
僕が元木先生の所に来るようになって、たまに美帆乃も来るようになった。
「あれが、あんなふうになるなんて……異常ですよね?」
「え?そう?ミスマッチではあるけど……ある意味芸術的というか……」
それは、高校入学してすぐの事だった。きっかけは、ちょっとした嫉妬だった。部活帰りに、ちょうど美帆乃が友達と話をしているのを聞いた。
「えー!美帆乃、ARASHIのコンサート行くの~?いいな~!ファンクラブでもチケット入手困難なのに~!」
「抽選に当たったの!お姉ちゃんが行けないから、代わりに連れて行ってもえる事になったの~!」
「ラッキーじゃん!」
あいつ、ARASHI好きだっけ?美帆乃はのんびりした性格で、あんまり好きな物とか主張しない。
そして、コンサートへ行った数日後、宿題をやろうと家へやって来て、延々とMJのカッコ良さを話しつづけた。
「あ、ごめんね。悠太にはつまんない話だよね。でも、みんな凄い熱気で、夢中になれる物があるって、凄いパワーだなぁって思ったんだよね。」
確かに……ファンのパワーは凄いとは思う。確かにMJはイケメンだと思う。でも、美帆乃にジュニーズヲタクになって欲しいとは思わない。
「悠太の好きな物って何?やっぱりゲームとか?」
好きな物…………?何だろう?好きな物って何だろう?ゲーム?漫画?ふと、たまたま置いてあったゴーレムのフィギュアを見て…………
「ゴーレム。」
と答えていた。
「あははは!それ、たまたまそこにあったからだよね?」
「バレた?」
そして、またMJの話に戻った。
もう、うんざりだった…………。いや、男から見てもMJがカッコ良いのはわかる。でも、面と向かって他の男の話は…………何だかムカつく。心が狭いのは自覚がある。でも……何か話題を変えよう……何か…………
ふと、さっきまで読んでいた催眠術の本を手に取った。すると、それに気がついた美帆乃が言った。
「これ、やってみた?」
「は?実際にやった事はないけど…………」
美帆乃は催眠術の本を見て言った。
「やってみる?」
「いやいや、こんなのかかる訳ないよ。」
「やってみなきゃわかんないじゃん。」
そう、かかるワケがない。僕も美帆乃もそう思っていた。
「じゃあ、リラックスしてください。」
「これ以上どうリラックスすればいい?」
美帆乃はベッドの横向きに寝て、壁に足をかけ、頭だけベッドから落ちていた。なんてだらけた格好……警戒心無さすぎ……。
「あなたはだんだんだんだん眠くなります。だんだんだんだん……」
こんなんで眠くなんの?なんないでしょ?
「そして、目覚めた時には……えーと、何にしよう?目覚めた時には……どうしようかな……?」
ふと、ゴーレムのフィギュアが目に入った。それを見ていた美帆乃が言った。
「ゴーレム?」
そう言われて、何でもいいやと思って、こう暗示をかけてしまった。
「あ、ゴーレム。目覚めたら、ゴーレムが好きになっている!」
「…………。」
え?寝てる?それ、嘘だよね?タヌキだよね?
「おーい!起きろ~!み~ほ~の~!」
美帆乃はすぐに目を覚ました。寝た振りか?
「なーんか、悠太の声眠くなるんだよね~。念仏?お坊さんとか向いてるよ。」
「いや、眠くなる葬式とかダメだって。」
「じゃ、私そろそろ帰るね。バイバイ~!」
その時は、何ともなかった。それが次の日…………
次の日の朝、美帆乃は僕にこう言った。
「悠太、私ゴーレムと結婚する!」