『逆さ虹の森』~誰も知らない物語~
初めまして!そんなに長くないのでぜひ最後まで読んでいただければな、と思いますm(_ _)m
「あの虹は、誰かの願いで出来ているんだ」
ここは『逆さ虹の森』
むかしむかし、世にも珍しい「逆さまの虹」がこの森にかかったんだって!
だからここは「逆さ虹の森」って呼ばれてるんだ。
お母さんのお母さんの、そのずーーっと前からそう呼ばれているんだって言ってた。
◇
「♪~誰も見たこと~ない~おとぎ話~♪」
コマドリ君が飛びながら、美しい声で歌う。
歌声は森に響きわたる。
「逆さまの虹なんか、かかる訳ないわよ!」
リスさんがコマドリ君の声に答える。
「そ、そんなことないよ…おばぁちゃんが言ってたもの」
木の根元に隠れ、おどおどしながら、クマ君がリスさんに反論する。
「んな事言ったって、誰も見たことないじゃない!嘘に決まってるわよ!!」
アライグマさんがクマ君が隠れている木を蹴りつけながら叫ぶ。
「やめてよぉ…蹴らないでよぉ…」
クマ君はさらにおどおどしている。
「こんな名前だから隣山の奴等に『出もしない逆さ虹』なんてバカにされるのよ!ほんと迷惑だわ!」
リスさんがさらに叫ぶ。
「なら、隣山の皆にも見えるようなでっかい逆さ虹を空にかけよう!」
ここで現れたキツネ君が言う。
「どうやって逆さ虹をかけるのよ!それができれば苦労しないわよ!」
現れたキツネ君にリスさんが食いかかる。
「♪~願いが叶う~不思議な泉~♪どんぐり池~♪」
コマドリ君が美声で歌います。
「どんぐり池でお願いして、逆さ虹を出してもらうんだ!」
キツネ君が嬉しそうに言います。
「願いが叶う…それは面白いわね!隣山の奴等を驚かせてやりましょう!」
リスさんが賛成します。
「ど、どんぐり池は川の向こうだよ…??向こうには行っちゃいけないっておばあちゃんが…」
クマ君がおどおどしながら言います。
「おばあちゃんが嘘つきじゃないって思うなら逆さ虹をかけなきゃいけないでしょ?覚悟をきめな!」
アライグマさんが木の幹を蹴りながら言います。
「♪見れる物なら見てみたい~♪僕も行くよ~♪」
コマドリ君も乗り気のようです。
それはそうでしょう、誰も見たことのない『逆さ虹』
逆さ虹の森に住むものとして、見たくなるのは当然です。
「よし、じゃあみんなで、逆さ虹を出してもらうようにお願いしに行こう!
「「「「おー!!!」」」」」
こうして森の皆は『逆さ虹』を見せてくださいとお願いするために、川向こうの「どんぐり池」へ向かいます。
はたして川向こうの森には何が待っているのでしょうか??
◇
森は今、恵みの季節。
様々な果物や木の実が、食べきれないほどたくさんなっています。
そんな恵みの森を皆で進み、川沿いに来ました。
川を渡るにはこの「ボロボロ橋」を渡るしかありません。
むかしむかしからある橋なのでボロボロで、今にも落ちそうです。
リスさんとキツネさんは問題なく渡っていきます。
コマドリさんは悠々と歌いながら空を飛んでいます。
クマ君とアライグマさんも渡っていきますが、橋の中程でクマ君がうずくまってしまいました。
「こわいよぉ…もう無理だよぉ…」
クマ君は怖くて目をふさいで震えています。
「はやく行きなさいよ!」
クマ君の後ろにいたアライグマさんが、クマ君のおしりを叩きます。
が、体の大きなクマ君はびくともしません。
「クマ君、大丈夫だよ、ゆっくりでいいから」
キツネ君がクマさんに優しく語りかけます。
と、ここでリスさんが橋の縄をかじり始めました。
「ほら、はやく渡らないと橋が落ちるわよ!急ぎなさい!」
「やめてよ…ほんとに無理だよぉ…」
怖いクマさんはさらに丸くなってしまいました。
「ちょ、ちょっとリスさん、それは危ないよ!」
キツネ君が慌ててリスさんを止めます。
が、縄からブチブチと音がして…
「♪つり橋が~落ちる~♪お約束~かな~♪」
コマドリ君が歌います。
「「あぁーーーーー!!!!」」
大きな音を立て、つり橋の縄が切れ、クマ君とアライグマさんは橋と一緒に川へ落ちてしまいました。
「あぁ~登れそうにないから置いていって~」
クマ君が泳ぎながら言います。
「誰のせいだこら!」
アライグマさんがぷりぷり怒りながら泳いでいます。
「リスさん!なんて事をするんだ!」
キツネ君はリスさんに問いかけます。
「ごめんなさい…ま、まさかほんとに落ちるなんて思ってなかったのよ…ごめんて!」
リスさんの目が泳いでいます。
「♪アライグマさんもクマ君も泳ぎが得意~♪大丈夫~♪」
コマドリ君が歌っています。
「もう…落ちた二人も平気そうだし、この川は大きいけど流れはゆるやかだからきっと大丈夫かな。クマ君とアライグマさんは森に帰るだろうから、僕たちは進もう」
キツネ君がそう言って、前に進みます。
「でも戻ったら必ず謝るんだよ、リスさん」
キツネ君はリスさんに言います。
「……それは…わかってるわよ」
ばつが悪そうにリスさんは言います。
こうしてなんとか川を渡り、三人はどんぐり池を目指してどんどん進んでいきます。
◇
川向こうの森を、どんどんどんどん三人は進んでいきます。
「ここが川向こうの森なんだね…こんなに近い森なのに、植物が全然違うんだね」
キツネ君が周りを見渡していいます。
「そうね…なんか、ちょっと殺風景ね」
リスさんが言います。
二人とも川向こうの森に来るのは初めてでしたが、たしかにこちらは少し森が寂しいです。
植物や繁った木が少ないように感じます。
「♪誰か~♪くる~♪」
コマドリ君が旋回しながら歌います。
と、現れたのは…
「オオカミだ!!」
唸り声を上げたオオカミが走ってきます。
「リスさん、掴まって!」
キツネ君はすぐさま叫ぶと、リスさんが自分の毛皮に掴まったのを確認して逃げ出します。
「あぁああぁ食べられちゃう~」
リスさんはキツネ君の背中で震えています。
コマドリ君は木よりも高く飛んで空から着いてきているようです。
「ぐるるる…」
しかし走るのはオオカミの方が速く、今にも追い付かれてしまいそうです。
もうダメだ、追い付かれる!!
その時。
ばたん! 「きゅ~ん…」
オオカミが倒れこんでしまいました。
「「えっ??」」
突然の出来事に、キツネ君とリスさんは驚きが隠せません。
恐る恐る近づくキツネ君とリスさん。
「ど、どうしたの??」
キツネ君が呟くと、
「お腹が減って力が出ないんだ…」
ぎゅるるる~…と、オオカミのお腹の音が聞こえます。
「えぇ~…いや、だから食べようとしたんでしょ!?」
リスさんが叫びます。
「いや、もし果物とか持ってたら分けてもらおうと思って…驚かせてごめんなさい…」
オオカミさんは倒れこんだまま謝ります。
顔を見合わせたキツネ君とリスさん。二人は頷きます。
◇
「「「さあ、食べなよ!」」」
三人は、採ってきた木の実や果物をオオカミさんの差し出します。
「えぇ、いいの?どうやってこんなに…」
オオカミさんは申し訳なさそうに答えます。
「木の上の方には少し残ってたから、集めてきたんだよ!僕ら皆高いところ得意だから!」
キツネ君が答えます。
「そうなのね…私はあまり木登りが得意ではないから…高いところの物は採ることができなかったの。ありがとう」
そう言ってオオカミさんは果物や木の実を食べました。
「ありがとう、お腹一杯になったわ」
元気になったオオカミさんが言います。
「良かった、もう私たちの事を食べないわよね?」
リスさんが聞きます。
「本当にごめんなさい、もう大丈夫よ。この時期は果物が少なくて食べるものがないのよ」
オオカミさんは申し訳なさそうに言います。
「そうなの?僕らの方の森ではこの時期は食べ物がたくさんある時期なんだけどな。生えてる植物が違うからかな」
キツネ君は驚きました。
自分達の森では今の時期は食べ物の多い時期です。
川を挟んでほんの少しの距離なのに、こんなに森が違うなんて。
「そうなの?うらやましいわね。で、あなたたちはなぜこっちの森に来たの??」
オオカミさんが尋ねると、
「♪願いの叶う~♪どんぐり池を~ご存知ですか~♪」
コマドリ君が歌います。
「知ってるけど、危ないから誰も近づかないの。…けど、助けてくれたから、案内してあげるよ!」
オオカミさんは答えます。
「ほんとに!?ありがとう!」
キツネ君は笑顔で言います。
「わざわざ森を渡ってくるなんて、何をお願いするの??」
「『逆さ虹』が見たいんだ!」
オオカミさんの問いに、キツネ君は答えます。
「なるほどね…私は『木登りが上手になりますように』ってお願いしようかしら。じゃあ行きましょう」
こうしてオオカミさんが道案内に着いて来てくれることになりました。
四人の冒険はどうなるのでしょうか。
◇
オオカミさんの案内で、森をどんどん進んでいきます。
森は暗く、とても静かでした。
「本当に食べるものが少ないわね」
リスさんが言います。
「今が一番少ない時期かな。これから増えていくのよ」
オオカミさんが答えます。
「そうなの!?あっちの森は今が食べ物多くて、これから減っていくんだよ。不思議だね、反対なんだ」
キツネ君が驚いた顔でいいます。
「止まって。さぁ、ここが一番危険なの…誰も近寄らないくらい」
オオカミさんは止まって、警戒し、身構えます。
「なにがあるの??こわいね」
緊張が伝わったのか、キツネ君も身構えます。
「ここは『根っこ広場』…どんぐり池に行くにはここを通らないといけないんだけど…もし居たら通れないよ」
オオカミさんはそっと歩みを進めます。
辺りの木のねっこが地面から顔を出しており、地面が見えないくらい根っ子ばかりです。
転ばないように、慎重に根っ子を跨いでいきます。
「♪あぶな~い~♪」
コマドリ君が慌てて言います。
キツネ君とリスさんは辺りを見渡しますが、何もありません。根っ子だけです。
「根っ子じゃない!」
オオカミさんが叫びます。
と、急に足元の根っ子が動きだし、皆を捕まえて動けなくしてしまいました。
「なによこれ!?」
リスさんが慌てています。よく見ると…
「蛇だ!ねっこじゃなくてたくさんのヘビだよ!!」
木のねっこに混じって、至るところからヘビが出てきました。
その数は10や20ではありません。
「うわっ…く、くるしいよ」
キツネ君は捕まってしまい、身動きが取れません。
辺りを見回すと、他の仲間たちも捕まってしまっています。
「ぴぃ~♪…モガモガ…」
こんな時でも歌おうとしたコマドリ君ですが、口を塞がれてしまいました。
「久しぶりの獲物だな…近頃じゃどんぐり池に行こうとする奴も減っちまった」
一際大きなヘビが喋ります。
「ヘビ!!底無し腹の大食いめ!離せ!!」
オオカミさんは出てきたヘビに唸ります。
「オオカミか。うるせぇな、俺は腹減ってんだ、黙って食われろよ」
ヘビは舌を出してチロチロと動かしています。
「さてと、んじゃいただきまーす」
ヘビが大きな口を開けた瞬間!!
「み、皆をはなせぇぇぇえ!!!」
大きな唸り声をあげ、巨体が走り込んできます。
巨体はそのままヘビに噛みつくように飛び込むと、ヘビはたまらず逃げて距離をとります。
「「「クマ君!!!!」」」
三人は、飛び込んできた仲間の名を一斉に呼びます。
「ヒーローは遅れて出てこないとな!…さて、形勢逆転だな」
アライグマさんが颯爽と登場しました。
「げほ、助かったよ二人とも!」「ありがと、あとさっきはごめん」
「♪生きてるって素晴らしい~♪」
ほどかれた三人は礼をいいます。
オオカミさんもクマ君の横にならんでヘビに唸っています。
「てめぇらここが誰の場所かわかってねぇようだな…」
ヘビはシャーっと威嚇の音を出しながら、牙を剥きます。
すると、辺りのねっこからさらにヘビが出てきました。
「ちょっと待って!ヘビさん!お腹空いてるんだよね?後で僕たちが食べ物を採ってきてあげるよ!だからここを通っちゃダメかな??」
キツネ君はヘビ君に語りかけます。
ヘビ君が皆を襲ったのも、食べ物がないからだろうと思ったのだ。
「あぁ…?本当にできるのか?」
ヘビ君は牙を剥いていましたが、キツネ君の言葉に半信半疑です。
「そうよ!そこのオオカミさんもさっき私たちが助けてあげたんだから!」
「♪そのと~り♪」
リスさんが言うと、コマドリさんも言います。
ヘビさんは何も言わずにオオカミさんを見ると、オオカミさんは頷きます。
「事実だ。お礼にどんぐり池まで案内しているんだ」
オオカミさんはヘビさんの視線に答えます。
しばらく考えると、ヘビさんが言いました。
「いいだろう、後で果物をたくさん持ってきてくれ。子供達にも食わせてやりたいからたくさんだ」
そう言ってヘビさんは警戒を解き、合図をします。
すると囲んでいたヘビは達は木のねっこの中に戻っていきます。
「ありがとう、ヘビさん!たくさん持ってくるからね!」
そうして仲間達は、ねっこ広場をなんとか通ることができました。
「クマ君、アライグマさん、ありがとう、助かったよ!」
キツネ君はピンチに現れた二人にお礼を言います。
「あの…橋で、さっきはごめん……あと、かっこよかったよ」
リスさんがクマ君に謝ります。
「僕が怖がりなだけだから…気にしないで。みんな無事でよかったよ…」
クマ君は優しい笑顔でいいます。
アライグマさんはそんなクマ君を見て、やれやれと言っていました。
◇
そうして皆で森を進み、ついにどんぐり池に着きました!
「ここがどんぐり池だよ」
オオカミさんが言います。
「言い出しっぺなんだ、キツネ君がやりなよ」
「う~ん……」
アライグマさんが言いますが、キツネ君の返事はいまいち乗り気ではありません。
「早く逆さ虹を見せてもらいましょうよ!」
そう言ってリスさんがドングリをいくつか池に投げ込み、「神さまー!」と
お願いすると…
池から、美しい女神様が現れました。
「かわいいお客様ね。あら、前回から随分時間が経っているわね。お願いは何かしら??」
女神はにっこりと微笑むと、言いました。
「あ、あの、逆さ虹を…」
と、クマ君が言いかけた所で、キツネ君が割って入ります。
「ちょっと待って!!!みんなにお願いがあるんだ!」
キツネ君の顔は必死です。
「どうしたの??言ってみて」
リスさんが尋ねます。
「あのね、橋を架けたいんだ。こっちの森と僕らの森を繋ぐ橋を」
「あぁ~オンボロ橋が落ちちゃったからね、でも危ないから元々誰も渡らなかったじゃない。意味ないわ」
キツネ君の言葉に、アライグマさんが言います。
「皆が渡りたくなるようなキラキラで、絶対壊れない、おっきな橋がいいんだ!そしたら、僕らの森の食べ物を、こっちの森の皆に分けてあげられるでしょ?それに、いつでも行き来できたら一緒に遊べるしね。どうかな?」
キツネ君は不安そうに皆に尋ねる。
「……あなたはどこまでもお人好しね。いいんじゃない?木登りをうまくしてくださいってお願いするよりはよっぽどいいわ」
リスさんは楽しそうに言います。
「墜ちない橋なら怖くないよな?」「うん!…たぶん…」
アライグマさんがクマ君に尋ねますが、語尾は弱めです。
「いいのか!?逆さ虹を見るために来たんじゃないのか!?」
オオカミさんが皆に尋ねます。
「♪たすけあい~♪すばらしきかな~♪」
コマドリさんはいっそう楽しく歌っています。
「みんな、ありがとう!女神さま、川に大きな橋を下さい!お願いします!」
そう言って全員が女神に頭を下げます。
「ふふふ、いいわよ!はい!」
満面の笑みの女神が両手を空に向けると、手のひらから虹のような輝きが溢れ出る。
「ありがとう、女神様!よし、行こう!!」
そういって仲間達はみんなで橋を見に走り出した。
◇
川沿いに戻ってきた仲間たち。
「あった!!!すごい!虹色の橋よ!!」
オオカミさんがいち早く駆けつけます。
「すごい、きれいね!キラキラしてる!」
リスさんも虹の橋を渡り、興奮を抑えきれません。
「こんだけでかけりゃ安心だな!クマ君よ!」
「うん!!!」
アライグマさんが言うと、クマ君は嬉しそうに虹の橋の真ん中で跳び跳ねます。
「これでいつでも簡単に行き来できるね!食べ物たくさん持っていくよ」
橋の真ん中でキツネ君が言います。
「ありがとう、本当にありがとう!でも、逆さ虹が見れなくなって本当にごめんなさい…」
オオカミさんの耳が力なく垂れてしまう。
と、大きな歌声が力強く響く。
「♪皆様~こちらへ~♪特別席へ~ご招待~♪」
コマドリ君が川を渡った先で歌っている。
なんだろう、と全員が首をかしげて虹の橋を渡り、コマドリ君の居る場所で振り返る。
と、みんなの目に入ったのは。
「♪水面に映る~♪逆さ虹~♪皆の思いが虹になり、橋になる~♪」
川の水面に虹の橋が映りこみ、逆さに見える。
まさに、美しい『逆さ虹』が見えていた。
「逆さ虹だ!!!逆さ虹の橋だよ!」
「やったね!すごい綺麗!」「うん!きれいだね!!毎日見れるよ!!」
仲間達は諦めたはずの『逆さ虹』を見れて、本当に嬉しかった。
皆で踊って、喜びを分かち合った。
食べ物を渡すために呼んできたヘビさんの子供達も、逆さ虹の橋をみて大喜び!
この感動は忘れられず、きっと子供にも、その子供にも伝わっていくだろう。
そして、こっちの森と向こうの森は、心の架け橋である『虹の橋』を渡り、協力してずっとずっと仲良く暮らしましたとさ。
語り継がれる物語と、『逆さ虹の森』の名前と共に。
おしまい。