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凡百英雄の|探索譚《イストワール 》  作者: サリチル酸メチル
3/3

|恩恵《ファブール》

 街の門を潜ると、まず目に飛び込んできたのは店や家屋、そして、大量の人だった。


 店の商品をおおきな声で宣伝する快活な主人、それを買い求める男。

 酒場からは、まだ昼だというのに酒盛りをしている男達の笑い声や歌が聞こえる。

 そして大騒ぎする男どもを見て呆れる女達。

 周囲では馬の蹄の音や金属と金属のぶつかる音、人の話し声がひっきりなしに聞こえる。


 ウルブの街は今まで見たことないほど賑やかで騒々しかった。


 そして何より、僕の目を引いたのは

(うわぁ…ドワーフやエルフだ…初めて見た。)

 自分とは異なる”亜人族”達だった。


 ややこげ茶がかった肌、大きな上半身にたくましい腕。

 しかしながらそれらとは対象的に短い足。

 乱暴にも映る豪快な振る舞いが彼らの性格を窺わせる。


 片や、長く艷やかな緑色の髪、整った相貌に長く尖った耳。

 美しくありながらも刺々しいオーラが近寄りがたい雰囲気を醸し出している。


 自分の容姿とは離れた彼らの姿に驚きと僅かな興奮を覚えながら僕はギルドのある塔の方へ歩みを進めた。



 塔へと向かう途中では、耳と尻尾、長い体毛を湛えた獣人族、女性しかいない人種のアマゾネスなどを見かけた。

 アマゾネスは露出の多い服を着たもの達ばかりで、少し目のやり場に困ってしまったが。

 その他、種族以外にも初めて見るものが多く、いろいろなものに興味をひかれっぱなしだった。




 間も無く塔に着こうかというところで、目の前に一際大きな人だかりが見えた。


 興味がわき、人混みをかき分けながら進むと開けた先に軽装の男と長身の男が見えた。

 状況を把握できずにいると、軽装の男の方が怒りを露わにした。


「俺が雑魚ってのはどういうことだ!」


「そのまんまの意味だよ。そんな能力でよく探索者をやろうなんて思ったもんだぜ。」


 長身の男がせせら笑う。

 どうやら長身の男が軽装な方を馬鹿にしたことが争いの発端のようだ。


「また恒例の弱者いびりかよ…。」

「まあいいんじゃないか?見世物だと思って楽しもうぜ。」


 周囲の野次馬からそんな言葉が聞こえてくる。

 こういう争いはこの街ではよくあるのだろうか、と思っていると。


「そんなに言うなら見せてみろよ!」

 軽装の男が吠えた。


「いいぜ。後悔するなよ。」


 二人がそれぞれ戦闘態勢をとる。


 戦いが始まる予感に野次馬は大盛り上がり。

  一部では賭けまで始まっていた。

 酒片手に声援を飛ばすものも見える。


  飛び交う野次の中、お互いが地を蹴り、唱える。


「「加護を(アレスト)!」」


 発声を合図に、長身の男の腕は”()()()()”、軽装の男の手からは”()()()()()()”。


 ――――――――――――――――――

 塔が下界にもたらした力。


 ”恩恵(ファブール)


 純粋な身体能力の強化と異能の力。

 人々に一つずつ与えられる異能。その種類は多岐にわたる。

 火を操ったり、体の一部を変容させたり、人を癒やしたり。

 それらの能力は人々に多くの可能性を与えた。

 ――――――――――――――――――


 話には聞いていた力。でも実際に使うのは僕も見たことがなかった。

 固唾を飲んで戦いの行方を見守る。


 先手をとったのは軽装の男の方だった。

 軽装の男が向かってきた相手へ向けて砂を放射する。

 放たれた砂の奔流が相手の上半身を襲った。

 たまらず顔を両腕で覆って守る相手へ間髪入れずに短剣を振り下ろす。

 直撃は必至に思われたが、長身の男は腕の刃で斬撃を受け止める。

 甲高い金属音が鳴り響く。


 軽装の男は腕への攻撃を諦め鉄のロングブーツをつけた足で相手の脇腹へ蹴りを放つ。

 しかしそれも脇腹からも伸びた刃に阻まれてしまう。


 お返しにと長身の男が拳を顔面向けて繰り出す。

 軽装の男は首をひねって間一髪で避けようとするも、刃の分リーチが長い。

 男の頬に一筋の傷が走った。


 ひるんだ軽装の男は後ろに跳んで距離を取った。


 長身の男は余裕を見せ、不敵に笑っている。


「クソッタレ!」


 軽装の男が苛立ちと共に特攻する。

 左手から先程よりも多量の砂を放ち、右手で斬り上げを敢行する。

 しかし今度は長身の男は防御ではなく右腕の刃を更に伸ばし、大きな刃で砂をなぎ払った。

 そのまま左腕の刃を振り下ろし短剣を迎え撃つ。

  2つの銀閃が交差する。


 次の瞬間、短剣のほうが悲鳴を上げて砕け散った。


 唖然とする軽装の男の首元に刃が当てられる。


 勝負は長身の男の勝ちで終わった。

 素人の僕から見ても力の差は歴然だった。


「だから言っただろう。そんな雑魚能力じゃ無理だって。」

 長身の男は刃を納め、嘲笑を浮かべて告げた。




 勝負の決着を見届けた野次馬たちが散り散りに各々の作業に戻って行く中、僕はギルドの方へ向かいながら考えていた。

 能力の優劣だけであれほどまでに力の差ができてしまうのだろうかと。

 探索者として上に行くためには強い能力があれば有利なのは当然だ。それは分かる。

 しかしもしも、戦闘に向かない能力だったらそもそも探索者としてやってはいけないのではないか。

 そんな考えが頭を埋め尽くす。

(うぅ…考えれば考える程胃が痛くなりそうだ…。)

 頭を振って暗い思考を頭の片隅に追いやる。


 気づけばもうギルドの目の前まで来ていた。


 塔に寄り添うように築かれたギルドの建物と天をつくような塔。

 塔の入り口では探索者が出たり入ったりを繰り返し、

 ギルドの方では依頼の受注や、探索者同士で談笑が行われている。

 亜人族も多くいる。


 僕は意を決して、ギルドの中へと足を踏み入れた。

読んで下さりありがとうございます!

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