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凡百英雄の|探索譚《イストワール 》  作者: サリチル酸メチル
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旅立ち

 一際馬車が大きく揺れた衝撃で目を覚ます。

 したたかに床にぶつけた頭を擦っていると、垂れ幕を除けて豊かなひげをたたえた御者がこちらを覗いてきた。


「悪いな兄ちゃん!ここらへんおっきな石が多いもんでなあ。」


「あ、いえ平気です。」


「ホントは他の道もあるんだがそっちだと遠回りでなあ。このあともちょくちょく揺れると思うからどっかに捕まっといてくれや。」


 じゃないと落ちちまうぞ、と笑って言い残して男は馬の方へ向き直った。

 冗談なのか本当なのかわからないが、落ちるのは嫌なので横についた金具を握りしめる。

 馬車に僕の他に客はいない。あるのは果物や酒などの入った木箱ばかりだ。

 荷台にスペースがあった荷馬車に頼み込んで乗せてもらっているのだから当然なのだが。


 人を乗せる用の馬車もたくさんあったのだがどれもべらぼうに高かったのだ。

 確かに柔らかい椅子などがあるのは魅力的だったが、移動にそんなにはかけていられないのでこの馬車を選んだのだ。

 ……とは言っても。御者はちょっとと言っていたが、正直ずっと揺れっぱなしだった。


(確かに快適に過ごせるって考えればあの値段も妥当だったかもしれない。)

 と、僕は座るのをとっくに諦め、立って揺れに耐えながら思った。


 揺れが徐々に収まり、穏やかな行路になってまもなく御者がまた声をかけてきた。


「ほら兄ちゃん、見えてきたぞ」


 御者に促されるまま、前方を伺う。


「目的地の要塞都市ウルブだ。」


 視線の先には高い石の壁に包まれた巨大な都市が見えた。

 壁のむこうには様々な形の建物の屋根が見える。

 東西南北にそれぞれある大きな門には多くの馬車や人が出たり入ったりしている。

 そして都市の中心には人工物とは一線を画す高い塔がそびえ立っていた。

 塔の幅は一定ではなく歪に歪みながらそびえ立っている


「あの大きな塔があの都市を栄えさせたものであり、あの都市が存在する理由さ。」


 そうだ、僕だってあの塔を目当てにあの都市へ行く。

 あの都市へ行く人は皆あの塔に関わって暮らしている。それぐらいあの塔がもたらす影響と恩恵は大きいのだ。

 あの塔はある時突然空から降ってきたのだそうだ。そして塔からは見たことのない生物、怪物(ネメリス)が大量に現れ、大陸中に進出した。


 一時は多くの村々が獰猛な怪物(ネメリス)達に襲われたものの、一部の王や戦士が立ち上がり協力して大軍を為し、徐々に人類の拠点を取り戻していった。

 最終的に怪物(ネメリス)達の住処であるこの塔にたどり着いた戦士達は塔の周囲を高い壁で囲い、怪物(ネメリス)達が出てきたときにすぐ対処できるようにしたのだ。


 しかし塔は脅威だけを人類に与えたわけではなかった。塔の中には人類にとって有益なものが多く存在したのだ。

 その結果ウルブは人類の防衛線であると共に、人類最大の都市となったのだった。


「なあ兄ちゃん、あの街に行って何をするつもりなんだ?」

 御者が興味津々に聞いてきた


「探索者に、なりたいんです。叔父がそうだったので。」

 僕はゆっくりと自分にも言い聞かせるように言った


「探索者か……俺はただの運び屋だから詳しいことは知らないが命を落とすことも多いって話だぜ?」


「それでもなりたいんです。どうしても。」


「そうか!男の夢を止めるのは野暮ってもんだしな、これ以上は言わねえ。頑張れよ。応援してるぜ!」

 男は僕の背中を豪快に叩いて笑った。


 話しているうちに気づけばもう門が目の前に迫っていた。


 僕は荷物を手に取り馬車を降りておじさんにお礼を言った。


「ありがとうございました!」


「おう!また会えることを願ってるぜ。そうだ、ほらこれをやるよ。」

 と男は荷台から何やら探し出すとこちらに放ってきた。


 手に取るとそれは乾燥した木の実がついた腕輪だった。


「俺の住んでる村のお守りみたいなもんだ。腕っぷし強い母ちゃんが作ったやつだからな。きっと逞しくなれるぜ。」


「何から何まで、ありがとうございます!おじさんも元気で!」


 腕輪を付けた手を振り、僕はおじさんと別れた。

 終始明るい人だった、と僕はあの馬車に乗ったことを幸運に思いながら街へと向かった。

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