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「では明日から通常授業だが、1限目は委員を決めるから考えて来いよ。以上だ。皆気をつけて帰るように」


 神田先生はそう言うと教室を出て行った。

 待ちに待った放課後です。

 円香さんを誘うため、筆記用具やプリントを急いで鞄にしまう。


 その時、後から肩を叩かれた。

 振り向くと3人の女の子が立っていた。


 何の用だろうか。

 女の子1人なら大歓迎だが、3人になるとちょっと怖い。

 集団の女の子に良い思い出がないというのもあるが、少し警戒してしまう。

 

 3人を(いぶか)しげに見ると、その内の1人がニコニコして私に喋りかけてきた。

 

「星野さん、この後時間ある? よかったら私達が校舎を案内しようと思ったんだけど……」

「えっ? いいんですか?」

「うん、もちろん。転校してきたばかりで不安かと思って」


 なんて優しい人達だろうか。

 警戒してしまってごめんなさい。

 やっぱり、この世界は一般的に皆優しいんだね。

 前の学校が特殊だっただけで……。

 この申し出は今の私にとって、とてもありがたい。

 円香さんとの下校もいいけど、折角の友達を作るチャンス!

 残念だけど、円香さんは明日誘う事にしよう。


「ありがとうございます。それではよろしくお願いしますね!」

「良かった。断られたらどうしようかと思ってたの。じゃー行きましょうか」

「はい!」


 私は新たな友達ができるかもしれないと、ウキウキして3人の後に続いて教室を出た。

 



  ♢ ♢ ♢ ♢




 どうしてこうなった?


 確か私は学校案内してもらっていたはず……。

 それが今では人気(ひとけ)の無い場所で、私は壁を背中にして3人に囲まれています。

 先程までのニコニコ顔が嘘の様に、3人は私を睨んでいる。


 前の学校でも似たような事があったけど、違うよね?

 きっと私と友達になりたいんだよね? 

 

「えっと……これはどういう事でしょうか?」


 私は答えが知りたくて質問してみた。

 これは呼び出しではなく、私の知らない流行りの遊びかもしれない。

 そう、思いたかった。


「まだ分からないの? 頭悪いわね」


 1人がそう吐き捨てた。

 不穏な空気が辺りを包む。

 

 やっぱり呼び出しだったか……。

 私は朝から優しい人達に会いすぎて、どうやら頭に花が咲いていたらしい。

 普通に考えて、世間一般的に皆が優しいわけないよね。

 これが普通。攻略キャラ達が優しすぎただけ。

 という事は、私に友達を作るのは不可能なんではないでしょうか……。

 あれ? やっぱり私ってぼっち確定なの?


 私の顔はみるみる青ざめていく。

 それを怯えと解釈した3人は不敵に笑う。 


「貴女、朝に何したか覚えてる?」

「倒れはしましたが、何かした覚えはないです」

「貴女ワザと生徒会の方達の前で倒れたでしょ! 意識が無いフリして、水野様にお姫様抱っこしてもらうなんて、図々しいにも程があるわ!!」 


 えっ? 私お姫様抱っこされてたの?

 そんなの聞いてないし、恥ずかし過ぎるんですが……。


「顔を赤らめるんじゃないわよ! その反応、やっぱりワザとなのね!」

「いや、ワザとではないです! 不可抗力です!」


 私は必死に手を使って否定する。

 そんな事がワザとできる演技力があるなら、私女優になれちゃうよ。


「それに佑君とも仲良く喋ったりして、なんなの貴女! この学校のルールを知らないとは言わせないわよ」


 えっ?

 あの言葉のキャッチボールできてない会話が、端から見れば仲良く喋ってる様に見えたの?

 それに「この学校のルール」とか言われても、転入初日にわかる訳がない。

 あっ、でも円香さんに1つ教えて貰ったけ。


「何人たりとも生徒会役員の行く手を(はば)んではいけない……でしたっけ?」

「それだけじゃないわよ! 生徒会の方々と親しくしてもいいのは、選ばれた方達だけ! こんな有名な話を知らないふりするんじゃないわよ!!」

「いえ、本当に知らないんです! そもそも、転入したばかりで知るわけないじゃないですか!」

「そんな訳ないわ、他の学校でも有名な話よ。とぼけても無駄よ! 知らないとすればよっぽどの田舎……」


 そう言いかけて、彼女はハッと目を見開いた。


「貴女、前の学校はどこなの? どこか山奥から来たの?」

「クロエ聖女学院です。一応都会ですが、外からの情報はあまり入ってきませんでしたね」


 クロエ聖女学院の名前を聞いたとたん、3人は固まった。

 

 はて? 一体どうしたと言うのだ。

 お嬢様学校というだけで、普通の学校と全く変わらないんだが。


 正気を取り戻した1人が確認する様に私に訊ねる。


「貴女あのクロエに居たの?」

「はい、初等科からクロエに通っていました。でも、お父様にこちらに通うように言われまして……」

「そう……。ところで伊集院 綾女(あやめ)様とは知り合い?」


 伊集院 綾女様といえば、クロエ聖女学院のトップだ。

 家柄、頭脳に容姿、全てを兼ね備えた全令嬢の憧れの方。

 プライドも高い綾女様は、異分子の私が気にくわなかった。

 だから排除しようとして、私は嫌がらせを受け続けたわけだが……。

 彼女は今頃、私が居なくて清々している事だろう。

 そんな彼女と知り合いかと言われれば、知り合いだ。

 私は彼女を知っていて、彼女もまた私を知っているのだから。


「えぇ、知り合いですね」


 そう答えると3人は顔を青ざめさせた。

 本当に一体どうしたというのか。

 綾女様に何かあるのだろうか?

 彼女とは極力関わってこなかったため、ほとんど情報を知らない。


「あの……綾女様に何か」


 あるのですか? と言う前に彼女達は一斉に頭を下げた。


「「「申し訳ありません!!」」」

「この事はどうか綾女様には言わないで下さい!!」


 彼女達は涙目で私に懇願(こんがん)し始めた。


「えっ? えぇ、それは別に構わないわ。元々言うつもりもなかったですし」

「ありがとうございます! 貴方様の慈悲深きお心に感謝致します」 


 そう言うやいなや、彼女達は駆けだして行ってしまった。

 1人その場に取り残される私。


 えっ? 待って!

 置いていかれると困るんですが!!


 その思いとは裏腹に、彼女達の姿はあっという間に見えなくなってしまった。


 どうしよう……ここがどこだか分からないよ。

 

 悲愴感(ひそうかん)を漂わせ始めた私の耳に、人の笑い声が聞こえた。


 誰か居るみたいで良かった。

 これで迷子にならずにすむ。


「あのー誰か居るんですか? 帰り道を教えて欲しいんですけど」


 私がそう言うと、笑い声は更に大きくなった。

 その人物は建物の影から姿を現して、めちゃめちゃ笑っていた。


「親衛隊を謝らせただけでも面白いのに……迷子とか……お姉さん面白すぎるよ」


 そう言ってまた笑いだす彼は、攻略キャラ桜木 (みなと)だった。

 

 なぜ、彼がこんな所に居る!!

 彼が居て助かったが、なんだか素直に喜べない。

 また攻略キャラと関わってしまった。

 これで全員に会った事になる。

 1日で全員に会うとか、遭遇率高過ぎやしませんか?

 まぁいい。私のスキルは攻略キャラに対してだけは最強なのだから。

 

 意を決して彼に尋ねる。


「あの、お楽しみのところ申し訳ないのですが、今日転入したばかりで帰り道がわからないんです。教えていただけませんか?」


 彼は笑いながら鞄から紙とペンをだすと、サラサラと何か書き始めた。

 少しして、書き終えた紙を私に差し出してくれた。


「ありがとうございます……」


 取ろうとした瞬間、彼は紙を持った手を上に上げる。

 私はその紙を無意識に目で追って、彼とバッチリ目が合った。


「お姉さんお名前は?」

「あっ、失礼しました。2年の星野 宇宙と申します」

「僕は1年の桜木 湊。宇宙ちゃん、僕の事は湊って呼んでね」

「いえ、親しくもない男性を名前で呼ぶなどできません」


 慌てて拒否したが、彼はさっきよりも威圧的に「湊って呼んでね」ともう一度言った。

 笑顔なのに威圧的って凄いな。

 そういえば彼は……。


 記憶を思い出そうとした時、彼に腕を(つか)まれウルウルと涙を溜めた目で言われた。


「そんなに僕の事、名前で呼ぶの嫌なの?」

「い、嫌ではありません。では、妥協して……湊君でどうですか?」 

「それでいいよ」


 湊君の涙は一瞬にして引っ込み、私が名前で呼んだ途端笑顔になった。

 

 何この可愛い生き物。

 とっても甘やかして、頭をなでなでしたい衝動にかられる。

 これが……これが攻略キャラの力なのか!!


 そこで私はふと思った。

 あれ? なんかこの状況を見た事ある気がする。

 もしかして……。

 私はゲームの冒頭を思い出す。


 確か朝の事でヒロインが親衛隊に呼び出されて、注意を受けている所に湊君が現れて助ける。

 そこで湊君の好感度を上げるイベントがあったはず。


 えっ? もしかしてヒロインのイベント奪っちゃった?

 朝ヒロインよりも目立ってしまった事で、イベントがヒロインではなく、私に起こってしまったようだった。


 待て待て待て。私にイベントなどいらない。

 イベントは、ヒロインと攻略キャラ達だけで勝手にやっていただきたい。


 しかし、既にシナリオからははずれかけているこの状況をどうすればいい?

 シナリオからはずれた場合、どうなるかわからない。

 何も変わらなければいいが、最悪破滅ルートが早まるという場合もある。


 さぁーと青ざめていく私の顔を見て、湊君は心配してくれた。


「宇宙ちゃん大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

 

 そう言って湊君の顔を見上げた時、人影がある事に気付いた。

 

 まさか……本当に!?

 彼女は救世主だわ!!


 湊君の後から、ヒロインの水谷 朱梨(あかり)がキョロキョロと辺りを見回しながら、こちらに向かっているのが見えた。

 

 私はこれ幸いと、急いで先程湊君が居た建物の影に身を隠す。

 まったく状況がわからない湊君は、不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

 私は「しー」と口の前で人差し指をたて、ジェスチャーで湊君に伝える。

 湊君はコクコクと頷いた後、コテンと首を(かし)げた。

 頭にハテナマークの幻影(げんえい)が見える。


 あぁ、可愛い!! 撫で回したい!!

 でもできない。私には正規ルートに戻すという使命がある。 

 

 丁度その時、ヒロインが湊君の前で派手にこけた。

 湊君はビックリした後、慌ててヒロインにかけより「大丈夫?」と声をかけ、助け起こした。

 「ありがとう。大丈夫です」と笑顔で言うヒロイン。


 よしよし。この状況スチルで見た事がある。

 予定とは少し違うけれど、スチルがある重要なイベントは起きた。

 良かったぁー。シナリオ通りに戻って。


 ホッとして胸をなでおろし、ヒロインと湊君のやりとりを引き続き観察する。


「君、朝も転んでなかった?」

「すいません!! 気をつけてはいるんですけど、私よく転んじゃうんです」

「ふーん。まぁ、これからはもっと足元に気をつけてね」

「はい、気をつけます」


 美男美女が目の前でほのぼのしている姿は、見ていて凄く癒される。

 これが目の保養ってやつかな?

 それにしても、実際にイベントを目の前で見るというのは、なんだかワクワクする。

 ゲームとは違い、些細(ささい)な表情の変化まで見れるというのもあるが、ヒロインがどの選択肢を選ぶのか分からないドキドキ感がある。


 これからもイベントが起きるなら、また見れるのではないか……。

 私の心の中の悪魔が(ささや)く。

 そんな事をしたら、生徒会の方達と関わってしまうリスクがあるわ。

 天使はそう言うが、またもや悪魔は囁く。

 この最強スキルがあれば、万が一があっても切り抜けられる。イベント見たくないの? 


 もう悪魔の圧勝だった。

 こっそり(のぞ)けば大丈夫だよね。

 ヒロインが誰のルートを選ぶかは分からないが、体育祭まではルートが分岐してないから同じはず。

 これはもう見るっきゃないでしょう!

 その間に誰のルートに入りそうか予測して、その人を徹底的に避ければ効率も良いではないか。

 私って天才!!


 私はヒロインの起こすイベントを見たいがために、ヒロインの恋をこっそり観察する事に決めたのだった。



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