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 私は頭の中で整理が終わると、意識を現実世界に戻し、ゆっくりと目を開けた。

 真っ白な天井と先程色気を撒き散らしていた副会長の整った顔が同時に眼に入る。

 な、なぜ彼がここにいて私を覗きこんでいるのだ。

 関わらないと決意してから、一瞬でエンカウント。

 私は驚きすぎて、固まってしまった。


「そんなに睨まないでよ。ここまで君を運んだのは俺なんだよ」


 フッと甘く微笑む副会長はまたもや色気を撒き散らしている。

 目だけを動かして辺りを確認すると、ここが保健室で私はベッドで横になっていると分かった。

 そして、副会長はなぜか私のベッドの横の椅子に腰掛けている。

 私は外で倒れたのでここに居るという事は、副会長が言うように、彼がここまで運んでくれたのだろう。

 関わりたくはないが……助けてもらったのなら、お礼するのが人として当然の事。


 私は慌てて起き上がり、ベッドの上で正座をして、姿勢を正してから深々と頭を下げた。


「意識を失った人間は重いというのに、ここまで運んでいただきありがとうございます。後、睨んでなどいません。元々目つきが悪いんです」

「そうなんだ……うん、とっても重かったよ」

「すいません! ご迷惑をお掛けしました!」

「取りあえず顔をあげてくれる?」


 私はしぶしぶ顔をあげると、彼は満面の笑みでこう言った。


「感謝の気持ちは言葉より、体で返してくれる?」

「はっ? それは一体どうゆう意味でしょうか?」

「俺に奉仕してって事」


 色気ムンムンにそんな事を言われたら、卑猥な意味で勘違いしてしまいそうだ。

 でも、そんな事はありえない。

 女性を選びたい放題の彼が、私をわざわざ選ぶはずはない。


「それは労働という事でしょうか? 何をすればいいですか?」


 私の言葉に驚いた様に目を丸くする副会長。

 驚いた顔でも、顔が整っているというだけで、まるで絵画の様に様になる。

 そりゃそうか。彼は攻略キャラでスチルも素晴らしく綺麗だったのだから。

 副会長の顔をマジマジと見てくだらない事を考えていると、彼はいきなり笑いだした。

 

「ハハハハハハ、あぁーごめんね。からかおうと思ってたのに、君が真面目に返答するからおかしくて」

「からかってたんですか? 通りで言い方が遠回しだと思いました」

「ごめんね。そう、君のいう通り労働というか手伝ってほしい事があってね」

「私に出来る事ならお礼に手伝いますよ」

「ありがとう。じゃー明日からよろしくね。今日は倒れたんだから無理しちゃいけない」


 副会長は馴れた手つきで私の頭を撫でた。

 これがモテ男のスキンシップか。

 さり気なく、しかも嫌悪を感じない程度に。攻略キャラ恐るべし。

 ほぉーと感心していると、副会長はまた笑った。


「君は面白いね。俺は3年の水野 蓮。こう見えて生徒会の副会長なんだ。君の名前は?」

「2年の星野 宇宙(そら)です。宇宙と書いてそらと読みます」

「2年生なのに、宇宙ちゃんを見かけた事はないな……。その容姿なら目立つでしょ?」

「今日から転入してきたんです。そうですね、このきつい目は悪い意味で目立ちますね」

「別に悪い意味で言った訳じゃないけど……そうか、なら俺が知らなくて当然だな」


 副会長はチャラい見た目に反してとても真面目で優しいらしい。

 助けてくれたのもそうだし、今だって私が傷付かない様に容姿をフォローしてくれる。

 そして、彼は副会長という立場だからこそ、約3600人いる全校生徒の顔を把握しているようだ。

 だから、私を一発で見た事がないと言い当てたのだ。

 確か、ゲームの中での彼も優しいが、こんな真面目ではなかったはずだ。

 私の性格も違うし……ゲームの設定とは少し違いがあるのかもしれない。 

 人は見かけで判断してはいけない。正にその通りだ。

 私は彼の性格を前世の記憶という先入観だけで決めつけてしまっていた。

 こんな真面目で優しい人こそ生徒会役員に相応しいではないか。

 思わず尊敬の念を込めて副会長を見つめた。


「なんか凄く勘違いされてそうだけど……まぁいいか」


 彼は困った様に目尻を下げ、頬をかいた。

 私はそんな彼に気付かず、興奮気味に詰め寄った。


「あ、あの水野様か副会長様、どちらでお呼びすればいいですか?」

「そんな大層な……蓮でいいよ、宇宙ちゃん」

「いえ、尊敬する先輩を呼び捨てなどできません!」

「えぇー別に気にしなくていいのに」

「私は気にします! では……蓮様でどうでしょうか」

「あぁー、じゃーそれで」

「はい、蓮様」


 自分の意見を肯定され、嬉しくてニマニマしていると、蓮様は後を向いて何やらブツブツと言っている。

 自分の思考に没頭している蓮様の邪魔をするのは気が引けるが、私には聞かなければいけない事があった。


「あのー蓮様。明日からのお手伝いですが、連絡はどうしましょうか?」


 蓮様は勢い良くこちらに向き直ると、おもむろに携帯を取り出した。


「宇宙ちゃんの携帯番号は?」

「えーと080-○○○○-○○○○です」


 言い終わると同時に、ポケットに入っている私の携帯が震えた。

 慌てて取り出し画面を見ると知らない番号からの着信。


「それ俺の番号だから。誰にも教えないでね」

「はい、登録しておきます。それに勝手に誰かに教えたりしませんよ。個人情報ですから」


 「そうだね……」と蓮様は微妙な顔をして頷いた。

 はて? 私は何かおかしな事を言っただろうか?

 

 私は前世も今世も友達がいない。

 だから、何かおかしな事をしていてもわからない。

 普通前世の記憶があるなら、チートな何かがあるはずだろう。

 確かに、未来予知的な物はあるがたったそれだけ。

 人間関係スキルは壊滅的。

 

 私は何が蓮様の気分を害したのかわからずオロオロしていると、蓮様の手がまたもや私の頭を優しく撫でる。

 蓮様の顔を見ると、また笑っていた。

 私の何かが気分を害したというのに、彼はそれを許し、私が気にしないように微笑んでまでくれる。

 なんて、優しい人なんだろう。

 こんなダメダメな私にまで気にかけてくれるなんて。

 蓮様はもはや神様なのではないだろうか。


「また何か勘違いしてるみたいだけど……今日はゆっくり休んでね。また連絡する」


 蓮様はそう言うと椅子から立ちあがり、保健室を出て行った。

 私はその時、蓮様の神的人格を崇めるあまり、大事な事が頭からすっぽ抜けていた。

 

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