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乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど、ヒロインの恋をこっそり観察しようと思います  作者: 彩心
1学期

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 はぁーっと生徒会長がため息を吐くと、それまでの空気を変えるかのように、低い声で3人の方を見て言った。


「それはそうと……蓮、(たすく)、湊! お前等このクソ忙しい時に遊んでいたそうだな?」


 蓮様は慌ててそれに対して、すぐさま否定をする。


「俺は遊んでねぇーよ。見ろよ、この湿布をーー」


 蓮様が湿布を貼ってある自分の左腕を指差して、そう言いかけた時、湊君がニコやかな笑みを浮かべて「SNS」と呟いた。

 その言葉を聞いた蓮様は固まってしまった。


 「SNS」が一体どうしたというのだろうか?

 「SNS」ってあの「SNS」の事だよね?

 いや……もしかしたら生徒会役員の間で使われる隠語かもしれない。

 だって、あのいつも余裕たっぷりな蓮様が「SNS」と聞いて固まってしまうのだ。

 絶対「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」の「SNS」なんてものではなく、重要案件などの凄い意味が隠されているに違いない。

 それが何かは分からないけれど……。

 

 そうこうしている間に、蓮様は再起動したようだ。


「い、いや事情は言えねぇが、本当に俺は遊んでないから!」

「ほぅ? なんで事情が言えないんだ? 遊んでないなら言えるだろう?」


 生徒会長が蓮様を睨みつけながら問う。


「うっ、だからそれは湊がーー」

暗黒王子(ダーク・プリンス)


 蓮様の言葉に被せるように湊君は言った。

 「SNS」の次は「ダーク・プリンス」?

 

 「S」は生徒(student)、「N」は厄介者(nuisance)、「S」停学(suspension from school)案件の隠語かと思ったんだけど、そこに「ダーク・プリンス」まで入るとなると……分かった!

 「ダーク・プリンス」とは「裏生徒会」の事ね!

 しかし「裏生徒会」なんて設定はなかったけど……えっ? もしかしてまた裏設定的な何か?

 それとも、私が死んだ後に「恋と危険な生徒会2」なんてものが発売されて、その攻略対象が「裏生徒会」の役員で……でも、それなら蓮様達並に目立つ人達が居るはずよね?

 

 うーんと悩んでいる私をよそに、蓮様は青ざめた顔で湊君に問う。


「湊……お前が何で知ってんだ?」

「えっ、逆に何で僕が知らないと思うの?」

「じゃあ、もしかしてアレも……」

「アレって雷の事?」


 「うわあぁぁぁー」と蓮様は急に叫びだし、手で顔を覆った。

 その様子を湊君はニコニコと眺めている。

 そんな二人を呆れた様子で見る生徒会長。


「忙しいと言っているのに、まだ遊ぶつもりか?」

(いつき)! この状況はどう考えても湊だけが遊んでるだろ!」

「弱みを握られるお前も悪い。さっさと仕事しないと、俺もいらん記憶が(よみがえ)りそうだ。暗黒王子(ダーク・プリンス)について……」


 ニヤッと人の悪い笑みを浮かべた生徒会長は蓮様を見る。


「ま、まさかお前も知って……」


 蓮様は目を見開いて生徒会長の顔を見た。

 生徒会長は何も言わず、ただ笑みを深めた。


「嘘だろ……なんでお前等が知ってーー」

「ダーク・プリンスってなんだ?」


 そんな3人の間に五十嵐君の呑気な声が割って入る。


 えっ? 五十嵐君が知らないという事は「ダーク・プリンス」は「裏生徒会」の事じゃないの?

 では、一体何なのか……答えが気になって、私は耳に意識を集中させる。


 五十嵐君の質問には湊君が答えてくれた。


暗黒王子(ダーク・プリンス)っていうのはね、雷を操って人間共を恐怖に落とし入れるって言っている、雷の日に現れる王子様の事だよ」

「へーそんな王子がでるアニメがあるのか。面白くなさそうだな」


 五十嵐君がそう言うと、蓮様は何故かダメージを受けたようで、涙目で五十嵐君を見ていた。


 なんだ、アニメの話か。

 私の考えすぎだったか……蓮様はそのダーク・プリンスってアニメが好きで、それを隠していただけなのね。

 でも、なんでそれを隠してたんだろ? 恥ずかしかったのかな? 

 ダーク・プリンスって名前がダサイし、なんか弱そうだもんね。

 確かに五十嵐君の言う通り、面白くなさそう……。

 

 そう思いながら私は席に座り、プリントを折る作業に取り掛かる。

 

「そうだよね。ぷっふふ……絶対面白くないよね」

「湊、もうその辺でいいだろう。遊んでいたお前らには仕事を増やしておいた。それぞれの指示はこの紙にまとめておいたから、ちゃんと仕事しろ!」


 そう言って3枚のプリントを机の上に置く生徒会長。

 蓮様は亡霊のように静かに紙を取ると自分の席に戻って行った。


「ちぇー、僕まだ遊び足りないんだけど……」


 湊君は唇を尖らせ、分かりやすく不満を表していたが、生徒会長の一睨みで「わかったよ」と言うと紙を取って大人しく自分の席へ向かう。


「俺は……まぁー遊んでたのかな?」


 そう言って、プリントを取りながら顔を赤らめる五十嵐君。

 

「んっ? 顔が赤いが何かあったのか?」

「いや……あの……さっき女に抱きつかれたのを思い出して……」


 それを耳ざとく聞いていた美央ちゃんが五十嵐君に聞く。


「佑! その女は誰? 許可無しに抱きつくのは禁止事項のはずよ!」

「水谷 朱梨って言ってたかな……でも、ワザとじゃないんだ! ちょっと虫に驚いて俺に抱きついただけだから」

「ふぅーん、水谷 朱梨って確か昨日の女ね……」


 美央ちゃん……なんだか目がとっても怖いんですが……。

 五十嵐君はそんな美央ちゃんの様子を見て、触らぬ神に祟りなしとでも言わんばかりに、そそくさと自分の席へと戻っていく。


 それにしても、五十嵐君はヒロインと接触してたのね。

 確かにイベントではないけど、ゲームでも校内のあちこちに行って攻略キャラ達と会って、好感度を少しずつあげるものがあった。

 あぁー失念してたぁー。

 スチル付きのイベントしか私チェックしてなかったよ。

 出来る事なら、そういう会話のシーンも見てみたい。

 

 きっと五十嵐君がヒロインと会ったのは、中庭ね。

 中庭の花壇の花を愛でていたヒロインの肩に蜘蛛が乗っていて、偶然後を通りかかった五十嵐君がそれを発見して「おい、お前肩に蜘蛛ついてるぞ」って声をかけるのよね。

 そして、蜘蛛に気づいたヒロインに選択肢がでる。


 1 驚いて抱きつく

 2 蜘蛛を自分でとる

 3 怖すぎて固まる


 確かこんな感じだったと思う。

 神田先生ルート出すために、最初の方は何回もやったから何となく覚えている。

 で、この3つの中で一番好感度が上がるのが1番の「驚いて抱きつく」だ。


 ヒロインさんよ……もしかして五十嵐君狙いだったりする?

 私がさっき五十嵐君のお姫様抱っこでときめいてしまったからとか……いやいや、まだ分からない。

 まだ序盤の序盤だからね。

 

 もし、私がときめいた事でヒロインの選択肢が変わると仮定すれば……次は蓮様がヒロインと遭遇する率が高いという事になる。

 今日はもう遅いから遭遇はないだろうし、明日は1日新入生オリエンテーションだからそれもない。

 という事は、明後日蓮様の動向を観察していれば、ヒロインとの遭遇があるのでは!!

 

 もし無かったら無いで、私のトキメキとは関係ないと分かるし。

 よし、明後日は蓮様の後を影ながら見守ろう!


 そう決めて、黙々と作業していた手元から視線を上げると、そこには素晴らしい光景が広がっていた。

 生徒会の優れた容姿を持つ面々が真剣な顔をして、仕事を淡々とこなしていく姿はまるで1枚の絵画のようだった。

 まさに圧巻の一言に尽きる。

 

 こ、これは……スチルがあってもいい光景ではないのか?

 しかし、そんなスチルはゲームの中にはない。

 という事は、私だけが見れる光景という事……。


 あぁ、素晴らしい!

 転生ってなんて素晴らしいんだ!


 悪役令嬢なんかでなければ……。


 ガクッと肩を落として、作業をしていると生徒会長に声をかけられた。


「あっ、そうだ星野。明日新入生オリエンテーションがあるのは知っているか?」

「はい、知っています」

「今日のついでというか……明日も生徒会の仕事を手伝ってくれないか?」

「えっ?」

「人手は元々足りないんだが、無闇やたらに手伝いを頼む訳にはいかない。だが、星野なら美央とペアで動けるんじゃないかと思ってな」


 ちょっと困ったように言う生徒会長。


 えっ? 生徒会の仕事の手伝いは今日限りだと思っていたのですが……。

 しかも、明日はイベント満載の新入生オリエンテーションですよ?

 こっそり授業を抜け出して、イベントポイントで待機するという予定が私には既にあるのですよ。

 申し訳ないですが、ここは断らせていただきます!


 そう思って断りを入れようと口を開きかけた時、美央ちゃんに期待の眼差しを向けられている事に気付いた。

 キラキラと光る瞳に少し嬉しそうな表情をされると、もの凄く断りずらいんですが……私はイベントをこの目で見たいのです!

 ここは心を鬼にして……。


「もちろん授業は公欠扱いになる……が、やはり急に言ってはダメだったか?」


 生徒会長がシュンとした顔でこちらを見る。

 美央ちゃんもそれを聞いてシュンとしてしまった。


 あぁー美央ちゃんに悲しそうな顔をさせてしまった。

 こんな私とせっかく友達になってくれたというのに、こんな顔をさせてしまっては友達失格ではないか!

 

 美央ちゃんとペアならば、他の攻略対象と関わる事はないだろうし、さっさと用事をすませてイベントポイントへ行けばいいだけだ。

 ちょっと大変だけど……友達のため、ここは頑張ろうではないか!

 

「いえ、大丈夫です。美央ちゃんと一緒ならば喜んでさせていただきます!」

「そうか、良かった」


 生徒会長がホッとしたように言うと、美央ちゃんも嬉しそうにこちらを見て微笑んだ。

 

 美央ちゃん! 何そのエンジェルスマイル!

 凄く可愛すぎて抱きしめたい衝動に駆られるよ!


 私はそんな衝動を必死で抑えて、美央ちゃんに微笑み返す。


「えー美央だけずるい! 僕も宇宙ちゃんと一緒に仕事する!」


 バンッと机を叩いて立ち上がって抗議する湊君に生徒会長は冷たく言い放つ。


「ダメだ! もう持ち場は決まっている。湊は蓮と一緒だ。変更は認めん」

「えー蓮とかぁ……まぁ、いっか。蓮に八つ当たりすれば……」


 湊君は何やら納得して、そのままストンと椅子に座ると、今度は蓮様が立ち上がった。


「おい、樹! 湊がなんか怖い事言ってんだけど!」

「大丈夫だ。お前がそれを全てかわせば何も問題はない」

「という事で明日よろしくね、蓮」

「マジかよ、最悪……」


 ニコニコと可愛い笑顔の湊君と青い顔をしている蓮様。

 そして、隣でそんな2人を見て「今回はこのペアなのね……いいわ」と言って、楽しそうな美央ちゃん。

 

 2人は楽しそうだけど、蓮様が青い顔するぐらい明日は大変なのね……。

 でも、私はやってみせる!

 明日は少しでも隙間を作って、絶対にヒロインを観察してやるんだから!

 

 



 

 


 


  

 


  


  


 

 




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