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乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど、ヒロインの恋をこっそり観察しようと思います  作者: 彩心
1学期

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13/16

番外編 放課後の生徒会室(蓮視点) 前編 

すいません、長くなったので前編後編に分けます。



 生徒会室の自分の席で、明日の新入生のオリエンテーションの最終確認を終えた俺は、同じ姿勢で凝り固まった体を両手を上に上げ伸ばした。


 やっと終わった。

 春休みを返上して準備してきたので、本当に疲れた。

 (いつき)に「生徒会に入れば自由に使える部屋が貰えるぞ」っと甘い言葉を(ささや)かれ、それに釣られて入った生徒会。

 部屋は確かに貰えた……だが、仕事は多いし、休みが無くなって女の子と遊ぶ時間は減るしで「騙された」と気付いた時には遅かった。

 

 「水野様頑張って下さい」とか「お仕事している時の水野様はカッコイイ」なんて、道行く様々な場所で可愛い女の子に言われ続けたら、それはもう頑張るしかなくなるよね。

 後で気づいた。

 俺の弱点を知っている樹が手を回したんだって。


 まぁ、なんだかんだ居心地が良くなって、生徒会も今年で6年目。

 でも未だに大量の仕事だけは慣れない。

 今だって見ないようにしているが、俺の机の上には大量のプリントが置かれている。

 多分樹が置いたんだろうな……。

 俺は何も見ていない。

 さて、休憩するか。


 フカフカの座り心地の良いソファに移動すると、先に仕事を終えていた幼馴染みの双子の湊と美央が先に休憩していた。


「蓮も休憩? 待ってて紅茶入れてくるから」


 俺に気付いた美央は俺の紅茶を用意するために席を立った。

 そこで思い出したかの様に俺に言う。


「蓮は絶対湊の隣だからね!」


 ビシッと俺を指差して、釘を刺していく美央。

 俺は「はいはい」と適当に返事をして、言われた通りに湊の隣に座る。


 本当は男の隣になんて座りたくない。

 湊は「天使の様に可愛い男の子」と言われているらしいが、どれだけ見た目が可愛かろうが男だ。

 何が嬉しくて男の隣に座らなければならないんだ。

 

 そう思っているのに何故素直に従うかと言うと、美央の機嫌を損ねるのは面倒くさいからだ。

 

 あれは美央が中2の時だったと思う。

 珍しく俺達とは違う仲の良い友達が出来た美央は、薄い本をよく読むようになった。

 中2の終わりにはその友達と喧嘩でもしたのか、薄い本を全く読まなくなった。

 中3の春、何か覚醒したのか、美央は俺達をことあるごとに隣に並ばせたがった。

 そしてそれをニヤニヤと楽しそうに眺めてくるようになった。

 その視線を向けられると、俺は全身に鳥肌がたつので苦手だった。

 今思えば、本能的に身の危険を感じていたのだろう。


 美央は時折「湊が攻めで、樹が……ふふふ」と独り言をこぼす。

 よく「受け」だの「攻め」だの言ってるので、仲の良い女の子に聞いてみると「それって腐女子ってやつじゃない」と言われた。 

 「ふじょし」の意味を聞くと彼女が口をつぐんだため、俺は仕方なくスマホで「ふじょし」と検索した。


 腐女子とは、ボーイズラブ(BL)と呼ばれる男性同士の恋愛を扱った小説や漫画などを好む女性のことである。「婦女子」をもじった呼称である。 


 俺は続けて「受け」「攻め」と検索した。


「……マジか」


 俺はそれを見て理解した。

 美央は俺達で妄想して楽しんでいた事を。


 教えてくれた彼女にお礼を言ってから別れ、すぐに美央が居る中等部の生徒会室に向かった。

 勢いよく生徒会室のドアを空けると、樹と湊と美央は3人でソファに腰掛け、呑気(のんき)にティータイム中だった。

 もちろん樹と湊は隣同士に座り、美央はその正面に座っていた。


「なんで樹がここにいるんだ?」

「あぁ、偶々(たまたま)中等部の生徒会に用があってな」

「そうか。まぁ、それは良い。それより美央! お前、俺達でとっても楽しい妄想してるよな?」


 俺がそう言うと、美央は花が咲いた様にパァーっと満面の笑みを浮かべ「蓮も楽しいって思ってくれるの?」と言った。

 

「そんな訳あるか!! 嫌みって気づけ!」


 俺が直ぐさま否定すると、湊は「ぷふっ」と紅茶を吹いて、気管に入ったのかゲホゲホと()せていた。

 隣に座っていた樹が心配して「大丈夫か?」と言って、湊の背中をさする。


 湊……お前知ってたな? 知っているから笑ったんだろ?

 

 湊は昔からこういう所がある。

 自分が面白ろければ、他人なんてどうでもいいのだ。


 湊……お前面白かったんだな? 面白かったから俺達に黙ってたんだな?

  

 ジトーっと湊を見ると、ニコッと笑いやがった。

 くそっ、やっぱりそうだったか。

 幼馴染みなんだから教えてくれてもいいだろ! 薄情な奴め!

 

 美央は美央で、樹と湊の密着具合が大変お気に召したらしく「ふふふ」と眺めて笑っているし……。


 あっ、湊! 分かっていて更に樹にくっつくのやめなさい!

 美央も喜ばない!

 

 あーもうこの双子は……。

 

「美央、その変な妄想して俺達で楽しむのをやめろ」

「なんで? 誰にも迷惑かけてないのに」

「いや、少なくとも俺は迷惑してる」 


 美央は驚いた様子で俺を見ると、段々と顔が(ゆが)んでいく。

 目に涙も溜まり始めた。


 あっ、まずい……と思った時には遅かった。


「なんで私の唯一の楽しみを奪うのー! 私に友達ができないのは蓮達のせいなのにー!」


 そう言って美央はわんわんと泣き始めた。

 あー面倒な事になった。


 確かに、美央に友達ができないのは俺達が関係しているというのも少しある。

 だが、全部が全部俺達のせいではないと思うが……。


 樹は泣いている美央を庇って「蓮、美央の楽しみを一方的に禁止するのは良くないと思うぞ」と言ってきた。

 それは、美央が俺達でナニを妄想しているか知らないから言えるんだ。


 俺は樹に美央の妄想している内容を説明した。

 それを聞いた樹は、打って変わって「美央、今すぐその妄想はやめろ」と言った。

 湊は笑いを(こら)えるのをやめ、大声で笑っていた。


 美央は味方を無くし、更に泣きわめいた。


「樹も蓮も、友達いない私を可哀相だと思わないんだー! 薄情者ー!!」


 美央が言うには、友達になろうと近付いてくる女子は俺達に恋心を抱いているらしく、美央を利用しようとする魂胆が丸見えで、友達になれないらしい。


「蓮達のせいで私は一生友達ができないんだー! うわーん!」

「まぁ、確かに美央を利用する奴は許せねぇが、全員が全員そうじゃないだろ?」

「全員だもーん! 蓮達がかっこ良すぎるのがいけないんだー! かっこ良すぎるから妄想したっていいじゃない! ケチ、ケチ、けちんぼ!」

「あのなぁ……それとこれとはーー」


 そう言いかけた所で、樹が俺の肩をポンと叩いた。


「蓮……もういいじゃないか。なんか美央が可哀相になってきた」

「いや、でも……」


 美央の方をチラッと見ると、美央は泣きやんで俺達を見ていた。

 俺と目が合うと、美央はまた泣き出した。


「ほら見ろ樹! 美央の奴、今も妄想してたぞ!」

「もういいじゃないか。美央の好きな様にさせてやれ」

 

 真剣な面持ちで言う樹を援護するように、先程まで笑い転げていた湊が涙を拭いながら俺に言う。


「そうだよ蓮。美央の好きな様にさせてあげなよ。それに馴れると結構面白いよ」

「でもなぁ……」


 俺が言い淀んでいると、美央は涙をいっぱい溜めたウルウルした瞳で上目遣いをし「お願い」と言ってきた。


 くそー美央の奴、俺が女子の上目遣いと涙に弱いのを知っていて、両方で攻めてきたな。

 

「あぁーもう俺の負けだ! 美央の好きにしろよ!」

「わーい、ありがとう蓮!」


 体を使って精一杯喜びを表現する美央。

 これだけ喜ばれると、しょーがないなと思えてしまう。


「ただし、佑にはバレるな。純情少年のあいつには刺激が強すぎる」

「そうだな」

「そうだね」


 樹も湊も俺の意見に同意する。


「もー分かったよ」


 美央も渋々同意する。


 それからずっと俺達は美央の妄想に付き合っている。

 美央の指示された通りにしないと、泣いて暴れて「友達がいないのはーー」とかまた言い出して、面倒くさい事この上ないので、仕方なく言う事を聞いているという訳だ。


 そんな昔の事を思い出していると、美央が紅茶の入ったカップを持って戻ってきた。


 「ありがとう」とお礼を言って、カップを受け取る。

 香りを楽しみながら、紅茶を口に含んだ所で生徒会室のドアが開いた。


 そこには昨日助っ人を頼んだ宇宙ちゃんが立っていた。

 彼女は生徒会室の内装に驚いているようで、固まっていた。

 そうだよな、俺も初めて生徒会室の中を見た時は豪華すぎて「ここは学校だよな?」って思ったもん。

 そんな宇宙ちゃんと目が合ったので、取りあえず手を振っておく。

 宇宙ちゃんは一瞬嫌そうに顔を歪めた。


 ふふ、そんな反応だから忙しい生徒会の仕事の手伝いを頼んだんだよ。


 自分で言うのも何だが、俺達はファンクラブがある程人気がある。

 それ自体は嬉しいんだけど、色々と弊害(へいがい)もある。

 猫の手も借りたいぐらい、年中忙しい生徒会。

 何度か一般生徒に助っ人を頼んだ事があるのだが、男女共に使い物にならない。

 男子生徒は美央に見とれ、女子生徒は4人の内誰かに見とれて仕事が全く進まないのだ。


 湊は面白がって愛想を振りまくし、美央は俺達の間に女子がいると不機嫌になるので更に仕事は(とどこお)る。

 俺が中3の時の生徒会は助っ人が頼めなくて地獄だった。 

 そして双子が高等部に進学した今年、また地獄の再来かと思っていた。

 

 だが始業式の朝、俺は見つけてしまった。

 ファンの子達の合間で俺達を睨みつける宇宙ちゃんを。


 俺と目が合うと、頬を赤らめる訳でもなくスッと目を反らした彼女。

 こんな反応をする女子は初めてで、面白いと思った。


 俺は好奇心から彼女に近付こうとした時、前方で女子生徒が(ころ)んだらしい。

 「またか……」と思いその女子生徒を見ると、樹に助け起こされる所だった。

 樹からは見えないだろうが、俺の位置からはバッチリ見えた。

 その女子生徒がほくそ笑んでいるのが。


 とんだ女優がいたもんだ。

 ワザと転ぶのは規則違反なんだがな……。

 いつの間にか後に居た湊が、面白そうに笑っている。

 湊も気付いたか……まぁ、からかうのも程々にしてやれよ。 


 ワザと転けた女子生徒を少し哀れに思って見ていると、樹にお礼を言って立ち去ろうとした女子生徒の前に、先程俺の興味を引いた彼女が耳を塞いで立っていた。

 

 彼女は転んだ女子生徒を見ると、急に様子がおかしくなった。

 胸を押さえたかと思うと、今度は頭を押さえて苦しみだした。

 彼女はハァハァと荒い息を吐くと急にパタリとその場に倒れてしまった。

 俺は急いで彼女に駆け寄り様態を見ると、彼女は真っ青な顔でハァハァと荒い息を繰り返し、意識はなかった。

 

 何かの発作か?


 俺は彼女を取りあえず保健室に運ぼうと思った。

 彼女を運ぶためにお姫様抱っこで抱える。


「樹、ちょっと保健室に行ってくる!」


 俺はそう樹に告げ、急いで保健室に向かった。

 ファンの女の子達が何やらうるさいが、人命第一。

 俺はその声を無視した。


 保健室に着いて、取りあえずベッドに彼女を寝かせた。

 養護教諭の麗子ちゃんに見てもらうと、貧血だろうと言われた。

 俺はホッとして始業式の生徒会の仕事に戻ろうとした時、麗子ちゃんに小言を貰った。

 麗子ちゃん曰く、今回は貧血だったから良かったが、急に倒れた人を症状も分からずに動かすのは危険なのだそう。

 俺は「次から気をつける」と言って、保健室を後にした。


 始業式が終わって保健室に戻ると、彼女はまだ眠っていた。

 今朝よりは顔色が戻っていて、もう大丈夫そうだった。

 彼女に興味があった俺は、彼女が目を覚ますまで少し待ってみる事にした。

 ベッドの横の丸椅子に腰かけ、スマホをいじって時間を潰す。


 少しして彼女の手がピクリと動いた。

 起きたのかと思って彼女の顔を覗き込む。

 彼女はパチッと目を開けてすぐに俺を睨んできた。


 起きて直ぐに睨むぐらい、俺が嫌なのか?

 普通ここは顔を赤らめる所なんだけどな……。


「そんなに睨まないでよ。ここまで君を運んだのは俺なんだよ」


 そう言いながら、俺は女の子を落とす時に使う悩殺スマイルを彼女に向けた。 

 彼女はそれをスルーして、辺りを確認し状況を冷静に判断しているようだった。

 俺を前にして色々とスルーする彼女……少し凹むが同時に彼女に益々興味が湧いた。


 しばらくして、彼女は急に慌ててベッドの上で正座しだした。


 一体何事!? と思っていたら彼女は俺に深々と頭を下げる。


「意識を失った人間は重いというのに、ここまで運んでいただきありがとうございます。後、睨んでなどいません。元々目つきが悪いんです」


 そうか、睨んでないのか……って何この子! 面白すぎる。

 馬鹿丁寧にお礼まで言って、きっと根が真面目なのだろう。

 そんな彼女に俺のイタズラ心が刺激される。

 

「そうなんだ……うん、とっても重かったよ」

「すいません! ご迷惑をお掛けしました!」

「取りあえず顔をあげてくれる?」


 俺がそう言うと彼女はしぶしぶ顔をあげた。

 俺は満面の笑みでこう言った。


「感謝の気持ちは言葉より、体で返してくれる?」

「はっ? それは一体どうゆう意味でしょうか?」

「俺に奉仕してって事」


 さぁ、顔を赤らめろ! そして困れ!

 俺は基本的に女子には優しいのだが、今、湊の気持ちがもの凄く分かった気がする。

 駄目押しとばかりに色気もまいておこう。

 これで勘違いしない女子はいない!

 俺はワクワクと彼女の返答を待つ。


「それは労働という事でしょうか? 何をすればいいですか?」


 驚いた……あれだけやったのに騙されないなんて……。

 彼女は俺の言葉や仕草には騙されず、冷静に判断して答えを導き出した。

  

「ハハハハハハ、あぁーごめんね。からかおうと思ってたのに、君が真面目に返答するからおかしくて」

「からかってたんですか? 通りで言い方が遠回しだと思いました」


 合格だ。

 俺はこんな人材を求めていた。

 彼女なら生徒会の仕事を任せられる。 

 今年は地獄だと思っていたが、なんとか切り抜けられそうだ。


「ごめんね。そう、君のいう通り労働というか手伝ってほしい事があってね」

「私に出来る事ならお礼に手伝いますよ」

「ありがとう。じゃー明日からよろしくね」


 それが宇宙ちゃんに助っ人を頼んだ経緯だ。

 彼女は俺達に見とれず、真面目に仕事をこなしてくれるであろう貴重な人材だ。


 後、問題なのは美央の方だが……一応昼休みに話は通しているし、大丈夫だと思おう。


 俺は美央の様子をチラッと確認する。

 

 うわぁー、佑が後に居るから宇宙ちゃんの事めっちゃ睨んでるじゃん。

 それに気付いた宇宙ちゃんも入り口で固まったまんまだし……。

 

 オリエンテーションの仕事が終わっても、次は体育祭がある。

 仕事は山積みなんだ、背に腹はかえられん。


 よし、美央の事は無視しよう。


 俺はそう決意して、固まったままの宇宙ちゃんを迎えるべく入り口に向かった。

 そして彼女の肩を抱き、ここで逃げられてたまるかと無理矢理部屋の中に招き入れる。

 

 宇宙ちゃんは、美央の事を凄く気にしているみたいなので「いつもの事だから気にしないで」と言っておく。

 「どうせ妄想の邪魔だから怒ってるだけだし」とは言えないが……。


 部屋の中程まで来た時、湊がこっちに駆けてきた。

 そして、宇宙ちゃんの肩を抱いている俺の左手首を掴んだ。


 一瞬ニコッと悪い笑みを浮かべた湊。

 まずいっと思った時にはもう遅かった。


 湊は、そんな華奢な体のどこにそんなパワーがあるんだと思う程の力で、俺の手首を握り潰しにきた。

 骨がミシミシときしみ、あまりの痛さに「い゛!」と変な声がでる。

 俺は掴まれた方の腕を持って床にうずくまった。


 痛さに悶絶していると、湊の声が聞こえた。


「蓮はきっと急にお腹が痛くなったんじゃないかな?」


 痛いのは腹じゃねぇ! お前が掴んだ手首だ!

 湊……俺が喋れないのをいい事に適当な事言いやがって……。

 

「蓮様は薄着ですし、胸のボタンを外しているから、きっと体が冷えたのかもしれませんね」


 宇宙ちゃん、湊に騙されてそれっぽい事言わないで……。

 

「……ぷふ、うん……そうだと思うよ」


 湊! 隠してっけど笑ってるの俺にはバレてるからな!

 俺の誤解を解いてくれそうなのは、佑! お前だけが頼りだ!


「なんだよ蓮、腹痛(はらいた)か? トイレ行けよ」


 お前もか! お前は何年湊と一緒にいるんだ!

 これぐらいの嘘わかるだろ!


 あっ、ダメだ……佑はいつも湊に遊ばれてたわ。


「蓮様。湊君もこんなに心配していますし、保健室かお手洗いに行かれてはどうですか?」


 宇宙ちゃん、湊はちっとも俺の心配なんかしてないんだ。

 俺のくそダセぇ姿を、さっきからずっと笑って楽しんでいるんだ。


 あぁーちくしょー! 反論したいのに、痛さに耐えるために全然声がだせねぇ!


「ふふふ……あぁーもうダメ」


 湊は小声でそう言うと俺に駆け寄って来た。


「蓮! 大丈夫? 保健室に薬を貰いに行こう!」


 湊……親切なフリして、お前はただ外で盛大に笑いたいだけだろうが!

 あっ、痛みがマシになってきた。

 今なら反論できる!


「違う……湊のせーーい゛ってぇ!」

「ほら痛むんでしょ? 無理しないで」


 湊! お前は俺に反論させないつもりか!

 痛い手首を更に痛めつけるのは、鬼の所業だぞっ!

 くそーまじ痛ぇ……。


 俺が痛みに悶絶している間に湊は俺を立ち上がらせ、俺の腕を自分の肩にまわし、俺を支えてドアの方へと歩いて行く。


 湊! お前の好きにはさせん!


 俺は痛みを堪え、頑張って声をだした。


「湊! 後で覚えてーーい゛っ!」

「ほらほら、そんな大きな声だすから痛むんだよ」

「お前なぁーーう゛っ!」


 湊は楽しそうに俺の手首を何回も握り締める。


 あぁーもうこの馬鹿力が!

 これ絶対、湊の手形状にアザになってる!

 ナニそれ……ホラーじゃん。


「そんなに痛むのか? なら俺も肩を貸すよ」


 俺を心配した佑が、湊とは反対側の俺の腕を自分の肩に回す。


 もういいよ……好きにしろよ。

 例え宇宙ちゃんの俺への印象が「くそダセぇ奴」になってても、もう気にしない。

 

 だがな、湊……お前は後で覚えてろよ。


 俺は2人に引きずられる様に生徒会室を後にした。


 

 













次回は予告通り、保健室までの道のり小話です。

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