表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど、ヒロインの恋をこっそり観察しようと思います  作者: 彩心
1学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

11


 私は涙を拭いてソファに座りなおす。

 美央ちゃんも座りなおして「で、さっきの話の続きだけど……」と言った。


 はて? さっきの話の続き?

 なんの話してたっけ?


 私の疑問が顔にでていたのだろう、美央ちゃんはフーッとため息を吐いた。


「やっぱり聞いてなかったのね。生徒会室のルールについてよ」

「えっ? 生徒会室にまでルールがあるんですか?」

「もちろん」


 学校のルールだけでも多すぎるのに、更に生徒会室にまでルールがあるなんて……。

 果たして私の頭はこれ以上ルールなんて覚えられるだろうか?


 取りあえず聞いてみる。


「ルールってファンクラブの様に細かかったりします?」

「大丈夫。ルールは1つだけ」


 ニコッと笑って1本の指を立てる美央ちゃん。


「男子役員とは2m以上の間隔を空けて接する事。それが無理なら私の隣か後にいる事」


 生徒会室にはそんなルールがあったのか。

 だからさっきは距離が近すぎたために、美央ちゃんはあんなに怒ってたんだ。


 でも、ゲームのヒロインも生徒会の仕事を手伝っていたけど、普通に距離が近かった気がするが……。

 まぁ、イベント満載の生徒会室で2m以上も離れてたら話が進まないから、あってなかった様なものだったのかもしれない。

 

「分かりました……あの、ところで何故2mなんですか?」


 美央ちゃんはフイッと私から目を反らすと、テーブルに置いてあった飲みかけの紅茶を優雅な仕草で飲む。

 カップをテーブルにそっと置いた美央ちゃんは、また私と目を合わす。

 そして、ガシッと私の両手を握った。


「これは言わずにおこうと思ったけど……彼奴(あいつ)らの魔の手から宇宙を守るためよ!」

「えっ?」

「ほら、彼奴らに関わったりしたら親衛隊とか(うるさ)いじゃない? それに好きになったりでもしたら宇宙が大変でしょ? やっぱりそこは友達としてーーえっ?」


 私は涙をボロボロ流して泣いていた。

 友達にここまで思ってもらって、心配されるなんて嬉しすぎる。

 前の人生含めて初めての出来事に私は感激した。


 それに、さすがサポートキャラ。

 私の事情なんて知らないのに、私が攻略キャラを好きになったりしない様にまで配慮してくれるなんて……。

 ライバルキャラにまでサポートしてくれる美央ちゃん、マジ天使! 


「やっぱり……理由が苦しすぎた?」


 美央ちゃんは何かを呟くと、困った顔で私を見つめていた。

 そんな美央ちゃんの両手を今度は私が握り返した。


「あ゛、ありがとう……友達にここまで思って貰えるなんて、嬉しすぎて……」

「えっ? そ、そんなの当たり前じゃない」

「み、美央ちゃん……私は決して役員の方々に2m以上近づきません!」

「わかってくれたのね、宇宙」


 すると突然、満面の笑みを浮かべる美央ちゃんの頭を大きな手が叩いた。


「いったぁー!」


 叩かれた頭をさすりながら美央ちゃんは、いつの間にか背後に居た生徒会長を睨む。


「自分の趣味に他人を巻き込むなといつも言ってるだろ」

「うっ……だって嫌なものは嫌なんだもん」


 シュンとして下を向く美央ちゃん。

 そんな美央ちゃんを見て、生徒会長は呆れた様子。

 よく分からない状況と驚きで、私の涙は引っ込んでしまった。


「星野、コイツの言った事は気にするな」

「えっ?」

「全部は聞いていなかったが、どうせ役員に近づくなとか言われたんだろう?」

「はい、2mの間隔を空けるのが生徒会室でのルールなんですよね?」


 それ聞いた生徒会長は美央ちゃんを睨む。

 美央ちゃんはフンッとそっぽを向いてしまった。


「そもそも生徒会室にルールなんかない。美央が勝手に言ってるだけだ」


 はぁーと頭を押さえながら、心底呆れいる様子の生徒会長。

 

 えっ? ルールがない?

 美央ちゃんが勝手に作った……。


 もしかして、美央ちゃんは私のためにルールを作ってくれた?


 私はハッと美央ちゃんを見る。

 美央ちゃんは私と目が合うと、バツが悪そうに目を反らした。

 私はガバッと美央ちゃんに抱きついた。


「美央ちゃんありがとう! 私のためを思って、怒られる覚悟でルールを作ってくれるなんて」

「えっ? はぁ? ぅ、うんそうよ。大事な友達のためだもん」

「美央ちゃん!」

「宇宙!」


 ひしっと抱き合う私達。

 それを訳が分からないと言うかの様に眺める生徒会長。


「とんだ茶番だな……まぁ、本人が良いなら良いか」


 生徒会長はぼそっとそう言うと、自分の席であろう机の上に持っていた書類を置いた。

 椅子に座りながらキョロキョロと辺りを見回す生徒会長。


「美央、彼奴らはどこだ? この忙しい時に遊んでいるのか?」


 美央ちゃんは私から離れて、うーんと少し考えて答えた。


「遊んでると言えば遊んでるかな」

「まったく彼奴らは……」

「あ、あの蓮様が急に腹痛を訴えて3人で保健室に行きました」


 生徒会長は私を見て、美央ちゃんを見た。


「あぁ、何となく分かった。遊んでる彼奴らには仕事を増やしておく」


 えっ? えっ? 

 なんで保健室に行っただけなのに、遊んでいる事になってるの?


 美央ちゃんを見ると「フフフ」っと笑っていた。

 私は訳が分からなくて首を傾げる。


「まぁ、彼奴らの事はいい。美央、この書類をまとめてくれ。星野はこのプリントを全部半分に折ってから、ホッチキスで留めて全部で50部冊子を作ってくれ」

 

 そう指示を出すと、プリントの束が置いてある机を生徒会長は指差す。

 

 えっ……なんか量がすごいんですが……。

 これ1人でやるの? 


 そう思っていると、隣に座っていた美央ちゃんがまたもや叫ぶ。


「ちょっと樹! なんでその場所にプリント置いちゃうの? 宇宙は私の隣の席でやるの!」


 美央ちゃん「隣がいい」とかそれって凄く友達っぽいよ!

 私も美央ちゃんの隣がいいよ……とか言いたいけど、それを言う勇気はない。

 まだ友達になったばかりだし「友達」スキル0の私にはハードルが高すぎる。


 そんな私達をよそに生徒会長は淡々と答える。


「元々は蓮にやらせようと思っていたからな。嫌なら自分でプリントを移動しろ」


 この大量のプリントを華奢な美央ちゃんが運ぶとか無理でしょ!


 横を見ると、美央ちゃんは早々に無理だと判断してシュンとしているし、生徒会長はそれをスルーして書類を見ている。

 

 悲しそうな美央ちゃん。

 そこまで私と隣が良かったのか……。

 友達が困っているなら、もうハードルとか気にしている場合ではない。

 「友達」の私が! 「友達」の私が動こうではないか!

 大事な事なので2回言いましたよ。


 私はスッとソファから立ち上がると、プリントが置いてある机に向かった。

 プリントを持てるだけ持って美央ちゃんに尋ねる。


「美央ちゃん、私はどこの席で作業すればいいですか?」

「えっ? あ……左の入り口に近い席」

「分かりました」


 私は黙々とプリントを言われた机の上に移動させていく。

 美央ちゃんはソファから隣の席に移動して、座りながらニコニコと私を眺めていた。


「美央、遊んでいる暇があるのか?」


 途中生徒会長からのお小言をもらい、美央ちゃんは「はーい」と返事をしてペンを動かす。


 何往復かしてやっと最後の束になる。

 これを、運んだら50部の冊子を作って……と色々考えていたら、下に敷いてある絨毯に足をとられた。


 危ない! 


 そう思って、来るべき衝撃に備えて目を瞑る。


 しかし衝撃は来ず、ポフッと誰かに抱き留められた。


「す、すいません……」


 そう言って目を開けると、蓮様がいた。


「大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ありがとうござい……」


 そこまで言って気が付いた。

 私は今、蓮様に抱きしめられているという事を……。

 

 細いのに筋肉がしっかりついていて、引き締まっている蓮様の胸板に腕。

 密着する事により、品の良い上質な香水の香りが私を包む。

 またもや香りの脳内テロにより、頭がクラクラしてくる。

  

 ぼーっとしてしまった私は、持っていたプリントの束から手を放してしまう。

 バサバサーっとプリントは床に散らばった。


「もー何してるの宇宙ちゃん」


 蓮様は私から体を放し、しゃがんでプリントを拾い集める。

 はっと我に帰った私も「すいません、すいません」と謝りながら、プリントを拾う。


 いかん、いかん。

 またうっかりときめいてしまう所だった。

 

 危ない所を助けてもらうとか、ラブストーリーの典型的パターンではないか。

 そこから恋なんか始まりでもしたら……。


 想像するだけでも恐ろしく、体がブルっと震える。

 やはり生徒会室は危険だ。

 さっさとプリント集めて、冊子を作って帰ろう。


 床に散らばったプリントをせっせと集めていると、蓮様の手首に貼られている湿布が目に止まった。


「蓮様、その手首どうされたんですか?」

「あぁ、これ?」


 そう言って湿布を指差す蓮様。

 蓮様が何か言いかけようとした所で、湊君が「はい、これ」と言ってプリントを手渡してくれた。


「ありがとうございます。皆さん帰って来てたんですね」

「うん、そしたらプリントが散乱してるから驚いちゃった」

「す、すいません。私の不注意で……」

「いいよ。僕も手伝うね」


 そう言って湊君もプリントを拾うのを手伝ってくれた。

 最後の1枚を拾った所で気が付いた。


「そういえば蓮様、お腹は大丈夫ですか?」


 そう聞くと蓮様は湊君の方を見た。

 私もつられて湊君を見ると、ニコニコしていて相変わらず天使だった。

 蓮様は何故か両手をあげ、ため息まじりに「もう治ったよ」と言った。


 2人は拾ったプリントを机の上に置くと、自分の机に向かった。

 私も持っているプリントを机の上に置くと、隣から視線を感じた。


 横を向くと、じとーっと美央ちゃんが私を見ていた。

 あっ、忘れてた!

 2m以上の距離を空けないとダメなんだった。


「ごめんなさい! 以後気をつけます」


 美央ちゃんに頭を下げると、美央ちゃんはうんうんと頷き「以後気をつけるように」と言って、また書類に目を落とす。


 生徒会長から何か書類を受け取っていた五十嵐君は、それを聞いていて「何に気をつけるんだ?」と私に聞いてきた。

 

「男性役員とは2m以上の距離を空けるという事です」


 それを聞いた蓮様は「またか……」と言い、五十嵐君は訳が分からないのか「なんで?」と聞いてきた。


「なんでと言われましても、それが美央ちゃんとの……と、友達との約束ですから!」


 あぁー、言っちゃった。言っちゃった。

 美央ちゃんを友達と宣言しちゃったよ。

 しかも「友達との約束」。

 なんて甘美な響き……。


 私は何だか気恥ずかしくて、かーっと赤くなる頬を手で覆った。


 美央ちゃんをチラッと見ると、美央ちゃんは書類から目を離さずに、私に向かって親指を立てていた。


 美央ちゃん! これで良いって事ですね!

 言葉を交わさずとも意思の疎通ができるこの感じ……凄く友達っぽい! 


 私が感激している横で男性陣は呆れた様子で美央ちゃんを見ていた。

 だが、五十嵐君だけは首を傾げていた。 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ