10
「着いたぞ」
五十嵐君の一言で私はゆっくり地面に降ろされ、顔にかけられたブレザーは回収される。
つ、疲れた……。
ここまでくるのに、どれだけときめかされた事か……。
階段を降りる時に落とさないように、ギュッと力を入れられるとより密着度が高まる。
それに五十嵐君もふんわりと良い香りがするのですよ。
その香りで頭がクラクラして何も考えられなくなり、うっかりときめいてしまう。
そんな事が何回かあり、その度に手の甲の皮膚をねじり上げ、痛みで冷静さを取り戻す。
左の手の甲を改めて見ると、赤くなっていた。
それに気付いた五十嵐君は、私の左手を手に取った。
「赤くなってるじゃねーか! 俺どっかにぶつけた?」
心配そうにシュンとして私を見つめる五十嵐君。
やめて! そんな目で見ないで!
またときめいてしまう!
私は慌てて手を自分の後に引っ込める。
「これは……そう! 元々なのよ元々! ハハハハハ……」
「そうなのか? でも痛そうだけど……」
「だ、大丈夫! その内勝手に治りますから」
私はこれ以上五十嵐君と2人でいるのは危険と感じ、目の前のドアを開く。
ドアを開けると、ここは本当に生徒会室なのかと思うほど、豪華な部屋だった。
広い室内に豪華な机と椅子が6セット置かれ、一目で高級品なのだとわかるソファにローテーブルまである。
休憩中なのか、紅茶の茶葉の良い香りが部屋を満たしていた。
そんな豪華な部屋の中、ソファで寛ぐ蓮様と湊君と女子1名。
そうだった……ここは魔の巣窟。
部屋の豪華さに圧倒されたが、攻略対象が増えたこの部屋の方が更に危険だった。
ドアを開けたまま固まっている私と蓮様は目が合うと、ひらひらと笑顔で手を振ってくれた。
湊君もニコニコとこちらを見ている。
だが、1人の女子だけは違った。
私をもの凄く睨んでいる。
えっ? なんで睨まれてるの?
私とこの子は初対面のはずなんだけど……。
この睨んでくる女子は桜木 美央ちゃん。
湊君と双子のお姉ちゃん。
確かゲームでは、美央ちゃんはサポートキャラだ。
しかし、人形の様に整った顔立ちで睨まれると、もの凄く怖い。
やっぱりライバルキャラは何もしなくても、嫌われてしまうのだろうか。
そんな事を考えていると、いつの間にか蓮様が私の傍にいて私の肩に手を回すと、部屋の中に招き入れられた。
美央ちゃんの方を見ると、睨むだけではなく怒りのオーラがだだ漏れていた。
それを見ていた蓮様はニコッと笑い「いつもの事だから気にしないで」と言った。
気にしないでと言われても、気になりますよ。
私はビクビクしながら蓮様に連れられ生徒会室の中を進む。
湊君はタッタッタっとにこやかに私達に走り寄ってくると、私の肩を掴んでいる蓮様の手首を掴む。
すると、蓮様は「い゛っ!」と言うと私の肩から手を放し、掴まれた方の腕を持ってうずくまった。
急にどうしたのだろうか?
湊君の方を見るとニコニコしているし、こんな天使が何かしたとも考えずらい。
私は蓮様に声をかけようとすると、湊君は私の腕を掴み無邪気な笑顔で「蓮はきっと急にお腹が痛くなったんじゃないかな?」と言った。
「蓮様は薄着ですし、胸のボタンを外しているから、きっと体が冷えたのかもしれませんね」
「……ぷふ、うん……そうだと思うよ」
湊君が涙目でそう言うので、余程蓮様を心配しているのだなと思った。
同じ生徒会で幼馴染みだからというのもあるかも知れないが、そこまで他人を心配する湊君マジ天使!
「なんだよ蓮、腹痛か? トイレ行けよ」
ドアを閉めてゆっくりこっちに歩いて来ていた五十嵐君が、うずくまっている蓮様の横に立って言う。
「ぷ……ふふ……」
湊君は顔を下に向け、口を手で覆って小刻みに震えていた。
あぁ、心配しすぎてついには泣いてしまうなんて……。
「蓮様。湊君もこんなに心配していますし、保健室かお手洗いに行かれてはどうですか?」
「ふふふ……あぁーもうダメ」
湊君は小声で何かを言うと蓮様に駆け寄った。
「蓮! 大丈夫? 保健室に薬を貰いに行こう!」
「違う……湊のせーーい゛ってぇ!」
「ほら痛むんでしょ? 無理しないで」
そう言って湊君は蓮様を立ち上がらせ、蓮様の腕を自分の肩にまわし、蓮様を支えてドアの方へと歩いて行く。
「湊! 後で覚えてーーい゛っ!」
「ほらほら、そんな大きな声だすから痛むんだよ」
「お前なぁーーう゛っ!」
「そんなに痛むのか? なら俺も肩を貸すよ」
五十嵐君は湊君と反対側の蓮様の腕を自分の肩に回すと、蓮様は引きずられる様に3人は生徒会室を出て行った。
蓮様凄く痛そうだったけど、大丈夫かな?
蓮様が心配で3人が出て行ったドアを見ていると、後から「蓮を取り合う三角関係……ふふっ」っと声が聞こえてきた。
後を振り向くと、美央ちゃんはご機嫌なのかニコニコして3人が出て行ったドアを見ていた。
先程までだだ漏れていた怒りのオーラは完全に消え、なぜ急に機嫌が良くなったのかは分からないが、取りあえず美央ちゃんの機嫌を損ねないように、美央ちゃんと向かいのソファに腰をおろした。
すると、美央ちゃんは急にバンっと机を叩いて「そこはダメーー!!」と大きな声で叫んだ。
ビックリして、私は急いで立ち上がる。
えっ? 座るのもダメなの?
私本当に初対面から美央ちゃんに嫌われてるんだなぁー。
設定上とはいえ、何もしてないのに嫌われるのって悲しいな……。
また何かすると美央ちゃんに怒られるかも知れないので、私はソファの隣に立っている事にした。
「なんでそんな所で突っ立てるの?」
いつまでも立ち続ける私に気付いて、美央ちゃんは不思議そうに私に尋ねてきた。
「えっ? 座るのはダメなのかと思いまして」
そう言うと美央ちゃんは目を丸くして驚いている様だった。
「あぁ、違う違う。そこがダメってだけで、ほらっ、私の隣に座ったら?」
そう言って美央ちゃんは自分の隣をポンポンと叩く。
「で、ではお言葉に甘えて……」
私は怖ず怖ずと美央ちゃんの隣に腰かける。
「貴女、蓮の言ってた助っ人の人?」
「はい、そうです。手伝いを頼まれた2年の星野 宇宙と申します」
「私は1年の桜木 美央。皆『美央』って呼ぶからそう呼んで」
美少女が私に満面の笑顔を向けて下さっている!
しかも、名前呼びの許可まで!
ありがたやー、ありがたやー。
あれ? もしかして私そんなに嫌われてなかったりする?
そんな事を考えて返事をしない私に、美央ちゃんは顔をググッと近づけて威圧的に「美央って呼んでね」ともう一度言った。
笑顔なのに威圧的って凄いな……あれ? 湊君の時もそう思った様な……。
やっぱり双子は似るんだなぁーと、ぽけーっと美央ちゃんの威圧的スマイルを眺めていると「宇宙! 聞いてるの!」っと怒られてしまった。
「は、はい! 聞いています! み、美央ちゃん……」
私が名前を呼ぶと、満足したように美央ちゃんはうんうんと頷いて、ソファに座りなおす。
「それでね、宇宙。この生徒会室にはルールがあるの」
先程自分の名前を呼ばれたのは気のせいかと思っていたが、やっぱり気のせいではなかった。
美央ちゃんが私の名前を呼び捨てで呼んでくれている!
こ、これはもう友達だよね! 2人目の友達!
「だから! 宇宙、聞いてるの!」
「は、はい! 美央ちゃんは私とお友達になってくれるんですよね?」
思わず美央ちゃんの両手を握った。
美央ちゃんは驚いた様子で私を見ている。
その視線で我に帰った私はパッと手を放した。
「す、すいません……」
は、恥ずかしい……感情が高ぶった勢いで馴れ馴れしく触ってしまった。
私の顔はみるみる内に赤くなっていく。
まだ友達認定もされてないのに急に触られたら気持ち悪いし、驚くよね。
あぁ、穴があったら入りたい……。
穴がないので苦し紛れに自分の顔を手で覆って隠した。
「ふふ……何それ」
美央ちゃんの声は呆れているようだった。
あぁーまたしても失敗してしまった。
私の対人関係スキルほんとポンコツ……。
あっ、涙でそう……。
「いいよ」
自分に都合の良い幻聴まで聞こえ始めた……。
「だから! 友達になろうって言ってるでしょ、宇宙!」
そう言って美央ちゃんは私の腕を掴んで引っ張った。
引っ張られた事により、私の顔を覆ってい片手が剥がされる。
美央ちゃんは私と目が合うとニコッと笑った。
「ふふ、何泣いてるのよ」
「えっ? 幻聴じゃないんですか?」
「幻聴って……」
「ほ、本当に友達になってくれるんですか?」
「今そう言ったでしょ」
やったぁー!!
友達2人目できましたーー!!
しかも、美少女です!!
「宇宙は大丈夫そうだから……」
「えっ? 何か言いました?」
「何でもない」
「そうですか?」
なんだか一瞬、美央ちゃんの顔が寂しそうに見えたけど気のせいだったかな?




