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教室に2人で戻り、まだ授業までに少し時間があったので円香さんに「学校のルール」ついて教えて貰った。
♢生徒会の方々の行くてを阻んではいけない
これはファン達が彼等に群がったりしない為に作られた。
道を塞いだりしたら、本人にも周りにも迷惑だもんね。
後、彼等の目に止まろうと、ワザと目の前で転んだりする生徒が続出したのも理由の1つらしい。
あぁーだから親衛隊に有らぬ誤解を与えたのか……。
♢生徒会の方達と親しく出来るのは、限られた者だけ
これもファン達に囲まれるのを防ぐため。
もちろんプレゼントもダメ。
昔過激なファンが、髪の毛やら爪やらを贈った事があるらしく、それから禁止になったそうだ。
えっ、何それ、気持ち悪っ!
モテるというのも大変なんだね……。
大まかな決まりはこの2つ。
後は細々な事が盛りだくさん。
「生徒会の方達と電車で同じ車両に乗ってはいけない」やら「用件は手短に伝える」など。
正直覚えられる気がしない……。
「円香さんはこれ全部覚えているの?」
「当たり前でしょ。これを覚えないとファンクラブに入れないんだから」
ファンクラブは親衛隊の下らしい。
まずはファンクラブから始めて、そこから選ばれた人達が親衛隊となる。
親衛隊の上が幹部。
上に上がれば上がるほど、制約は緩くなり、生徒会メンバーとの交流が増えるらしい。
顔を覚えて貰って、名前を呼んで貰う事が一種のステータスーーーって、なんだそりゃ。
生徒会の人達は芸能人かなんかですか?
ツッコミをいれたいが、そういう雰囲気ではない。
私は円香さんの話をチャイムが鳴るまで愛想笑いで聞き流し続けた。
♢ ♢ ♢ ♢
ついに放課後が来てしまった……。
私は結局何の対策もたてていない。
今気づいたが、昨日それをしようとしていたのに、なぜかイベント年間表を作ってしまったのだ。
私はバカか……。
何故今の今まで気付かなかった……。
机に頭を乗せて項垂れていたら、円香さんに声をかけられた。
「宇宙この後なんか予定ある?」
こ、これは……念願の「友達と寄り道」イベントではないのか?
行きたい! とてつもなく行きたい!
だが私には残念な事に、予定がある。
物凄く嫌な予定が……。
「はい……実はこの後予定があるんです」
「そ、なら仕方ないわね」
「円香さん! また……また誘って下さいね」
本当に残念すぎて涙が浮かんでくる。
それを見た円香さんは「そんな泣くほど?」と困惑していた。
円香さんはフーっとため息を吐くとニコッと笑った。
「じゃー明日は予定空けといてよね」
「えっ?」
「だから、明日は一緒に帰ろうって言ってるの!」
「い、いいんですか?」
嬉しすぎて円香さんを神を崇めるが如く見つめてしまった。
円香さんは少し照れくさそうに「いいって言ってるでしょ」と言った。
「明日は何があろうと円香さんと一緒に帰ります!」
私は両手を前に組み、円香さんに力強く返事をした。
「そ、そう……。じゃあ、また明日」
「はい! 明日楽しみにしています! 円香さん、ごきげ……さようなら」
危ない。つい癖で「ご機嫌よう」と言いかけてしまった。
円香さんはそれに気付いたらしく、クスクス笑いながら「じゃあね、宇宙バイバイ」と言って手を振り教室を出て行った。
初めて友達との「バイバイ」イベントだったのに、失敗してしまった。
前世が一般庶民だった私でも、幼稚舎から挨拶に「ご機嫌よう」と言い続けていたら、もうそれは癖になるらしい。
一般の人は「ご機嫌よう」なんて挨拶で使わないよ。
気をつけなきゃ……。
明日こそは「バイバイ」イベントを完璧にこなしてみせる!!
そう意気込んでいると、ポンっと肩に誰かの手が置かれた。
後を振り向くと、五十嵐君が居た。
「あの……何か御用でしょうか?」
そう尋ねると、五十嵐君はため息を吐いた。
えっ? なんでため息?
私何もしてないよ。
「何かって……お前、蓮に言われただろ? 生徒会室の場所分かんのか?」
そう言われてみれば、生徒会室の場所なんて知らない。
知らなければ「迷子になった」と言って、生徒会室に行かなくてもいいのではないか?
おぉー、今日の私の頭冴えてるー。
「えぇ、もちろん知っていますよ」
私はにこやかに嘘をついた。
「そうか。でも、蓮にお前を生徒会室まで連れて来る様に言われたから、さっさと行くぞ」
何っーー!
嘘ついた意味がないではないか!!
優しい蓮様は私を気遣って、五十嵐君に頼んだんだろうけど……。
正直ありがた迷惑ですよ蓮様!
あぁ、やっぱり魔の巣窟へは行かないとダメなんですね。
決して逃げられない運命なのですね。
私がガックリと肩を落としていると、五十嵐君に腕を掴まれた。
「何してんだよ。行くぞ」
そう言って、五十嵐君は私を引きずって教室を出る。
私は項垂れて、五十嵐君に引っ張られながらトボトボと後を着いていく。
廊下を少し歩いた所で女子の悲鳴が聞こえた。
「イヤーー! 佑君が女子と2人で歩いてるー!!」
えっ?
「手を繋いでるわよ!」
えっ? 違うよ。
手を繋いでるんじゃなくて、腕を掴まれてるんだよ。
「あの女は誰?」
「幹部の方ではないみたいだから、規則違反者よ!」
「親衛隊の方々に知らせなければ!」
えぇー!! 腕を掴まれて引っ張られるのもルール違反なの?
円香さんの話をもっとちゃんと聞いておけば良かった。
どうしよう、どうしよう。
これ以上親衛隊に目をつけられるのは面倒くさすぎる。
オロオロしている私の前で、五十嵐君は「ちっ、めんどくせー」と言うとおもむろにブレザーを脱ぎ始めた。
急にどうしたのかと、その様子を眺めていると五十嵐君は脱いだブレザーを私の顔に投げた。
ブレザーは私の顔をすっぽり覆い、目の前が真っ暗になる。
「あの……五十嵐君?」
「悪い、ちょっと我慢してくれ」
そう言うと、五十嵐君の腕が私の背中と膝裏に当たったかと思うと、私の体は横向きになり宙に浮いた。
えっ? 何?
もしかしてこれは……いわゆるお姫様抱っこというやつ?
「しっかり捕まってろよ」
「ひゃっ!」
五十嵐君が急に走り出したので、バランスを崩しそうになり咄嗟に五十嵐君の首に手を回してしがみつく。
しがみついてから気付いた。
この体制……猛烈に恥ずかしい。
同じ年代の男性とここまで密着した事がない。
密着した事により、細いのに筋肉がしっかりついていて、がっしりとした体なのが良く分かる。
女性とは全然違う体つきに、男性なのだと嫌でも意識させられる。
心臓がバクバクと早鐘を打つ。
顔も熱い。きっと赤くなっているだろう。
ブレザーを被っているため、誰にも見られる事がないというのだけが救いだ。
だが、そこで前世の記憶を思い出す。
五十嵐君が一番危険な攻略対象であるという事を。
彼の場合は精神病棟行きではなく、三途の川行きだ。
それは死ぬという事。
先程まで熱かった顔から熱がサーっと引いていく。
あ、危ない……うっかりときめいてしまう所だった。
精神病棟行きも嫌だけど、死ぬのはもっと嫌だよ!
恐るべし、攻略対象の「ハニートラップ」。
今気付いたから良かったものの、気付かずに五十嵐君を好きにでもなってしまっていたら……。
やっぱり、昨日攻略対象の情報をまとめておけば良かった。
そしたら、もっと五十嵐君を警戒できたのに!
私の大バカやろーー!!




