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 目の前に立っている彼女と私の視線が交わったその瞬間、息が止まるかと思った。

 心臓がバクバクと早鐘を打つ。

 私は初めて会うこの女を知っている。

 どうして……。

 そう思うと同時に様々な情報が頭の中を駆けめぐる。

 頭は割れそうに痛い。あまりの痛さに意識が朦朧(もうろう)としてくる。

 私は、意識を手放す瞬間理解した。


「乙女ゲーム、転生……ラノベか!!」


 


  ♢  ♢  ♢  ♢



 私は星野 宇宙(そら)

 高校2年生になるのと同時にマンモス校で有名な青葉大学附属高等学校に転入する事になった。

 転入試験は難しいらしいが、私は難しいと思わなかった。

 なぜなら、私は友達がいなくて暇つぶしに勉強ばかりしていたから。


 前の学校は小中高一貫のお嬢様学校。

 生粋のお嬢様ばかりの学校で、私は「成金」と呼ばれ浮きまくっていた。

 そんな私に友達ができるはずもなく、()()()()嫌がらせを10年間受け続けた。

 私は気にもしていなかったが、ある日落書きされたり破られた教科書を家政婦に発見されてしまった。

 そのまま父親に報告され、父親は大激怒。そして、母親は号泣。

 家政婦も何故今まで気づかなかったのかと、泣き崩れている。


 私が必死に隠し続けていたのだから気付くはずがない。

 今回は10年目ともあって気が抜けていた。

 こうなると分かっていたから、隠していたのだ。

 別に傷ついている訳ではないし、少し寂しくもあるが後2年の辛抱だ。

 娘大好き父親が怒る方が、何をするか分からなくて面倒なのだ。


宇宙(そら)! なぜ今まで黙っていた! こんな…こんな事が…あぁ可哀相な宇宙(そら)


 父親まで泣き出した。

 今、私の顔は盛大に引きつっている事だろう。

 何、このカオス空間……。


「お父様……私は別に傷付いてなどいません。なのでこの事はなかった事に……」

「あぁ、私に心配かけまいと……なんて健気なんだ」

「いえ、そういう事ではなくて……」

「いいんだよ、宇宙(そら)は何も恐れなくて。で、一体これは誰の仕業だい?」


 今まで散々泣いていた父親の突然の笑顔が怖い……。


「お父様……一体何をするつもりですか?」

「そんなの宇宙(そら)は知らなくていい。で、誰なの?」


 今の父親に名前など言えない。

 だって、財閥やら有名な大企業の令嬢達なのだ。

 何かするつもりなら、父親が頑張って一代で築いた会社も自分の家も終わる。

 自分のせいで、そんな事になるのは絶対に嫌だ。


「お父様。私は先程言った様に、一切! 傷付いておりません! しかし、このまま通う事が心配だと言うのなら、私を別の学校へ通わせて下さい」


 私は必死に父親の目を見つめた。

 父親は困った顔をして、私に問いかける。


「本当にそれでいいのかい? 後悔しない?」

「えぇ、後悔なんて致しません。それに、別の学校なんてワクワクします!」

「そうか……私は納得していないが、宇宙(そら)がいいと言うのならそれで手配しよう」


 面倒な事が回避され、私は気付かれないようにホッと息を吐いたのだった。


 それが3ヶ月前の出来事。

 今日が初登校の日で、不安と緊張から現実から目を逸らし、その事を思い出していた。

 今まで車で送り迎えされていたので、電車通学は初めてだったし、駅から学校まで歩くのも新鮮だ。

 しかし、いざ学校の門にたどり着くと緊張感が増してきた。


 環境を変えたからと言って、自分は果たして上手くやれるのだろうか?

 私の目はつり目がちで、普通にしているだけでも睨んでいると思われる。

 それに、私は口下手だ。同じ年の子と何を話せばいいか分からない。

 うん……これで、友達ができたら奇跡だな。

 環境を変えようが、私はきっと友達ができない運命なのだ。

 そう思うと緊張は解け、不安なのはこのバカでかい校舎の内部を把握出来るかどうかだけだ。

 マンモス校なだけあって、校舎がとにかく広い。

 職員室を探すだけでも、大変そうだ。


 意を決して門をくぐり少し歩いた時だった。

 後からキャーという女子達の奇声が聞こえた。

 何事かと後を振り向くと、何かのパレードかの様に生徒達は真ん中を空け端に寄り、女子達はワーキャーと奇声をあげていた。

 そして、その真ん中を5人組が歩いている。

 手を愛想良く振っている者、恥ずかしがっている者、スルーしている者。

 態度はバラバラだが、5人に共通している物がある。

 それは容姿が抜群に整っている事。

 

 その5人をボーと眺めていたら、後から誰かに引っ張られた。


「ちょっと! そんな所に居たらあの方達の邪魔になるでしょう!」


 私の腕を引っ張りながら、わめいているのはツインテールが可愛らしい知らない女の子。

 なぜいきなり怒鳴られているのか、貴女は誰とか色々疑問があるが、1番の疑問を聞いてみた。


「あの方達とは?」

「貴女知らないの? あぁ、外部からの新入生ね。あの方達とは生徒会の方達の事よ」


 ツインテールは何やら納得した感じで話しているが、生徒会の方達と言われても、私にはさっぱり分からない。


「あの……生徒会の方達とは?」

「貴女あの有名な方達を知らないとか、どこかの田舎からでてきたの?」


 知らない女の子に凄く哀れみの目を向けられている。

 まぁー、田舎ではないが学校と家の往復で友達も居なかった私に情報など入ってくるはずもない。

 それを説明するのも面倒なので、肯定しておく。


「そう……なら知らなくて当然ね。貴女はラッキーよ。今年は5人全員が揃った年なんだから」


 ツインテールは目をキラキラさせながら、親切に説明してくれた。


 一番前を歩く先程から色々な事をスルーしている、クールそうな彼は生徒会長の須藤(すどう) (いつき) 3年生。

 サラサラの黒髪を短く切り揃え、切れ長の眼がキリッとしていて、背の高さも相まって男らしさと清潔感溢れるイケメン。


 その隣を歩き、愛想良く手を振り続け、物凄い色気を振りまきまくっているチャラそうな彼は副会長の水野 (れん) 3年生。

 明るい茶色に染めていて少し長い髪をハーフアップにしている。

 少し垂れた眼に親しみやすさを、その目の下にある泣きぼくろはセクシーさを(かも)し出しているイケメン。


 その後を真っ赤な顔をして、(うつむ)きがちに歩く恥ずかしがり屋の彼は会計の五十嵐(いがらし) (たすく) 2年生。

 先程の二人よりは少し背が低く、白に近いシルバーの髪を綺麗にセットして、サイドに赤いピンをアクセントにしている。

 制服の着こなしもベルトやカーディガンを使っておしゃれだ。

 ちょっとヤンチャな感じのお洒落なイケメン。


 そして最後尾を歩く天使の様な2人は双子で、姉の桜木 美央(みお) 書記。

 少し茶色のフワフワのロングの髪と小さな顔に大きなパッチリとした二重はまるで人形の様に可愛い。

 彼女は一言でいうなら美少女だ。こんな可愛い子見たことない。


 弟の桜木 (みなと)は会計。

 姉と同じ少し茶色でフワフワと癖っ毛の髪は短く、小さな顔に大きなパッチリとした二重は中性的で可愛らしい。

 イケメンというよりは可愛らしいという感じだ。

 2人は共に1年生。 

 

 彼等5人は幼馴染みで仲が良い。

 去年は桜木姉弟が中等部だったため、5人揃うのは3年ぶりらしい。

 眉目秀麗な彼等は学校のアイドル的存在。

 何人たりとも彼等の行く手を邪魔してはいけないらしい。

 あぁ、だから道が割れたのか。納得。

 

「あれ? でも1年生なのにもう生徒会に入ってるんですか?」

「ほんとに貴女は何にも知らないのね……」

「なんか、すいません……」

 

 ツインテールが言うには、中等部の生徒会長と副会長は自動的に高等部の生徒会に入るらしい。

 入学式前に役職を割り当てられ、入学式と始業式で新しい生徒会役員は紹介される。


「まだ始業式前なのにもう情報がまわっているんですね」

「昨日の入学式で発表されてから、すぐに情報は拡散されたから皆知ってる話よ」

「ほぉーそうなんですね。全然知りませんでした」


 哀れんだ目を再び向けられた時、5人が私達の目の前を通りすぎようとした。

 その時、チャラそうな副会長と目が合った気がした。

 しかし、私の隣でツインテールが「キャー水野様と目が合ったわ!」と興奮しているので違うのだろう。

 私ではなくて、ツインテールを見ていたのだ。

 なんて恥ずかしい勘違いだろうと、はしゃぐツインテールを眺めていたら、またもや悲鳴が。


 どうしたのだろうかと、前を向くと5人組の前で1人の女子生徒が倒れていた。

 ツインテールは隣で「生徒会の方々の行く手を阻むなんて信じられない!!」と赤い顔をして怒っている。

 はしゃいだり、怒ったり忙しい人だなぁと呑気に思っていたら、倒れた女子生徒が生徒会長の手を借りて起き上がった。

 その行為を見た周囲から悲鳴があがった。

 抜け駆けだの羨ましいだのとうるさい。

 目の前で倒れた者を無視するわけにはいかないだろう。

 生徒会長は当たり前の事をしただけで、彼女になんの感情もないだろうに。

 この場はうるさすぎるので退散しようと思い、耳を押さえて歩きだした時、先程倒れた女子生徒が私の目の前に立っていた。

 彼女は柔らかそうな少し癖っ毛の髪を肩ぐらいのボブに切り揃え、小顔にパッチリとした二重は親しみやすさと愛らしさがあった。


 目の前に立っている彼女と私の視線が交わったその瞬間、息が止まるかと思った。

 心臓がバクバクと早鐘を打つ。

 私は初めて会うこの女を知っている。

 どうして……。

 そう思うと同時に様々な情報が頭の中を駆けめぐる。

 頭は割れそうに痛い。あまりの痛さに意識が朦朧としてくる。

 私は、意識を手放す瞬間理解した。


「乙女ゲーム、転生……ラノベか!!」



 



 

スランプ中の息抜き投稿なので、不定期更新です。

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