13-F その間の晴日たち
目を開けると、最初に飛びこんだのは、夜空と早月の泣き顔だった。
影郎は仰向けに倒れていた。早月はその場に腰を下ろし、影郎の頭を膝にのせていた。
「影郎!」
早月が叫ぶ。
「影郎? ホンマにあんたなん?」
「私のこと分かる?」
「よかった。心配したんですよ」
らん、晴日、ライナも口々にそう言って、影郎の顔をのぞきこんだ。
「俺だ。早月のこと分かるよ。晴日もらんもライナも」
影郎は上体を起こした。
「影郎っ!」
晴日が影郎の胸に飛びこんだ。
影郎は再び、早月の上に倒れこむ。
「ちょっと、晴日! 重い。重いってば」
早月が晴日を、ひじで小突いた。
影郎の体が熱を帯びる。晴日の涙が、影郎の服に染みこむ。
「もうあかんかと思ったわ」
らんは指で、自身の涙を拭った。
「俺にはことの重大さが、いまいちよく分からないんだがな。痛かったわけでもないし――?」
影郎が言いかけたとき、晴日がそのほおをつねった。
「ばか」
晴日は目に涙を浮かべて、怒っていた。
「何があったか覚えてる?」
早月は影郎たちの下からようやく這い出し、その場に座り直した。
「俺はずっと生き霊と話をしてた。それよりも、お前らは何を見た? 俺がぶっ倒れてる間、何が起こってた?」
影郎が尋ねる。
晴日、らん、早月、ライナは代わる代わる、自分らが見聞きし、また自らおこなったことを語った。
――4人によれば、火の玉は影郎を包みこんだ後、それに吸いこまれるようにして、消えた。
直後に、影郎の体が崩れ落ちた。目を閉じて、力が完全に抜けた状態になった。
晴日たちは、一斉に彼の元にかけ寄った。そして、呼んだり叩いたり揺すったりした。
ところが、反応は全くない。
影郎はときどき、うわ言を言うように、口をぱくぱくさせた。喋っている内容は、聞きとれなかった。
彼の周りを、白い光が包んだ。本人の意思に基づいているか否かは不明だが、〈帰神法〉が発動していると分かった。
4人は、生き霊が彼の体を乗っとることを恐れた。
30分近く昏迷が続くと、4人の間に諦めムードが広がった。
ちょうどそのころ、卒前として鬼火が、影郎の体から抜け出た。そしてもと来た道を引き返すようにして、東へ飛び去った。
影郎が目を開けたのは、それから2、3分後のことだ――
次いで、影郎が己の体験を聞かせた。
人魂と接触した瞬間、それと人格が1つに融合したこと。生き霊と共有した、記憶の内容。一人二役で、果てしなく問いと答えをくり返し、最後に生き霊自らとして、「萩原に復讐しても、自身のためにならない」という結論にたどりついたことだ。
「みんなの言う通りだった」
影郎は、最後に呟いた。
「何が?」
晴日たちが、一斉に聞き返す。
「生き霊を滅ぼしてしまわないでよかった。あれにも少しは、言い分があるんだ。結論として、萩原さんを恨むのは、筋違いだと思うよ。でも、同情すべき部分もあるんだ。誰が悪いかと言ったら、あいつのお金を勝手に使った親父なんだ」
影郎は続けた。
「そりゃそうだよ。少しも汲めるところのない、根っからの悪者なんて、そうそういないから」
早月は立ち上がった。
それに釣られて、他の4人も次々と腰を上げる。
「にしても、相手を説得して、立ち去らせるっちゅう解決策があったなんて、盲点やったわ」
らんが服についた土を払った。
「説得というほどのものでもないけどな。俺に憑依している霊は、半分は俺自身みたいなものだから。延々と自問自答を続けて、手詰まりになったような感覚だよ。――まあ今回ので俺も、魔道士として自分にできることがあるんだって実感がわいてきたけど」
「とゆうと?」
「いや。早月が帰国してからというもの、どの式神もお前ら3人があっという間に倒してしまって、俺なんか盾としてぐらいしか、存在意義がなかったからさ。ひょっとして、式神を自分に憑依させて、変心させるなんてできないかと思ってな。そのほうが穏便だろ?」
「正直、お勧めせんけどな。失敗してあんたが操られたら、ウチらどうしようもないし。前にゆうたやん。ウチも晴日も、エクソシストみたいなことようせんって」




