12-D 肝試しの計画(2)
結局、直子に説き伏せられ、嶺やライナも含めた7人全員が、講堂に忍びこむことが決まった。説き伏せられたというよりは、強引に押しきられた、といったほうが適切だ。
7人は、2日後の午後8時に、校門の近くで集合することになった。
交渉や議論においてモノをいうのは、ロジックや立脚する事実などよりも、声の大きさと粘り強さなのだと、影郎は改めて実感した。
直子は目的を遂げるが早いか、帰ってしまった。影郎以下6名は、茫然自失のていで、上野公園にとり残された。
立ち尽くす影郎らを尻目に、らんと嶺はいち早く我に返り、少し離れたベンチに腰を下ろした。
「何て強引な奴なんだ!」
正気をとり戻すや、影郎は憤慨した。真具那が思い出されて、ならなかったのだ。
「ごく稀にああなるんだ。普段は比較的大人しめだし、親切な子だよ。どういう場合に変なスイッチが入るのかは、現在調査中」
早月が影郎をなだめる。
「うう、信じないぞ……」
そう言いながらも影郎は、あっさり翻意して、早月の言葉が正しいと思い始めていた。
以前彼女は、らんに対する真具那のふるまいに、たいそう立腹していた。
だから、もしも本当に直子が、彼と同じような人間であるのならば、早月は直子のことを、もっと悪く言っただろう。それ以前に、関わろうとしないはずだ。
「あ。それと、さ。SSSと無関係な人に霊の存在が知られると、困ることがあるのか?」
影郎は問うた。
「え? どうしてそう思ったの?」
早月が聞き返す。影郎がこの点を疑問に感じたこと自体が意外、といったふうだ。
「らんといい早月といい、少々片意地と思えるほど、心霊体験の話とか心霊写真に否定的だったからさ。『それだと霊がいたとは断定できない』とか、『この写真はわざわざ霊を出してこなくても説明できる』とか」
「ああ、そういうこと。確かにボクたち、仙骨のない人と一緒にいるときは、意識的に、霊が存在しないものとして行動するようには、してるかな」
「なぜに?」
「だって、ほら」ライナが語る。「わたくしたちって、人には見えないものが見えるでしょ? もしほかの人の目に映っていないものについて、わたくしたちだけ『ほら、あれが見えないの?』なんて言ってたら、不気味がられるじゃないですか。ですから、ふつうの人には何が見えて何が見えないかには、いつも気を配るんです。霊なり魔法なり、自然科学で存在が証明されていないものについては、わたくしたちもとりあえず、『ない』という前提でふるまうんです」
影郎らが立ち話をする間、らんと嶺も同様に、長いすで2人、語らっていた。
「なあ、嶺。やっぱ、気ぃ咎めるんやったら、ムリに来ぉへんでええよ。直子にはウチらがちゃんとゆうとくから」
「大丈夫。頭が硬いとか、1人だけいい子ぶってるとか、思われたくないし」
「誰もそんなこと思わへんって。直子もゆうとったやん。『いい意味でマジメ』とか、『そういうとこが好き』とか。あれはウチも同感やで」
「いいの」
「ひょっとしてあんた、実は写真のこと気になっとる?」
「それは端的に言って違うわ」
この点だけは、きっぱりと否定する嶺だった。
嶺を含む6人はこの日、アメヤ横丁で買い物などをした。




