表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/61

12-A 登校日

 ライナが滞在している間の晴日たちは、夏休みだというのもあり、ほぼ毎日どこかへ出かけていた。

 回ったのは、観光先として無難な浅草や明治神宮をはじめ、お台場、みなとみらい、鎌倉。そして、晴日にとって念願の、海浜幕張などだ。

 東京23区、神奈川県東部、千葉県北部の目ぼしい場所は、全て行き尽した感がある。


 影郎もできる限り、これに同行した。

 とはいえ、彼だけ1人で留守番をする日も、数日あった。あまり外出しない彼にとっては、さすがに体力の消耗が激しかったからだ。


 7月の最後の平日、期末試験の返却とその解説が行われた。そのため、影郎、晴日、らん、早月の4人は、学校に来なければならなかった。

 彼らが学校にいる間、ライナには上野周辺を散策でもしてもらった。4人が解放されたらすかさず、電話で連絡をとり合って、合流する手はずだ。


 影郎が登校し、教室奥にある自分の席についてから、そう時を置かずして、晴日たち3人が部屋に入ってきた。


 3人が着席すると、今度は宇吹嶺(うぶきみね)が姿を見せた。肩まで伸ばした波打つ黒髪と、トビ色の瞳の持ち主だ。

 嶺はまっすぐ、晴日たちのいるほうへと歩いた。

 7月の頭に行われた席替えによれば、晴日、らん、早月、嶺の4人は、座席が教室の入り口付近に集中しているのだ。

 詳しくいうと、晴日の左がらん、後ろが早月で、らんの後ろかつ早月の左が嶺だ。


「おお、嶺。久しぶりやな」


 らんが手を振った。


「みんな、すごい日焼けしてるじゃない。どこへ行ってたの?」


 嶺は歩きながらカバンを開き、中に手を入れてごそごそしている。


「近場ばっかりよ。浅草とか原宿とか。あと、2回だけ静岡県へ泳ぎにも行ったわね」


 らんに遅れて、晴日も手を振る。


「へえ。中学生のころは、そういう所へもみんなでよく行ったわよね。懐かしいな」


 嶺はカバンから、お菓子の缶をとり出した。

 缶は円筒形で、直径はCDとほぼ等しい。厚さは、高校生の学習用英和辞典ほどだ。

 表面は、鮮やかな青色に塗装されている。

 ふたに緑の文字で、「クッシーサブレ」とある。ふたの大部分を、可愛らしくデフォルメされた、首長竜のイラストが占める。

 同じものがいくつか、開いたままのカバンの口から、見え隠れしている。


屈斜路(くっしゃろ)湖のお土産なのに、見事なまでの摩周(ましゅう)ブルーだね」


 早月が缶を指さした。


「それが微妙にウケて、そのままお土産に選んじゃったの」


 嶺は机の上にカバンを置き、缶を晴日たちに1つずつ、手渡した。

 晴日たちは、口々に礼を言う。


 嶺は立ち上がり、さらに缶を1つ持って、影郎の席の真横まで来た。その後ろに、らんが続く。


「はい、これ。釧路(くしろ)のお土産よ」


 嶺は焼き菓子を、影郎にさし出した。


「え、俺にまで?」


 影郎は驚いた。

 自分はそんなものをもらえるほど、嶺と近しい立場にないと思っていたからだ。


「そうよ。らんちゃんたちが、よくしてもらってるみたいだから」


「逆に俺のほうが、全面的に世話になってんだけどなあ……」


 影郎はためらった。


「それは事実やけど、(もろ)うたらんかったら、せっかく()うたのムダになるやん」


 らんが言った。


「それもそうか。――ありがとな」


 影郎は土産を受けとる。


「で、嶺。郷里には帰ったん?」


 らんは、その場で立ったまま嶺に尋ねた。


「ううん。今回は旅行だけよ。苫小牧(とまこまい)と釧路じゃ離れすぎてて、ついでに立ち寄るのは、ちょっとキツイわ」


 嶺は首を横に振る。

 苫小牧から釧路の距離は、大ざっぱにいえば、東京から福島か豊橋の距離にあたる。


「それもそうか。――親御さんも一緒やったん?」


「ダメ。どっちも都合が合わなくて、お兄さんと2人だけで行ったの」


「ちょっと寂しいなあ」


「そう? もう慣れてるし、それに親と出かけるような年でもないわ」


「まあ確かに」


「おーい。俺の頭ごしに話をするんなら、俺にも分かることを喋ってくれ」


 影郎は会話に割りこんだ。


「ああ、すまんすまん。嶺な、苫小牧の出身ねん」


 らんが言った。


「苫小牧? 北海道だっけ?」


「そうよ。そこで生まれて、小学校を卒業するときに、お父さんが東京に転勤になって、家族でこっちに引っ越したの。――らんちゃんと同じクラスになれてよかったわ。地方から来た子なんて、ほかにいなかったしね」


 嶺はまた、らんのほうを向いた。


「それはウチのセリフや。先に声かけてくれたん、あんたのほうやったやん?」


「だって、東京の人じゃないって、方言で丸分かりなんだもの」


「あ、それひどい!」


「それで、ご両親は忙しいのか?」


 影郎が再度、口を挟む。


「お父さんは去年、仙台へ転勤したの。わたしはナル中にかよってて高校もここになるし、おまけにお兄さんは就活中だったから、お父さん単身赴任になったわ。お母さんはわたしたちと一緒に暮らしてるけど、看護師で夜勤が多くて、1度も顔を合わせない日のほうが多いのよ。仙台はここから北海道へ行く途中だから、北海道へ旅行するなら、途中でお父さんを拾うこともできるんだけど、お父さんもお母さんも仕事が忙しくて、結局いけないって」


 嶺が答えた。


「それで、お兄さんと2人きりだったのか。大変だな」


「全然。さっきも言ったけど、慣れてるし」


「そうだった」


「ホンマはウチらが北海道までご一緒したかったんやけど、バイト入っとって、よう遠出せんかってん。ちょうど今、早月の友達が外国から来てくれとるんや。で、その子と東京とか横浜とか、見て回っとったんやわ」


「それで浅草なんかに行ってたのね」


 またらんと嶺の問答になった。


「実はその子、今この辺におるよ。テスト返しが終わったらすぐ集まって、どっか遊びに行く予定ねん。嶺もどうや?」


「もちろん行くわ。――その子もイングランドから?」


「いや。フィンランドや」


「フィンランド? うーん、トナカイのイメージしか、わかないわ」


「ホンマ? 何とかドワーフって、フィンランドのキャラクターやなかったっけ?」


 話を聞き流しながら影郎は、今までに晴日やらんから聞いたことを総合して、彼女らに早月と嶺を加えた4人が、どういう順序で知り合ったかについて、頭の中でおおよその流れを整理していた。


 まず晴日が8才のときに、児童養護施設で仙骨を発現させ、芽実(めぐみ)に引きとられてその養子になった。

 次いで、らんが兵庫県から、嶺が北海道から上京して、成鸞館(せいらんかん)中学に入学した。2人は、いずれも地方出身だという理由により、意気投合した。直後に新宿で、らんの仙骨が発現して芽実と出会い、らんと晴日が知り合った。

 その前後、早くも6才で魔法使いになっていた早月が帰国し、曾祖母イーファの遺言に従って芽実に接触した。そこで晴日たちと出会った。

 そのうちらんの紹介で、嶺が晴日や早月とも、交友関係を結んだ。

 以上の過程を、影郎は思い描いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ