11-E カンテレの話
影郎たちはその足で、新木場駅に向かった。4月にトウテツと戦った後と同様、そこから電車に乗るつもりだ。
大通りを歩き、駅が見えてきたとき、晴日が口を開いた。
「ライナちゃんが持ってた楽器、私、知ってるわよ。――カンテレでしょ?」
晴日は、自信満々といった顔つきだ。
「違いますよ」
ライナは平然と否定した。
「え?」
「カンテレを知っているのは、正直おどろきましたけど、わたくしのはただのハープです」
「晴日……。あんた一体どこで何を見たんや……」
らんが呆れて苦笑する。
「カンテレはハープみたいに枠の中に弦を張るんじゃなくて、箏みたいに板の上で弦を張るんだ。それに、本体の板もトビウオのヒレみたいな形だし」
早月が説明した。
「そ、そうなんだ……」
晴日は少しばかり、赤くなっている。
「カンテレも持ってますけど、大きくて重いですから、魔法を補助するための道具としては、使わないと思います。別に魔法の道具は、本格的な演奏ができる代物でなくてもいいですし。歌さえ歌えば、楽器がなくても〈ラウル〉は発動しますし」
ライナはハープをとり出して、他の者に見せた。
確かに、戦い始める前に〈スオイェルス〉を詠じたとき、彼女はハープを使っていなかった。
「カンテレって、そんなに大きいの?」
晴日が尋ねる。
「昔はもっとシンプルで、弦も5本しか張られていなかったらしいです。でも、奏法がこなれていくにつれて、楽器自体も進化していって、それに伴ってどんどん大きくなっていったとか。今ではわたくしの11弦でさえ、かなり簡素な部類に入るんですよ」
「ラウラヤって、昔からカンテレなりハープなりを携えるもんなん?」
次いでらんが問う。
「はい、それはもう。叙事詩でも、カンテレはラウラヤを象徴するような存在として、出てきますよ」
ライナはハープを持ち上げて、らんに見せた。
「昨日、『〈ラウル〉の呪歌は巫師が異界で発見した』みたいな話をしたでしょ? ということは、フィンランドにも元は巫師がいたか、1歩すすんでラウラヤの前身が巫師だったかの、どちらかは言えるよね。その巫師が魔法を使う補助として、太鼓とか竪琴とかいった楽器を、使ってたみたいなんだ」
早月が言った。
「あ、その点は〈鬼道〉も同じだな。神典なんかだと、寄り人に霊が憑依するのを促すために、琴をひく描写があるらしいんだ」
影郎は手を叩く。
「ホンマ? いつそんなこと知ったん?」
らんは目を丸くする。
「この前よんだ本に、たまたま書いてあった」
「巫術を介して、〈ラウル〉と〈鬼道〉にそんな共通点があるなんて……。もしかしてティエラ先生、このことを知ってたんですかね?」
ライナは首を傾げた。
このあと5人は、典儀課で記録などをおこなったのち、ライナのリクエストに基づいて、ベーグル専門店で夕食をとった。
聞けば、ライナはパンが大の好物なのだという。




