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9-B 集合場所にて

 待ちに待った土曜日が、やってきた。


 影郎は午前8時半には、吉祥寺駅に到着していた。早く来すぎたのは、移動にかかる時間を、把握できていなかったせいだ。

 吉祥寺は、阿佐ヶ谷からは電車で3駅のところにある。

 だが、影郎は阿佐ヶ谷よりも西へは、めったに行くことがない。そのため吉祥寺までの所要時間が分からず、直感で見当をつけて家を出たのだ。


 北口を出ると、まずは広いバスロータリーが見える。横断歩道を渡って、少し歩いたところに、「サンロード」と呼ばれるアーケード街の入り口がある。サンロード以外にも、商店街や大型の商業施設は、いくらでもある。


 影郎はとりあえず、北口を出てすぐの場所で、他の者を待った。

 空もようはくもりだ。とはいえ、どんよりというほどではなく、今すぐ雨が降り出しそうな気配はない。


 8時45分ごろ、晴日が到着した。


「待った?」


「待ったことは待ったけど、単に俺が早く来すぎただけだな」


「いつからいたの?」


「8時半」


「ええっ!? だって影郎、阿佐ヶ谷からでしょ? どうしてそうなるの?」


 影郎は事情を説明した。

 いちいちそれをするのは、面倒ではあった。が、あまりに楽しみで待ちきれなくて早く来た、などと思われたくない。


 らんが着いたのは、9時5分前だ。


「嶺からメール来たわ。3、40分遅れるってよ」


 影郎たちと合流するや、らんは言った。


「どうしたの?」


 晴日が尋ねる。


「何か、朝がた頭、痛なったみたいやで」


 らんはスマートフォンの画面をちらと見た。メールの文面を確認したようだ。


「大丈夫かなあ」


 晴日は、心配そうな顔をする。


 9時になっても、早月の姿は見えなかった。


「10分になっても来ぉへんかったら、電話してみよか」


 らんは影郎たちに目くばせした。


 案の定、9時10分を過ぎても、早月が現れない。

 らんが電話をかけてみた。


「早月、今どこにおるん? ――え、もう着いとる? どの辺? ――分からんってそれどうよ。駅の中なん? ――じゃあ近くに何みえる? ――ちょっと待って。晴日に地図出してもらうわ」


 話者の一方の発言だけからでも、やりとりのおおよその内容が、影郎にも把握できた。

 恐らく、早月はすでに、吉祥寺に到達している。しかし、駅の外で迷子になっている。それで、今から彼女に周りの風景を説明してもらい、それを元にして晴日が、地図で彼女の居場所を割り出す、といったところだろう。


 らんがスマートフォンのマイクを手の平で抑えて、晴日のほうを向いたときには、晴日は早くも、自分のスマートフォンで、地図のアプリを立ち上げていた。


 5分近く問答が続いた末、早月が井の頭公園へ近づいていることが判明した。井の頭公園といえば、吉祥寺駅の南側だ。

 さらにおよそ15分かけて、らんと晴日は早月を、自分たちの座標へ誘導した。


「ごめーん」


 早月は両手を合わせて、胸元にくっつける。


「早月。ええ加減スマホ()うたら? ここ数回、いつもこれで時間ロスしとるで」


「だって、使いかた覚えらんないんだもん」


「ならせめて地図もって()ぃや」


「うう、らんがいじめるよお」


 早月が晴日にしなだれかかろうとする。


「だから、千葉にしておけばよかったのよ」


 晴日はそれをかわし、足早に早月から離れてしまった。


(根に持ってたんだ……)


 影郎はあきれる。


「晴日。愛してるよ」


「ふんだ」


 晴日にすげなくあしらわれ、早月がよろめく。

 ショックで立つこともままならない、という演出らしい。


「早月って、まだガラケーなんだ」


 影郎は驚いた。


「ガラケーどころの話じゃないわよ。いまだに、もっと古い携帯電話を使ってるの」


 晴日がすかさず答える。


「だって、ガラケーなんて、機能の多さはスマホとそう変わんないんだもん」


 早月はカバンから、自身の携帯電話をとり出して、見せてくれた。

 通話以外の機能がついていなさそうな外観だ。


「変わると思うぞ」影郎は不同意を示す。「いやそんなことより、機械は苦手か?」


「いまだにテレビの予約録画ができないくらいの機械オンチよ」


 これまた、晴日が暴露する。


 4人が盛り上がっているところに、ようやく嶺が到着した。


「遅くなってごめんなさい」


 嶺は軽く頭を下げた。


「大丈夫よ。ただ遅れただけじゃなくて、私たちにさんざん労力を使わせた、とんでもない子がいるから」


 晴日は早月に、(きっ)責のまなざしを浴びせる。


「で、頭痛やゆうとったけど、具合どうなん?」


 らんの顔つきは、真剣だ。


「平気よ。起きたときはひどかったけど、頭痛薬を飲んだら、何とか収まったから」


「気分、悪なったら早めにゆうんやで」


「ええ。がまんして、後で余計に迷惑をかけるようなことはしないわ」


「それはそうと……」影郎は、他の4人をしげしげ見回した。「お前らの服装って、統一感がないな」


 そうなのだ。

 晴日たちは揃いも揃って、着ている衣服の傾向がてんでバラバラだ。


 晴日は、ブラウスにチェック柄のタイトスカート、という装いだ。

 ブラウスは襟や袖口などに、これでもかとレースをつけた、極めて装飾的なものだ。それから、今回もシュシュで髪を束ねている。


 対照的にらんは、ピンクのTシャツに紺のハーフパンツという、非常に身軽な格好だ。動きやすさを唯一の判断基準にして服を選べば、こうなるのかもしれない。


 早月はベージュのタンクトップに、青のジーンズだ。影郎が着ても違和感を与えないくらい、ボーイッシュな印象を与える。


 嶺は、空色のキャミソールを着用している。晴日、らん、早月の3人の誰よりも、ハイティーンの女の子らしい身なり、といえる。


「そもそも統一する必要、ないからな」


 らんは皮肉たっぷりに言った。

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