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魔法少女3人寄ればかしましいなんてモンじゃない  作者: よしゆき
第8回 ルーンマスターの挑戦
33/61

8-C トコヨの神との戦い

 5月はほとんど、式神が来なかった。ヒダル神以後、この月に唯一戦った相手が、虫の幼虫に似た姿の式神だ。


 同月下旬の火曜日、晴日、らん、早月、影郎の4人は、東京都日野市のほぼ北端、立川市との境界付近に来ていた。

 多摩川の右岸で、先月鬼女と戦った場所よりも、かなり上流に位置する。今回も、足下は芝生だ。

 この日は、小雨が降っていた。


 早月は青のダッフルコートを、前回と同様にマントのように羽織るのではなく、全てのトグルをとめた上で、フードもかぶっていた。

 膝下まで達する、丈の長い外套は、いかにも魔術師のローブのような印象を与える。フードに隠れて見えないが、今回もポニーテールを下ろして、三つ編みにしていた。


 影郎は、黒い狩衣と指貫を、身にまとっている。


 いつものように、らんが〈十絶陣(じゅうぜつじん)〉を敷く。

 中央の区画に、4人は陣どった。陣を維持し、制御するらんが真ん中。その両脇を、晴日と早月ががっちり固める。


 今回、彼らの前に現れた霊は、一言でいえば巨大な芋虫だ。


 体型は、芋虫と聞いて真っ先に連想される、ずんぐりしたものだ。

 体節の数は、10余り。

 地の色は黄緑だが、背中に黒い横じまが走る。縞には、オレンジ色の点が見られる。

 人間の胴体よりも、かなり太い。長さは少なくとも、2メートルにはなる。

 約言するに、キアゲハの五齢幼虫を巨大にしたようなものだ。


 通常の大きさならば、よく見えないような小さな器官や、その微細な動きが、この大きさになると、はっきり分かってしまう。

 晴日にとって、気持ちが悪いことこの上なかった。


常世神(とこよのかみ)か」


 らんが言った。


「まず間違いないね」


 早月が同調する。


「じゃあ、五行四大は土よね。木の魔法が効くわ」


 晴日が他の2人を見回す。


「全員で木ぃの魔法、使(つこ)うてみるか。比和の関係にある魔法を同時に撃ったら、互いを補強し()うて、個別に放つんよりも、トータルダメージ大きなるで」


「それでも大丈夫だと思うけど、万一たおしきれなくて、反撃されると怖いよ。ヒダル神のときみたいに、タイミングをずらさない?」


 早月は慎重派だ。


「晴日はどう思う?」


 らんが晴日の目を見やる。


「私は……、らんちゃんの案でいいと思う。あの芋虫、敏捷そうには見えないし」


 晴日はらんを支持した。


「じゃ、そうしよっか。せーので行くよ」


 2対1に分かれた時点で、早月はあっさりと自論を撤回した。これはいつものことだ。


 作戦会議は、1分たらずで終了した。

 トコヨの神はまだ、〈十絶陣〉の外にいる。


 早速らんは、桧扇(ひおうぎ)で〈十絶陣〉を変形させた。

 トコヨの神が目指す区画、すなわち晴日たちの正面に、第3の陣〈天絶陣(てんぜつじん)〉を展開する。


 晴日は(けん)を手にとり、帝釈天に奉献された呪文を口ずさむ。


――神官たちよ、(その)神にお神酒を供しなさい。其神は欲しておられます。其神は総てを知暁され、なす所に一切の不足は見られません。たやすく贄を手にされるでしょう。何人にも追従することのない、森厳なる()典の主宰者は。

 底知れぬお神酒の空け手のみ前に進み出なさい。お神酒のつゆと共に。剛健なる震(てい)の覇者のみ前に。あふれんばかりのお神酒で満ちた器を手に。

 あふれ出るお神酒を手に、いましが其神のみ前に進むときには、聡明なる震霆の覇者は、いましの願いを知り抜いておられます。そして敵の鎮圧者は、定めてそれを叶えられます。どのようなことを望もうとも。

 神官たちよ、其神に供物を捧げなさい。そして其神が何時も、克し得るいかなる敵の悪意からも、()どもをお守りくださらんことを――


 晴日の円盤は〈マヘンドラストラ〉を宿し、薄紫色に輝き始めた。


 早月もフレイルを構える。

 その周りを、硬貨よりもふた回りほど大きい、20個を下らぬ輝石が輪のようにとり囲み、回転した。

 同時に、木の枝らしきものがおよそ20本現れる。それはルーン・ストーンの輪と交差する、別の円になって回り出した。

 いずれも、長さと太さは早月の中指と同程度だ。


「今回は〈(ダル)〉だね」


 早月の言葉に呼応して、枝の円から1本が抜ける。枝には、2本の長い縦線と、これに対して左から下ろされた、2本の短い垂線が刻まれている。

 枝は早月が持つ振り杖のうち、その手に握られていないほうの棍に、セットされた。


 トコヨの神が、〈十絶陣〉に入りこむ。


「行くよ。……せー」


「……のー」


「……でっ!」


 らんは、桧扇の先で天を指し示し、それを式神のいる方向に向けて、一気にふり下ろす。

 敵の真上に稲妻が発生した。〈天絶陣〉の雷だ。


 晴日は〈マヘンドラストラ〉、すなわち帝釈天の矢を投擲した。

 ()は周囲に電流をまとい、敵めがけて突進する。


 早月は得物をふるう。

〈ダル〉が装着された棍もまた、晴日の〈アストラ〉と並んで霊に迫った。


 3つの雷の魔法は、同時にトコヨの神に到達した。その瞬間、辺りを真っ白な光が包み、爆鳴が響いた。

 晴日は音圧で、体が跳ね飛ばされそうになった。


 光が止むと、トコヨの神の姿はなかった。ただ、たった今までそれがいた地点の草が黒く焼けこげ、煙を上げていた。


「終わったね。それじゃあ、帰りますか」


 早月が晴日とらんに声をかけた。


「影郎、行きましょう」


 晴日は後ろをふり向く。

 そこで、影郎はやや険しい顔をして、突っ立っていた。

 何を考えているのかは、晴日には推し量れない。だが少なくとも、3人ほどいい気分でないのは明白だ。


「どうしたん?」


 らんが尋ねる。


「お前ら、つくづく恐ろしいな」


 影郎が微動だにせず呟いた。


「それさあ、ふつうの人間に言われたって何とも思わないんだけどね……。よりによって、同じ魔法使いから言われたかないね」


「っちゅーか、ウチからしたら、〈帰神法〉が発動しとるときのあんたのほうが、よっぽど怖いわ。ウチらがよう倒さんモンを軽々と倒しよるし、おまけに頭と手ぇ、ダラーンってなっとるし」


 早月、次いでらんがやり返した。

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