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魔法少女3人寄ればかしましいなんてモンじゃない  作者: よしゆき
第6回 それは命がけで守る値打ちのあるものですか?(1)
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6-D 偽予言書騒動

 3人はいつも通り、典儀課に戻った。


 すると辰午が、A4用紙をひらひらさせながら、彼らを出迎えた。


「この前もってきてもらった本の問題の部分、訳し終わったよ」


「もう終わったん? 早ない?」


 らんが驚く。


「記述自体が少なかったからね。これが該当するページだよ」


 辰午はA4用紙を机に置いた。

 紙には、本の見開き1つが、等倍でコピーされている。影郎が晴日の家で見た通りの、得体の知れない文字が、びっしり並んでいる。


「何の文字ですか?」


 影郎は机に身を乗り出した。


神代(じんだい)文字さ」


「何、それ?」


 晴日が影郎の後ろから、紙をのぞきこむ。


「漢字が伝わる前から、日本で使われていた文字だってさ。でも学問的には、せいぜい15世紀以降に作られたニセモノだろうって言われてるんだ。芽実さんも否定的で、神代文字で書かれているから、この本は複写に値しないって判断されたみたいだよ」


 辰午は紙を裏返した。

 裏面は2段に分かれていて、どちらも明朝体の文字が、横書きで印刷されていた。上段はひらがなのみ、下段は漢字かな交じりだ。


「こっちは何?」


 晴日が尋ねる。


「上が神代文字を、そのままひらがなに置き換えたもの。下が、適宜それを漢字に改めたものだよ。神代文字は、50音と1対1で対応してるんだ。――贋作だとされる根拠もそれなんだけど」


 辰午が、裏面の記載をところどころ指さしながら、説明した。


「だからシンゴ、こんな妙ちきりんな字が読めたのね」


「それで内容なんだけど、大ざっぱに言えば、こんな感じかな。『この世の終わりかと思えるような災いが生じたときに、15才か16才くらいの少年の巫師(ふし)が現れて、諸神の助けを得て世界を救うであろう』だって」


「ずい分アバウトね」


「どちらかというと、災いについての記述のほうが主だったんだ。僕の記憶だと、もっと影郎くんと符号するようなことが、いっぱい書いてあった気がしたんだよね。でも、『15、6才』と『少年』と『巫師』ぐらいじゃ、特定性がちと貧弱だな。これだと、たとえ神代文字で書かれてなくても、当てにならないと結論づけてたと思うよ」


「探して損した……」


 晴日が不平をもらす。

 本命だったベルジャン・チョコレートを食べに行く計画がおじゃんになったので、お遣いをする目的が果たされなかったからだろう。


 辰午は酷評したが、影郎はこの予言書が本物だと信じたかった。彼には、年齢と巫師という情報だけでも十分に、自分のことを指しているような気がした。

 救世主になることなど、今時の若者なら、少なからず夢見ることだ。影郎とて、例外ではない。


「影郎くん。芽実さんの本のうち、今回の『神州啓示記』以外は全部、前からコピーが帝室庁に保管されているんだけど、その中にも〈鬼道〉に関するものがいくつかあるんだ。もし読みたいのがあったら、僕に言ってくれれば、いつでも再複写してあげるからね」


 言いながら辰午は影郎に、A4用紙をもう1枚、手渡した。

 これも両面印刷で、どちらの面にも細かい字で、書名と記号がびっしり記載されている。〈鬼道〉についての記述があると、辰午が記憶している本の一覧のようだ。


「俺でも読めそうですか?」


「そのままだと、ちょっと厳しいかな。これにのってる本のほとんどは、歴史的かなづかいと旧字体で書かれてるからね。まあそれについては、僕が現代表記に改めておくよ」


「辰午さん、そんなこともできるなんて、すごいですね」


「君たちも高校で古文を習ったら、江戸時代前後の本なら、辞書さえあればそれくらい、できるようになるよ」


 辰午はほほえむ。


 影郎は逆に、胃が痛くなった。大学受験ではそのようなレベルまで、古文の実力が求められるのか、と思ったのだ。


 らんたちは、いつものようにソフトウェアなどへの記録をおこなった。

 その後、3人は帰宅した。

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