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4-F 帰神法の話

 このあと晴日とらんは、私服に着替えた。

 影郎を加えた3人は、帝室庁を退勤して、浜松町駅の方向に歩いた。らんがスマートフォンで見つけたパスタ専門店で、夕食をとる予定だ。


 3人は芝公園を通り抜けて、大門通りという街道を、東へ進んだ。進行方向を向いて車道の左側、すなわち道全体の北側を歩いた。

 右手の車道はというと、帰宅中と見られる自動車で、だいぶ混雑している。


「今日は、完全に足手まといだったな」


 影郎が気落ちして言った。


「全くその通りやな」


 らんが笑いながら全肯定する。


「気にすることないわよ。まだ仙骨が発現したばかりなんだから。私だって、魔法を習い始めてから最初の1年は、少しもうまくいかなかったのよ。影郎くん、魔法使いになってからまだ1か月も経ってないのに、思うままに魔法を使えたら、私の立場がなくなっちゃうわ」


 反対に、晴日は元気を出させようとする。


「そうなのか?」


「らしいで。ウチも半年くらいは、からっきしやったわ。それに、晴日のお見舞いに行くとき、電車の中でゆうたやん。『必要な状況下やったら、あんたの魔法が発動するんか知りたい』って。その目的は十分はたしたで」


「それにね、〈巫術〉は魔法の中でも、ちょっと特殊な部類に入るの」


「そうなのか?」


 影郎はすかさず反応した。

 どうも自分は、「特殊」や「限られた」などという単語に弱いようだ、と彼は思った。


「〈巫術〉で霊を自分に憑依させる技法のこと、〈帰神法〉っちゅうねん。で、この〈帰神法〉ねんけど、成功率と安全性に問題があるんやわ。成功率のほうでゆうたら、霊が乗り移ってくれるか否かは、霊のほうの意思にも左右されるから、術の成否に、必ず不確定要素がつきまとうんやって」


「これに対して、〈宿曜道〉とか〈陰陽道〉とかは割合い論理的で、所定の手順を踏めば、安定して魔法を発動させられるのよ」


「あと、こっちのほうが重要やで。〈帰神法〉には、術者の人格が、とりついた霊に乗っとられる、ちゅう危険もあるんやわ」


 らんはここでいったん切った。


「ふーん」


 影郎にとって、この点は成功率ほど興味を引かなかった。


「『ふーん』やないで! 赤の他人が勝手にあんたの体を動かすんやよ? ジキルとハイドみたいやん、それ」


 影郎が危険性を認識していないことについて、らんは慌てているようだ。


「それは別にいい。自分が痛く感じないのなら一生でも体を貸してやるよ」


 影郎は過去2回、自分が憑依されたときの感覚を、思い出した。


 それは、半分だけ眠っている、とでもいうべき状態だ。自分の意思そのものが、頭の片すみに押しやられたような気分になる。

 物ははっきり見えるし、聞こえる。しかしそれが、ひとごとのように感じられる。

 頭の大部分を、憤怒や悲哀のような強い感情が占める。自分はただ、それに引きずられていく。何かとてつもなく強いものに、己の全てを委ねているようで、その感覚は必ずしも、不快ではない。


「とにかく、霊があんたの中に入ってきて意識が飛びそうになっても、自分をしっかり保つこと。これだけは忘れんといてや!」


 らんはやや荒っぽい口調で念を押した。


 このあと3人は、予定通り食事をして、各自帰宅した。

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