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4-C らんとの夕食

 影郎とらんが晴日の家を出たのは、6時過ぎだ。実に、2時間以上も長居したことになる。

 2人は、住宅街を市川駅に向かって歩いた。

 空には、夕日の光がかすかに残っていた。が、ぶ厚い雲が垂れこめていて、夜のように暗い。


「で、どうやった? 晴日、学校におるときよりは、よう喋っとったやろ?」


 らんが影郎に話しかけた。


「お前の言う通りだった。あんなによく喋る晴日を見たの、初めてだ。本当はああいう奴なのかな……」


「『ああいう奴』って……。イヤな奴やないやろ?」


「ああ、もちろん。というか、むしろ逆だな。思ってたより、とっつきやすそう」


「そうか。よかったわ」


「ただ、けっこう毒舌だったな。お前、嫌われてるんじゃないのか?」


「ははっ。どうやろな。ウチ自身がけっこう言いかたキツイから、分からんわ」


 5分も歩かないうちに、ついに雨が降り始めた。バケツをひっくり返したかのような、土砂降りだ。


「げっ! 傘、持ってきてないよ!」


「あそこに『ネブラ』あるわ。雨、弱なるまで、あそこで時間つぶそ!」


 らんが、前方の建物を指さした。

 そこからは、周囲の建物からよりも、ひときわ明るい光が、外にもれている。


「『ネブラ』? ああ。『ネビー』のことか」


 建物は、コンビニエンスストア2軒分に相当する広さで、1階建てだ。屋根の上では、ラテン文字の「N」をかたどった、青と緑の巨大な看板が、光り輝きながら回転している。

 大手ファーストフードチェーン「ネブラスカ・バーガー」の店舗だ。

 ちなみに、先ほどの「ネブラ」と「ネビー」はそれぞれ、近畿地方および他の地域における、ネブラスカ・バーガーの愛称だ。


 2人は、全速力で建物に飛びこんだ。

 入り口付近で、「コンネル・オコンネル」というイメージキャラクターの人形が、彼らを出迎えた。しかし、2人の目には入らなかった。

 彼らは先に、2人がけの小さなテーブルの上にカバンを置いて、座席を確保した。次いで、カウンターで看板商品の、「フライドバーガー・セット」を注文した。

 これは名前どおり、パンが揚げパンになっている。


 当初、2人は飲み物を1品だけ注文して、雨が弱まったら即座に、店を飛び出すつもりだった。が、夕食時というのもあって、店内に充満するおいしそうな匂いの誘惑に負け、ここで晩ご飯を食べることにしたのだ。

 料理がのったトレーを机に置き、2人は席についた。


「はあ。もう、最悪……。今のでめっちゃ疲れた」


 らんが、不愉快そうにほお杖をついた。


「俺も。帰ってから、宿題する気力あるかな」


 影郎が窓の外を見る。

 雨は弱まるどころか、ますます激しくなっていた。水音が、店内まで聞こえてくる。

 雨粒の引く筋が、地面に対して45度の角度で落ちている。風が強くなったようだ。


「いっそ、ここでやったらええやん。絶対しばらく止まんで、これ」


「終電までに、止まなかったらどうしよう」


「濡れながらでも帰るしかないやろ。ウチは最寄り駅が日暮里(にっぽり)やから、まだマシやけど、あんた阿佐ヶ谷なんやろ? 大変やなあ」


「まあ、大変っていうほど、所要時間に差はないと思うけど」


 2人が食べ終わった時点で、雨は降り始めた直後の強さに戻っていた。

 影郎たちは、どちらからとなく宿題を始めた。


「そういや、今朝の降水率、何パーセントやゆうとったっけ?」


 らんがふと、手を止める。


「確か30パーセント。まさかこんなに強く降るなんて」


「30!? しもうたな……」


 らんが意味ありげに言った。


「どうした?」


「あ、いや。何でもない、何でもない」


 影郎たちが宿題を終えたころには、雨も上がっていた。時刻は9時半前後だ。

 2人は店を出て、市川駅を目指して歩き始めた。


「靴ん中、ぐしょぐしょで気持ち悪い。明日の朝までに乾くんかな?」


「魔法で火を起こせばいいじゃん」


「待てい。アパートの部屋でそんなことしたら、火事になるわ。あと、そんなことのためにいちいち魔法つかうの、メンド臭い」


「そんなに労力を使うのか、あれ?」


「靴を乾かす目的やったら、ガスコンロの火ぃであぶったほうがまだマシ、てぐらいにはな」


「役に立たん……」


「除湿機の代わりにするのに向いてへんだけで、使い道は色々あるわ。特に、式神はあれでしかよう焼かんしな」


 その後も、2人は雑談をしながら駅にたどりつき、電車に乗った。

 彼らは東京駅で分かれ、影郎は中央線快速に、らんは京浜東北線に乗って帰宅した。

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