13話 苦悩
オーディンは、村がいつもと違うと感じた。
(うむぅ・・何か強い魔力を感じるな・・
しかし村の中は平穏そうだな・・。問題なかろう)
「セリーヌ様、今、串焼き屋の前を通りました」
アヤちゃんから念話が入った。
道筋から行けば、道具屋から薬屋、
そして酒場の順に訪れるだろう。
しばらくすると、道具屋のミリアから念話が入った。
「今、店先に居ます。私は店の裏手にいますので
気づかれてはいないと思います」
しばらくするとリベラから念話が入った
「こちらへ向かってきておりますわぁ・・
出ましたら、連絡します」
「む?店主はおるかな?」
リベラは、普通に
はぁい、お待ちくださぁい、と言い、
店主を呼んだ。
そのあとは、裏へと引っ込んだ。
「店主、いつから人を雇ったのだ?」
エルフの店主はある程度事情を聞いているため、
ドキッとした。
「あ?あぁ・・昨日からですよ。
調合などをね、やってもらっています」
「そうか・・これが今日持ってきた薬草だ。
確かめてくれ」
オーディンは、珍しい薬草を店先に並べた。
店主が品定めをしている間、オーディンは
いつもと違う、村の雰囲気に違和感を
強く感じ始めていた。
商談が終わり、代金を受け取り、
いつものように酒場へと行こうとしたが、
違和感の実態がハッキリしないため、
村の出口の近くにある串焼き屋で
酒を買うことにした。
それを見ていたリベラはセリーヌに念話を送った。
「セリーヌ様、何か感づいたみたいで、
そちらの酒場はスルーみたいですわぁ。
もう、村の出口に向かっています」
「え?そうなの?んーーわかった。いくわ!」
なにを感づいたんだろ・・やっぱり魔力を抑えても
わかるもんなのねー・・
取りあえず、出口へいかなくちゃ。
「店主さん!ちょっと抜けます。ごめんなさい」
店主は店の奥から、おう!わかったーと返事を返した。
えーと・・出口・・
あっ!あれか?あの人なのかな。
アヤちゃんに聞こう。
「アヤちゃん、あのマントを
頭からかぶっている人?」
「はい。そ・・そうです。
今、こっちに向かっていますぅ」
私は、オーディンという人に追いついた。
背中越しに話かけた。
「あ・・あのー・・」
オーディンが振り返った。
一瞬、鋭い殺気が放たれた。
私は本能的に後ろへ飛び下がった。
頭からかぶったフードの隙間から
白髪の老人の顔が見えた。
長い髭をたくわえ、片目だった。
開いている目から、鋭い眼光が私を貫いた。
「ほう?お嬢さん、ワシに何かようかな?」
穏やかだが、重い口調だ。
ここまで来たんだ。正々堂々と言おう。
「オーディンさんで間違いないでしょうか?
私はセリーヌと言います。
貴方を探して、はるばる旅をしてきた者です」
目を見て、堂々と言った。
「んー?ワシを??
いかにもワシはオーディンじゃが、
そなたの様な若いお嬢さんには、
縁のない年寄だが?」
警戒はしているが、理解は出来ないようだわ。
「実は私、魔道剣士の特性を持っております。
あなたにスキルのご教授をお願いしたく、
ここまでやってまいりました。
それと、これはダミア王からの
紹介状です」
私は紹介状を差し出した。
不思議そうな顔をして、オーディンは
それを手に取り読んだ。
「ふむぅ・・ダミア王か、余計なことを・・
で?お前さんだけではなかろう?」
「はい。ツレが3人・・いや、3人と1匹?かな・・
います!でも、ご教授を願うのは私だけです」
「それで納得いったわ。この魔力・・
一人だけのもんじゃなかろうて。
ダミア王の紹介状があるのであれば
話は聞かんわけにはいくまい・・
ワシはそこの串焼き屋で一杯やっておく。
話を聞くのはその後であれば、いいだろう」
「はい。では後程改めてお伺いします」
一旦、宿屋にみんな集まった。
揃ったところで、改めて串焼き屋に向かった。
オーディンはゆっくりと寛いでいるようだった。
この人は・・酔ってないみたいね・・
「オーディンさん、よろしいでしょうか?」
「ん?あぁ・・わかった。一旦、村をでようかの」
オーディンは串焼き屋から買い求めた葡萄酒を持ち、
出口へと歩いていった。
村を出てすぐのところに林があり、その中を抜けると
少し開けた場所に出た。
「ここらでよかろう」
オーディンは荷物をおろし、木の切り株に腰を掛けた。
「で?お嬢さん、魔導剣士とか言っておったな?
今は魔力を抑えておるのだろう?
解放してみなさい」
「は・・はい」
みんなが見守る中、リベラから教えてもらった
魔力抑制のスキルを解放した。
ドゥーンッ・・・
「こ・・これは・・むぅ・・」
オーディンは少し驚いたみたいだった。
「うむぅ。セリーヌとか言ったなぁ・・
ここまで魔力があるのなら、魔導剣士など
目指さなくても良いのではないのか?」
オーディンが回りの皆も見回して言った。
「いえ、今の私は中途半端です。
与えられた特性を生かし切れておりません」
「うむぅ。悪いがワシは剣を教えることなど
しておらん。話は聞いた。もういいだろう」
オーディンは腰を浮かした。
「ちょっと待ってください!
それだけで終わりなんですか?
私は強くならなければいけないのです。
せめて・・せめて何かチャンスをください!」
私は必死に取りすがった。
今までの事が無駄になるのが怖かった。
「ふむぅ・・では、チャンスをやろう。
これからワシをその剣で切ってみるがいい。
もしこのマントの端でも、
その剣が触れることが出来たのなら、
条件付きで教えよう」
オーディンは、数歩あるくとこちらに向かい
「さぁ・・」
といった。
私はクラウ・ソラスを抜いた。
「ほう?光の剣か・・めずらしいな」
「行きます!」
私は瞬間移動でオーディンの背中に回った。
マントの端でいいんだ!それぐらいなら!
目の端にマントが映った、私は光速で剣を振った。
あれ?空振り??そ・・そんなはずは・・
確かに捉えたのに・・
振り向くとオーディンがいた
私はフルパワーで速さを最高速に持っていった。
マントが・・マントすら・・捕まえられない。
剣を振るたびに空振りが続いた。
わ・・私が遅い!!
こんなの初めてだ!
ダメだ、目で見てからじゃ遅いんだ。
気配を感じなければ・・。
私は目を頼るのをやめた。
目を閉じて、全神経を気配に集中した。
かすかな空気の揺らぎが右後ろに感じた。
瞬間、剣を振った。手ごたえがあった!
目を開けると、オーディンの
頭のフードの先が切れていた。
「うむ。見事だ。いいだろう」
オーディンはニヤッと笑った。
オーディンは先ほどの切り株に、また腰を掛けた。
「さて・・条件付きと言ったのを覚えておるかな?」
「はい。どんな条件でしょう?」
「お前さんがたの素性を正直に話してくれんかな」
オーディンは穏やかな顔で皆を見回した。
そうだよねぇ・・黙っているわけにはいかない。
ある意味、ここからが勝負だわ。
私が魔王と言えばどうなるのか・・
魔王には教えられないと言われたら
あきらめるしかない。
私は皆を振り向き、頷いた。
皆は、元の姿になった。
魔界竜と白虎、私とリベラはそのままだった。
「ほう!2体の竜と、白虎じゃな?
噂には聞いておる。
で?薬屋のアンタは、魔法士じゃな?」
「その通りでございますわぁ」
「で、セリーヌさん、アンタは一体何者じゃ?」
言いにくいが、仕方ない。
私はオーディンを真っ直ぐ見据え言った。
「私は・・私は魔王です!」
「・・・・・」
オーディンは呆気にとられた顔した。
冗談と取っていいのか、本当の話なのか
判断がつかない様子だった。
ジャンが言葉を添えた。
「オーディンよ。セリーヌ様は魔王で間違いない。
そして、今は我の主でもある」
「な・・なんと・・・」
しばらく呆然としたあと、オーディンは
笑いだした。
「クッククククク・・アァッハハハハッ!!
これまで生きながらえて、
こんな驚いたことはない!
アァッハハハハ!
な・・長生きはするもんだわ!!
アッハハハ!!」
ひとしきり笑ったあと、オーディンは聞いてきた。
「しかし、なぜ強くなりたい?
魔王であれば、もう十分な力があるであろう?」
「魔導剣士という特性がありながら、
中途半端のままがイヤなのです。
魔導剣士の意味もよくわかっていません」
私は正直に答えた。
魔導剣士とはどういうものなのか、
この目で確かめたかった。
「ふむぅ・・ならば、明日朝、ラランバの東にある
滝に来られよ。
竜がおるのであれば、すぐに来れる」
オーディンは少し考えたあと、そう言った。
「で・・では・・」
「うむ。出来るかどうかはわからん。
なにせワシも他人に伝授したことなぞ、
ないからのぉ・・
いずれにしても、お前さん次第じゃな」
そうだよね・・保障なんかあるわけない。
でも、手に入れたい。
そのためにここまで来たんだ。
次の日、私とジャンとミリアで、
指定された滝の畔に行った。
リベラは薬屋の店主に乞われ、仕方なくそのまま
バイトとして私が魔導剣士のスキルを
手に入れるまで居ることになった。
アヤちゃんは、私の代わりに酒場に
バイトに行った。
串焼き屋さんは、ホッとしてたらしい。
やっぱり失敗続きだったのね・・。
滝の畔に着くと間もなく、オーディンが現れた。
「おはようございます。よろしくお願いします」
「うむ。おはよう。さて、今日は木剣を持ってきた。
来て早速じゃが、これで昨日のように
ワシを打ってみなさい。
今日はワシも木剣を持つ」
オーディンは、私の剣と同じ長さの
木剣を用意していた。
「重さもお前さんの剣と同じぐらいの
重さにしておる。違和感はないじゃろ」
渡された剣を振ってみると、クラウ・ソラスと
ほぼ同じ重さで振りやすい。
「わかりました。仰る通り、同じ感じです。
では行きます」
私は呼吸を整えた。昨日と同じように目で追わない。
感じるんだ。
オーディンは、少し離れて構え、いきなり打ってきた。
え?ななに?
受けるのが精いっぱいだ。
私は一歩遅れたが、すぐに反撃に出た。
「ヌォオオオッ!!」
うん、昨日より感じる。これならいける。
私は光速剣を使い加速した。
目で追うな。感じるんだ。
気配がわかる。剣を振り回すだけじゃダメだ。
大振りすると次の一手が遅れる。
木剣が打ち合う音が数回響いた。
いい!いける。
ここだ!!
私は右手を伸ばし、オーディンの頭に向けて
打ち下ろした。
「ハァーーーッ!」
取った!
瞬間、オーディンは、パシッっと左手で
木剣を頭の上で受けた。
「・・やはりな・・・」
オーディンが呟いた。
そして続けた。
「今一度聞こう。
お前さんは、何故、魔導剣士になりたいのだ?」
「そ・・それは・・私の・・」
「特性なぞ、どうでもいい。
ワシが聞きたいのはお前さんの想いじゃ。
今より強くなるために
魔導剣士になりたいのだろう?」
オーディンは私の言葉を遮って言った。
「はい」
「では、何故、強くなりたい?
昨日も言うたが、今でも十分ではないのか?」
私は答えに困った。
「魔界を・・魔界を守るためには、
魔王として強くあらねばと・・」
「ふむぅ・・あまりイイ答えでは、ないな。
まぁ、それは置いておこう。
一つ聞く、お前さん、魔人や獣人、
亜人や人間、いわゆる『人』と名の付く
種族を殺めたことは、なかろう?」
あ・・・そう言えば・・
「あの・・耳なら奴隷商人のを削ぎました」
オーディンはフッと息を突き言った。
「それは殺めたのではない。
お前さんがビビってごまかしたんだろう。
つまりそれしか出来なかったのだよ」
「な・・なんで・・」
「話を戻そう。
昨日、ワシを今日のように打てんかったのは、
何故だと思う?」
オーディンは諭すように聞いた。
「そ・・それは、慣れてなくて・・・」
「違うな。真剣だったからじゃ。
だからお前さんは、ワシを打とうとせずに
マントばかり追っていた。
だから捉えられんかったんじゃ」
私はハッと思った。
そう言えば、オーディンを斬る気は無かった。
マントを追っていた・・・。
「ワシを斬る気で挑めば、剣を持っていない
ワシのマントなど、いとも容易く
切れたであろうな」
オーディンは木剣を私の目の前に突き付けて言った。
「今日はワシの頭を見事に捉えた。
ワシも木剣を持っていたし、木剣ならワシは
死ぬ事はない」
そ・・そうだ。。安心して立ち向かった・・。
「いいか?セリーヌよ。
魔導剣とは、剣と魔法を極めた先にある。
お前さんの剣には、極めるための覚悟が足りない。
敵は魔獣や魔物、動物とは限らないんだぞ?
それで魔界を守れるのかな?」
そ・・そうだ。私は『人』と名の付く者を
殺めようとは思っていなかった。
「ワシは数多くの戦場で、数えきれない
『人』と言う者を殺めてきた。
しかし、これはワシに限ったことではない。
戦いの場に身を置くという事は、
そういう事なんじゃよ」
そう言い終わると、オーディンは、
木剣を2本とも私に渡した。
そして
「セリーヌよ。生半可な気持ちでは
魔導剣士にはなれん。
一度よく考えてみることじゃな。
今日はもう、帰りなさい。
ワシはしばらく、この滝の畔に居よう。
覚悟が出来るようなら、もう一度来るがよい」
そう言って、オーディンは森の中へ消えて行った。
「わ・・私は・・・」
痛い所を思いっきり突かれた。
自分の甘さ、ネガティブな部分から
目を反らしていた所、いつかはぶつかるであろう
現実から逃げていたんだ。
それを・・あの人・・オーディンは見抜いていた。
私はその場で茫然と立ち尽くした。
「あ・・主・・」
「セリーヌ様・・まずはサラファの村に帰りましょう」
ミリアが言った。
私はうな垂れたまま、ミリアの背中に乗った。
ママもパパも戦った。魔人を数多く戦いの場で殺めた。
楽しい事じゃなかったはず。
平気じゃなかったはず。
私は・・私にもその気になれば出来ると
思い込んでいた。
でも・・たぶん・・このままじゃできない。
どうすればいいのだろう・・
答えが見つからない。
村に着いた。
私はミリアやジャンに一言も話しをできなかった。
宿に帰って、部屋にこもり、考える。
自分の甘さ加減に腹が立つ。
こんなので・・・奴隷を救うなんて・・
バカみたい。
何をいい気になってたんだろう。
私以外の皆は、数多く戦いの場に身を置き、
『人』を殺めてきたはずだ。
リベラもミリアも、ジャンも。
アヤちゃんだって、そうかもしれない。
その覚悟が私にできるのか・・。
奴隷商人だって、耳を削ぐことで
誤魔化していたのかも知れない。
命は取ることはできなかったから。
キレイごとばっかり。
自分がイヤになる。
私は部屋の隅で膝を抱えたまま、
苦悩の無限ループに陥ってしまった。




