第2話「教習! クロドーベル!」【Cパート 警察だ!】
【3】
「今日が午前だけで終わってよかったよ」
「ほんと、土曜日さまさまねぇ」
裕太とエリィは学校帰りに、再び寺沢山を訪れていた。
無論、理由はここに置いてきたジェイカイザーの本体の確認。
ふたりは登山道を少し外れ、本体の方へと獣道をざくざくと進んでいく。
『はたして私の本体は大丈夫なのだろうか……』
ジェイカイザーは携帯電話の中から不安そうな声で裕太に問いかける。
「それを今から調べに行くんだろうが。無事だったらお前のいたっていう研究所とやらに運んでやるから」
裕太の言葉を聞いて、ジェイカイザーの顔アイコンが笑い顔になった。
喜んでいるのだろうが、どことなく不気味な笑顔に裕太は思わず顔をひきつらせる。
「早く終わるといいわねぇ。あたし、帰ったらこれを遊びたいしぃ」
「……結局それ、進次郎に返さなかったのか」
エリィが大事そうに抱えたままのピンク色の箱を見て、裕太は呆れ顔になった。
男向けの成人向けゲームをエリィがなぜ好むのかは不明だが、こう見えてムッツリスケベなのかもしれない。
……いや、日頃からの発言を見れば全然ムッツリではなく、むしろオープンスケベという方が正しいのであろうが、あえて口には出さなかった。
『エリィ殿、私が調べたところそのゲームは現代社会を舞台に日常生活を送る内容のようだ。ぜひとも社会勉強のために貸していただきたい!』
「社会勉強にエロゲを使おうとするな!」
このままではジェイカイザーが変な方向に歪むのを危惧しつつ、裕太はエリィの方へ目を向けると。
「笠本くんにだったら……貸してもいいかなぁ♥」
と、箱を抱きかかえたままモジモジするエリィの姿があった。
裕太は呆れつつも、借りるだけ借りといて明日進次郎に返してやることに決めた。
※ ※ ※
「確か、この茂みの向こうに……」
草を掻き分け、ジェイカイザーを隠していた場所にたどり着いた裕太たち。
しかし、そこにはジェイカイザーの本体の姿はなく、代わりに白と黒のカラーリングが施されたキャリーフレームが立っていた。
「……あれ、場所間違えたか?」
『いや、座標は昨日の場所と同じだぞ、裕太』
「どうしてこんなところに……?」
不思議そうに黒いキャリーフレームを見上げるエリィ。
裕太はこの装飾に心当たりがあり、無意識に冷や汗を垂らす。
「おい銀川、これって……」
「七菱製のキャリーフレーム、PCF―21〈クロドーベル〉よぉ。全高8メートル、本体重量5.6トン。手先の器用さが特徴なんだけどオートバランサーが古いから、足回りの不安定さが欠点でぇ……」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「ここで待ってりゃあ犯人が来るかと思っていたが……」
急に背後から聞こえてきたしゃがれ声に、ふたりはビクンと身体を震わせる。
恐る恐る振り返ると、特濃トマトジュースの紙パックを持った30代くらいの男が、スーツの上にトレンチコートを着た格好でストローを口に咥えながら立っていた。
「まさか笠本のボウズ、おまえとはなぁ」
刑事ドラマから飛び出したかのような風貌の男はそう言って、ずぞぞと音を立ててストローを吸う。
エリィは、驚き固まっている裕太の肩を叩き、小声で問いかけた。
「……誰なのぉ? 知り合い?」
「あ、ああ……。知り合いの“警察官”の大田原さんだ……」
裕太がそう言ったのと同時に、大田原の背後からもう一人、ワイシャツの上にオレンジ色のベストを着たガタイの良い男が、懐から警察手帳を取り出しながら、低い声で言った。
「そこの二人、ちょっと署まで来てもらおうか!」
───Dパートへ続く