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第11話「宇宙海賊と成層圏の亡霊:前編」【Dパート 宇宙ギャルの採点】

 【3】


 ナニガンに案内されて到着した宇宙艦のドッグには、周囲の明かりを反射して光り輝く純白な装甲に包まれた戦闘艦が停泊していた。

 初めて自分の目で見る宇宙艦に、以前エリィが言っていたうんちくを思い出す。

 かつて宇宙船というものは、先端を尖らせた鉛筆のようなロケット型が主流だったらしい。

 しかし現在宇宙を航行する方舟たちは、裕太たちの眼前に広がる艦のような、洋上艦をある程度上下対称にした感じのフォルムが一般的である。

 宇宙とは上下左右というものが存在しない。

 それ故に死角を減らすため底面にもサブ艦橋ブリッジが付き、更に戦闘艦であればビームを放射する主砲や対宙用の機関砲といった副砲すらも、甲板をそのまま鏡に写したかのように底面にびっしりと装備されている。


『大きな船だな、裕太!』

「ああ、そうだろうよ。なにせキャリーフレームを搭載できる大型艦だろうからな」

「ええ、そうですねご主人様。すごく……良いですね戦艦って。なんてたくましいフォルムなの……!」


 気の抜けたような声色のジュンナにギョッとして裕太が振り向くと、まるでイケメンを見た女性のように、彼女がトロンとした顔で艦を見つめるように凝視していた。

 裕太は小声で携帯電話の中のジェイカイザーに「言っている意味がわからないんだが」と小声で相談すると、ジェイカイザーが嬉しそうな声で。


『彼女、アンドロイドだからきっとゴツい機械が好きなのだ。私も本体でたくましさをアピールすればジュンナちゃんを振り向かせることができる可能性が……!』

「無いから黙ってろ」

『酷いぞ、裕太!』



 ※ ※ ※



 エスカレーターのような構造になっているタラップに運ばれ、艦側面にポッカリと空いた乗員用出入り口からナニガンの艦〈ネメシス〉に搭乗した裕太たちの目の前に、飾り気のない白いタイル状の通路が顔を見せた。

 

「あ、そこ気をつけてよー。この間の戦闘でぶち抜かれたところだから。焦げでコケたら大変だからね、ハッハッハ」

「あ、ああ……」


 ナニガンの注意に従い、通路の窓際半分が黒焦げになり床には大きな穴が開いている箇所を慎重に通り過ぎる。

 この場所は外観から見たときに異常を感じられなかったのだが、壁が乱雑に釘で打ち付けられた木の板で塞がれているのを見るに、苦しい応急処置でごまかしているのだろう。

 こんなので宇宙に出られるのかと不安になりながらも進んでいくと、白い宇宙服を着たような格好の男数人とすれ違い、足を止めた彼らに話しかけられた。


「補充のクルー……じゃないよな? 艦長、この学生達はいったい?」

「ああ、大口のお客さんだ。お金のめどが立ったし、発進準備よろしくね」

「アイ・サー!」


 軍隊の真似事のように敬礼をした男たちに、裕太はなんとなく敬礼を返すとハハハと彼らに笑われてしまった。

 エリィ達もつられて笑い始めたので、裕太は居心地が悪くなってガックリと肩を落とした。

 落ち込む裕太の肩を、ナニガンはポンと叩き慰める。


「まあまあ、落ち込みなさんな。あいつらだって悪気があったわけじゃないんだし。さ、ここが艦橋ブリッジだよ」


 ナニガンが懐から取り出したカードを扉にかざすと、その一際大きな自動ドアが左右にスライドして開き、艦橋の景色が目に飛び込んできた。

 中央の小高い場所にはいかにもな艦長席があり、その周囲には操舵やオペレーティングを行う機械類とそこに就く人の座る椅子が配置されている。

 そこに座っていた男たちが裕太たちの方へ振り向き、気さくに手を振る。

 裕太たちも手を振り返していると、席のひとつに座っていた少女がパァっと明るい笑顔を見せながら立ち上がり、ツインテールに結われた髪を揺らしてスキップで近寄りナニガンの腕に抱きついた。


「ねぇ、パパ! この人たちお客さんね! お仕事が来たのね!」

「こらこら、艦の中では艦長と呼びなさいって言ってるでしょう。姫様、紹介するよ。オレの娘のレーナ」

「レーナ・ガエテルネンでーっす! よろしくねお姫様!」


 自己紹介をしながらレーナと名乗った少女はエリィの手を握り、笑顔のままじっと彼女の顔を観察するように見つめた。

 エリィが若干引き気味に「よ、よろしくね」と言い淀みつつ返事をすると

「うーん、87点ね!」と無邪気な声で言い放った。


「へ?」

「あなたの顔の可愛さよ。すっごい薄化粧ね。全然お化粧したように見えないわ」

「えっとぉ、あたしお化粧なんてやってないけど……」

「ウッソ!? この可愛さですっぴん!? あぁーん、さすがお姫様。わたしみたいな凡人とは次元が違うということね……!」


 そう言いながら、目線の先をエリィから裕太に変えるレーナ。

 ジロジロと睨みつけるような表情で数秒裕太の顔を覗き込んだ後、レーナは「へっ」と小馬鹿にするような表情をして鼻で笑った。


「41点。次!」

「おい待て、いきなりジロジロ見て低得点たぁ失礼なやつだな」


 裕太がしかめっ面をしてレーナを睨みつけると、彼女はベーと舌を出して悪びれる様子もなく裕太を睨み返す。


「あーら、わたしは率直に感想を述べただけよ」

「確かに笠元くんはカッコいい顔というよりはちょっぴりカワイイ系だけど……それでもとっても素敵な人なんだからぁ!」

「おい銀川、フォローの方向がおかしいぞ!」

「そうですよ。ご主人様は劇的にイケメンとも最悪に不細工とも言えない半端な顔ですね。やや女性よりな面も見えます。総じて【微妙】ですね」

「ジュンナてめー、あとで覚えてろ」



    ───Eパートへ続く

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