第10話「フルメタル・ガール」【Aパート 解かれた封印】
【1】
ガコン、と音を立ててその蓋は開いた。
廃品置き場にひっそりと横たわっていた飾り気のない無機質な円筒形のカプセル。
その表面を覆う幾重もの煤が、長い時間このカプセルに誰も触れていないことを主張している。
むくり、とカプセルの中から現れたのは、一糸まとわぬ長い青い髪の女。
──いや、背中から無数のケーブルを生やした……女の形を成した機械であった。
SD-17と刻印された腕で背中とカプセルを繋ぐコードを乱暴に引き抜き、眼球に似せたカメラから小さな駆動音を鳴らしながら、機械じかけの女は周囲の状況を見渡し観測をする。
辺り一面に散らばる廃棄された機械類。
上を見上げれば暗黒に包まれたながらも煌めく星々。
そして、漆黒のスクリーンにひときわ青く大きく輝くのは水と生命の星、地球。
周囲の状況を把握するとともに、静寂に包まれた無機物の死骸の山々に似つかわしくない、囁くような人間の声が彼女の聴覚センサーへと波形の形で伝わってきた。
「……よし、ここならさすがに誰も見ていないだろう。クックック……!」
「私達、愛国社の復活をこの月の大地に轟かせるのよ……!」
男と女、ふたりの声がする方へと、SD-17は歩を進める。
気配を察知されないよう、器用に廃棄物の上を音もなく渡り歩く。
小高く積まれたスクラップの山の陰から、SD-17は怪しげな会話を行うふたり。
各個の戦闘能力があまり高くないことを認識したSD-17は、死角となっている場所から男に飛びかかり、素早い手刀をその頭部に放った。
「ぐおっ……!?」
小さく短い呻き声を出し、男がその場に音を立てて倒れる。
隣りにいた女は突然の出来事に腰を抜かしたのか、足を竦ませ尻もちをつき、震えた声で微かに「な、何……」と繰り返し呟くだけの存在となっていた。
SD-17は明るみで魅惑的に見えるであろう、ひと目では人間と区別の付かない機械の肉体に星の光を反射させながら、赤く発光させた瞳を女に向けて無言で手刀を振り下ろす。
鈍い音が周囲に響き渡った。
───Bパートへ続く




