第9話「コロニーに鳴く虫の音:後編」【Jパート 家族愛】
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コックピットから降りた裕太たちの前で、サツキの腕の中からツクダニが翅を震わせて宙に飛び上がり、迎えに来たらしい宇宙怪虫の足元に降り立った。
こちらに振り返ったツクダニは、心なしか小さな目を潤わせているようにも見える。
「ツクダニは、彼らワタリムシの女王だったんです」
「ワタリムシの女王? 卵から生まれたばかりだったのに?」
「ワタリムシは群れ……いえ、家族で宇宙を旅する宇宙の生命なんです。でも気性の荒い群れは、他の群れを滅ぼそうとする。ツクダニのお母さんはそうやって、さっきジェイカイザーが倒した女王虫に命を奪われた……」
ツクダニとの別れを感じたのか、サツキの目に涙が浮かび、雫がそっと彼女の頬を伝った。
「けれど、ツクダニのお母さんは死の間際、卵に記憶を移して産み落としたんです。その卵は長い間宇宙を漂い、そしてある時私達のもとへと流れ着いた……。けれど、それを察知した敵の群れがツクダニの存在を追ってこのコロニーへとやって来たんです」
「ってことはサツキちゃん、今眼の前にいるのはツクダニの母親が率いていた群れの一員ってことか」
「そうです、進次郎さん。敵の群れの女王が倒れた今、ツクダニは生き残った敵の群れの生き残りを仲間に加え、率いていかなければなりません。だから……だからツクダニとは……さよならなんです。なぜでしょうか、とても胸が苦しいんです。ツクダニと離れると考えると、とても悲しいんです……」
大粒の涙を溢れさせながら、サツキがへたりこむように座り込み、手を地面につけた。
初めて裕太たちの前で泣いた彼女の背中を、そっと進次郎が撫で、優しい声をかけた。
「それはきっと、サツキちゃんがツクダニを家族だと思ったから、『家族愛』の感情がそうさせているんだよ」
「家族愛……?」
「短い間でも、ツクダニはサツキちゃんの家族になれたんだ。でも、家族の旅立ちを止めちゃいけない。ほら、笑顔で見送ってあげないといつまでもツクダニは旅立てないんだよ」
「ツクダニ……」
進次郎に励まされ、サツキは細く小さな手で自分の涙を拭い立ち上がった。
そして、無理やり作った笑顔をツクダニに向け、そっと手を降った。
「……バイバイ、ツクダニ」
「ギュミーッ!」
長く、聞いていて心地の良い鳴き声を放ったツクダニは、仲間のワタリムシとともに翅を広げ、飛び去っていった。
空高く浮かび上がったツクダニは、やがて外へと通じるダクトの穴へと消えていった。
彼らを見送ったサツキの顔は、悲しげだが、とても晴れやかにも見えた。
※ ※ ※
宇宙怪虫──ワタリムシの襲撃は終わった。
幸いにも、住人が避難慣れしていたこと、コロニーアーミィが的確にワタリムシの数を減らしていたこと、ワタリムシの目的がツクダニだけだったことでコロニーへの被害はそこまで大きくはなく、多少のけが人が出たくらいで犠牲者もいなかった。
サツキは自分がツクダニを持ってきたことでコロニーが襲われた、と自らを責めようとしたが、ジェイカイザーにツクダニの卵が引っかかっていなければ地球で戦いが起こっていた……と進次郎が説き、裕太の父の口添えもあって彼女への責任は問われることはなかった。
そして──
「いやー。憧れの〈エルフィス〉も操縦できたし、なかなかおもろかったな、笠本はん」
「内宮、お前は向こうのシャトルだろうが。おい銀川、早く来ないと置いていかれるぞー」
「ちょっと待ってよぉ! 買い込んだおみやげが結構重いのぉ!」
裕太ら東目芽高校の生徒たちはは班ごとに分かれ、各々が月行きの小さなシャトルに乗り込もうとしていた。
この宇宙をめぐる修学旅行の終着点、月。
それは人類の宇宙進出の始まりの地であり、宇宙における地球から最も近い大都市でもある。
「裕太、元気でやるんだぞ」
「父さんも、腰やったりするなよー」
「ハハハ! 余計なお世話だよ」
見送りに来ていた父と軽い別れを済ませ、やっとシャトルに乗り込んだエリィを追うように裕太もタラップを駆け上がった。
宇宙のタクシーとも言われる小型シャトルの中で、裕太は真っ白な長椅子に腰を下ろし、シートベルトを装着する。
「進次郎さん! 月の街、楽しみですね!」
「そうだなサツキちゃん、月でしか活動していない同人作家の同人誌や同人ゲームが天才の僕を待っているんだ!」
『修学旅行のメインイベントだな、進次郎どの! 私もかねてより購入予定表を書いておいたかいがあるというものだ!』
「お前ら……修学旅行を何だと思ってるんだ」
「いいじゃないの笠本くん、楽しみ方は人それぞれよぉ。あたしも月のファッションを見て回るのが楽しみだわぁ!」
「特に用もない俺はそれに付き合わされるわけだがな……」
四者四様の想いを乗せて、ジェイカイザーの本体入りコンテナを牽引したシャトルはスペースコロニー「アトランタ」を離れ、月へ向けて飛び立った。
……続く
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登場マシン紹介No.9
【エルフィス】
全高:8.0メートル
重量:5.9トン
20年前に起こった地球軍(実質木星軍)対ヘルヴァニア帝国軍との戦争「半年戦争」において、英雄的な活躍により地球軍を勝利へと導いたキャリーフレーム。
当時としてはトップクラスの運動性能に、高性能なビーム兵器を基本装備としており、性能だけなら20年の月日が経ってもなお民間機以上のスペックを誇るまさに傑作機。
デュアルセンサータイプの目と、長い耳のように後方へと伸びたブレードアンテナが特徴。
基本装備は頭部のバルカン砲とビームライフル、ビームセイバー。
製造元のクレッセント社にとっては旗印的な機体であり、以後の多くの機体にエルフィスの意匠が取り入れられており、その全ての機体名に「エルフィス」が付いている。
また、外見のカッコよさから人気も高く、プラモデルやソフビ人形などさまざまなグッズ展開がされている。
【次回予告】
宇宙怪虫との戦いを終え、次なる修学旅行の地は月。
月面に産み出された都市にて買い物を堪能する彼らに、愛国社の魔の手が迫る。
しかし、より恐ろしい存在が裕太の命を狙っていた。
次回、ロボもの世界の人々第10話「フルメタル・ガール」
「あの人の格好って、ニュースで言っていた格好じゃない!?」
「ってことは……」
「愛国社の人を襲った方みたいですね! 敵の敵は味方と地球のことわざにありますが、今日は敵の敵でも敵みたいですね!」
「言ってる場合かぁぁぁ!」




