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第8話「コロニーに鳴く虫の音:前編」【Aパート スペースコロニーへ】

 【1】


「間もなく、当シャトルはコロニー『アトラント』へと到着します。お降りの際はお忘れ物の無いようご注意ください」


 透き通った機械音声の車内アナウンスを聞きながら、裕太たちは窓の外に見えるコロニーに目を向けた。

 現在裕太たちがいるのは、軌道エレベーターの終着駅であるジオポートで乗り換えた、コロニー行きの宇宙シャトルの中。


 軌道エレベーター完成前は宇宙に行く際、地上からロケットのついた宇宙船に乗って、重力と大気圏を突破する必要があった。

 だが、軌道エレベーターがあれば、それを使って人や荷物を宇宙まで一旦上げ、そこから宇宙船に載せ替えることで大幅なコスト削減を実現できる。


「ふむ、スペースコロニーや宇宙船といった、人類の叡智の結晶は何度見ても心躍るものだ。なぁ、裕太?」


 口ではそう言いながらも冷静な態度の進次郎からそう尋ねられた祐太は「別に」とそっけない返事をした。

 別にこれといって、祐太は不機嫌なわけではない。

 ただ、今現在裕太には一つの懸念点があり、そのせいで頭を痛めていたのだ。


『裕太、私の場所からは何も見えないぞ! どうなっている!』


 懸念点が携帯電話経由で口うるさく喚くのを聞いて、裕太は大きくため息を吐いた。

 日頃、警察の人たちに後片付けを一任していたので忘れがちになっていたがジェイカイザーのワープは一方通行である。

 つまり、普段本体を格納している研究所からの行きはワープであるが、その後に研究所に戻すのは自力でやらなくてはならない。

 ジェイカイザーだけ軌道エレベーターで地上に送り返すわけにも行かなかったので、エレベーターガードの面々のご厚意にあやかり、シャトルに括り付ける形でジェイカイザーを移送している……のだが。


「だから進次郎が言ってただろ。そこから外を見ても面白くないって」

『しかし、ネットで見た話だと宇宙を泳ぐ水着のお姉さんが見られることがあると……。もういいから電話の中に戻してくれ』

「何のオカルトサイトを見て影響されたか知らないけど、そっから俺の座ってる席は通信圏外だ」

『じゃあ、裕太が私の方へ近づいてくれないか?』

「もうすぐ到着するのに立てないってことくらい、常識でものを考えればわかるだろうが。ったく、これだからこのポンコツロボは……」

『裕太! 今、私をポンコツと言ったか!』

「あー言ったとも言ったとも。人の話もロクに聞かずに妙ちくりんな噂を真に受けて虚空を見つめるお前はポンコツ以外の何だって言うんだ?」

『むぐぐぐっ…!! 言ったな裕太! 私に二度と乗せてやらんぞ!』

「うるせー! 言う事聞かないのならまた例の動画連続再生の刑だぞ」

『ぐはあっ! そ、それだけは勘弁をしてくれ!!』


 今回の喧嘩は、旅館の一件を使った裕太の勝利に終わった。

 携帯電話越しに声を震わせるジェイカイザーに対し、ドヤ顔で勝利の余韻に浸る裕太。

 その様子を横目で見ていたエリィが、呆れ顔で裕太の顔を覗き込む。


「ふたりとも、よくそんなくだらないことで喧嘩できるわねぇ」

「銀川、頼むから俺とジェイカイザーを一括りにしないでくれ」

「あらぁ? でもふたりって似た者同士じゃない?」

「どこが?」

「ウフフ、自分で考えてみたら?」


 クスクスと笑うエリィの隣で首を傾げる裕太。

 そうこうしている内に発着場にシャトルが停まったのか、一瞬だけ緩やかに車体全体が揺れ、同時に窓の外に見える無機質な壁も動かなくなった。

 外へと通じる扉が開く音と共に、視界内にいる人達が一斉にシートベルトを外し、シャトルを降りる準備を始める。

 裕太たちも同じくシートベルトを外し、締め付けから解放された身体をうーんと伸ばした後、座席の上に入れた荷物に各々手を伸ばして降ろし、自分の腕で抱える。

 最後の番になったサツキが、小さな体をぴょんぴょんとさせて必死にカバンを取ろうとしていた。

 見かねた進次郎がサツキのカバンに手を伸ばしながら彼女に疑問を投げかける。


「サツキちゃん、シャトル乗る時はどうやってカバンを入れたの? というかカバンなんてもってたっけ?」

「持ってませんでしたよ、進次郎さん。でも、あのボールをそのまま荷台に入れるのもどうかと思いましてカバンを作ったんです! ちなみに入れる時はこっそり胴体を伸ばして入れてました!」


 さらっと怖いことを言うサツキに苦笑いを送りながら、裕太はサツキの言うボールについて思い返していた。

 軌道エレベーターから落ちたヨハンを助ける間に、どこかでジェイカイザーが引っ掛けたらしい、白いバレーボールくらいの大きさの球体。

 一見すると純白の真珠のようなボールではあるのだが、宇宙を漂っていたものなのでなんとも得体が知れない。

 まあ、その球体を抱えているサツキが幸せそうなので、裕太たちはあえて何も言わずに放置していた。



    ───Bパートへ続く

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