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第7話「奈落の大気圏」【Gパート 重力の恐怖】

 【7】


 ジェイカイザーに乗って宇宙空間へと飛び降り、地球の重力に従って落下する祐太。

 軌道エレベーターが通ってきたレールを指標にしてジェイカイザーの落下方向を調節し、眼下に微かに見えるヨハンの〈ザンク〉を追いかける。

 地球へ向けて落下しているという現実に、操縦レバーを握る裕太の手が震えだした。

 徐々に大きくなる〈ザンク〉の機影。

 くっきりと輪郭の見える、指でつまめそうな影に思わず手を伸ばしてしまうが、手は空を切るばかりだった。

 正面の画面には、〈ザンク〉までまだ距離がかなりあることが光点で表示されている。


「目視はアテにならないか……!」

『祐太、どうする!?』

「あいつとの距離を測って、ジェイアンカーが届く距離になったら教えてくれ!」

『わかった!』


 距離の確認をジェイカイザーに任せ、落下する〈ザンク〉の軸から外れないように細かく位置を補正する。

 少しずつ大きくなる機影から目を離さず、そして――


『今だ、祐太!』

「ジェイアンカー、発射!」


 ジェイカイザーの腕から放たれたアンカーが、グルグルと〈ザンク〉の周囲を旋回し、胴体をワイヤーで巻きつける。

 手でワイヤーを引っ張っても解けないのを確認してから、裕太はジェイカイザーのバーニアを前回にしながらワイヤーを巻き取り始めた。


「な、何だ!? と、止まった!?」

「ヨハン、無事みたいだな?」


 ワイヤーを巻き取り〈ザンク〉をたぐり寄せながら、裕太は通信回線を開きヨハンに連絡を取る。

 裕太の声を聞き、ヨハンは困惑したような、安心したような感情の入り混じった声で応答をした。


「その声は……たしかエリィさんと一緒にいた……」

「話は後だ、さっさとエレベーターのところまで上昇するぞ」


 ワイヤーの巻き取り終わり、ヨハンの機体を抱えた状態で裕太は操縦レバーを目一杯押し込んだ。

 すると、ジェイカイザーのバーニアが青白い炎を噴出させながら徐々に落下速度を落としていき、やがて緩やかに上昇していく。


「ジェイカイザー、もっと早く昇れないのか?」

『無茶を言うな! 地球の重力を振り切るので精一杯なのだぞ!』

「ヨハン、お前もバーニアを吹かせてアシストをしてくれ!」

「できないよ! 僕が落っこちたのはそもそもバーニアを被弾したからなんだ!」


 ジェイカイザーと〈ザンク〉は、確かに地球から離れていってはいる。

 しかし、上昇を続ける軌道エレベーターに追いつくには圧倒的に速度が足りていなかった。

 目に見えて減りゆくバーニアの燃料ゲージを見て、焦燥を感じる裕太。

 このまま重力を振り切ることができれば、燃料がなくなっても慣性に従って上り続けることができるだろう。

 しかし、もしも重力に捕らわれたまま燃料切れを起こしてしまえば二人仲良く地球に落下。その後は想像したくもない。

 ヨハンも現在の危機的状況を察したのか、情けない声で泣き言を言い始める。


「い、嫌だ! 僕はせめて死ぬんなら綺麗な女の子と一緒に死にたい!」

「うるせぇ! 俺だってお前みたいなナンパ男と心中したくはねえよ! ジェイカイザー! 頑張ってくれ!」

『頑張れと言われても、操縦権は私にはないんだぞ!』


 燃料の減り方を見るに、このままでは確実に重力からは逃れられない。

 何か策はないかと裕太が思考を巡らせ始めようとしたその時、突如ヨハンの〈ザンク〉が手に持ったビームライフルを下に向けて連射し始めた。


「何をやってる!? 血迷って地球に爆撃でもしようってのか!?」

「違う! ビームはオゾン層で拡散して消えてしまうから問題ない……じゃなくって、発射の反動を少しでも足しにしようと思っただけだ!」


 ジェイカイザーの速度計を見ると、たしかにビームライフルを発射したその瞬間だけ僅かに速度が増していた。

 こんな程度じゃ気休めにしかならないが、ここで裕太はひとつ妙案をひらめいた。

 ジェイカイザーの腰部のショックライフルを左手に持ち、右手で〈ザンク〉のビームライフルの持ち手を掴んだ。


「な、何をする!」

「うるせぇ、黙ってライフルを貸せ! ジェイカイザー、ウェポンブースター起動!」

『おう!』


 裕太がコンソールを操作するとウェポンブースターのシステムが起動し、ジェイカイザーの両手首から半透明な黄緑色の結晶が飛び出した。

 その結晶は表面と同じ色の光を放ちながら、手に持ったショックライフルとビームライフルへと巻き付くように伸びていき、銃身を淡く照らし出す。


「対反動アンカー解除! 銃身が焼け付くまでライフルを連射だ!!」

『うおおおっ!!』


 叫びながら操縦レバーのボタンを指が反り返る勢いで連打する裕太。

 ジェイカイザーの手に持ったふたつのライフルの銃口が、通常の何倍も眩しく光り輝き、やがて極太のビームを射出した。

 発射の反動でジェイカイザーの機体が、抱えた〈ザンク〉ごとガクンと上方向に引っ張られるかのように持ち上がる。

 ライフルが光を放つたびにジェイカイザーの上昇速度が増していき、やがて地球の重力を振り切った。

 そのままレール沿いに軌道エレベーターを追うように上昇し、徐々に軌道エレベーターの車両が見えてくるところまで昇ってきた。


「ヨハン、少年! 掴まれ!」


 軌道エレベーターのエアロックから上半身を出し、手を伸ばすガード隊長のものと思われる〈ザンク〉。

 裕太はジェイカイザーのバーニアを上方に噴射させつつブレーキをかけ、隊長の機体に向かって手を伸ばす。

 徐々に近づくジェイカイザーと〈ザンク〉の手は、ギリギリのところで2,3度空振ったものの、なんとか掴むことができた。


「今だ、総員引っ張れ!!」


 手をつかむと同時に隊長がそう命令し、格納庫の中に並んでいた数機の〈ザンク〉が隊長機ごと引っ張り寄せ、ジェイカイザーとヨハンの〈ザンク〉が吸い込まれるように格納庫の内部へ転がり込み、格納庫の床に装甲を擦り付けながら火花を上げる。


「た、助かった……」

「やったぞぉぉぉ!」

「「「「ウォォォォ!」」」」


 ガード隊員達の歓喜の声に包まれる格納庫。

 裕太はコックピットの中で安堵のため息を吐き、コックピットから飛び降りた。

 すると、さっき手を伸ばしていた〈ザンク〉から降りてきた隊長が裕太に笑顔を向けながら握手を求めてくる。


「うちのヨハンの命を救ってくれて感謝する! 君は実に勇敢な少年だな!」

「あ、ああ。困ったときはお互い様ですよ」


 大人に感謝され慣れてない裕太はぎこちない返事をしながら、隊長の握手に応じた。

 他のガード隊員も次々と〈ザンク〉から降りてきて裕太に握手を求めていく。

 大勢の隊員にもみくちゃにされていると、裕太は階段の方向に立っているエリィを見つけた。


「あの娘、君が出てからずっと心配そうに窓の外を見下ろしていたんだ。ほら、行ってやりなよ」


 気のいい隊員に背中を押され、エリィのもとに歩み寄る裕太。

 すると、ヘルメット越しの目に涙を浮かべたエリィが裕太の胸に飛び込んだ。


「バカ……! バカバカバカァ! あなた、もし死んじゃったらどうするのよぉ!! あたし……あたし……!!」

「ご、ごめん銀川……心配かけて……」

「無事で、本当に無事でよかったぁ……!」


 胸の中で泣きじゃくるエリィの背中にそっと腕を回し抱き寄せる裕太。

 そんなふたりを、這々の体で〈ザンク〉から這い出てきたヨハンがじっと見つめ、そして大きなため息を吐いた。


「エリィさんと君との間には、最初から僕の入り込む余地なんてなかったわけだね……」

「助けてやったのに最初に言うのがそれかよ、このナンパ男」

「命の恩人に感謝くらいはするさ。ありがとう、えっと……」

「裕太だ。笠本裕太、覚えとけ」


 そう悪態をつきながらも笑みを浮かべつつ裕太が手を差し出すと、ヨハンも微笑みを返しながらその手を握った。



 ※ ※ ※



「このデカブツのパイロットが、笠本はん……やったとはなぁ」


 その傍らで、ジェイカイザーを見上げながら不敵な笑みを内宮が浮かべていることに、その場の誰も気づいていなかった。




    ───Hパートへ続く

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