エピローグ短編1「ジェイカイザーの初デート」【Cパート デートの準備】
【3】
「とはいえ、8メートル超えのジェイカイザーと一緒に町中を闊歩するわけには行きません」
「こんなこともあろうかとな、ちょっと待ってろ!」
そう言って急ぎ足で玄関へと駆けていく進次郎。
しばらくして戻ってきた彼の手には、2メートルほどの高さの細く大きなダンボール箱が抱えられていた。
「ふんぎぎぎ……誰か手伝ってくれと言うべきだったぁぁぁ」
「カッコつけるからだろ進次郎。で、その箱は?」
「まあ慌てるな、こいつの中身は……これだ!」
留め具を外して展開される段ボール箱。
その中から現れたのは、1体の人間サイズのロボットだった。
ロボット、といっても角張ったいかにもなものではなく、シルエットだけで見ればいいスタイルの男性体と言った風貌。
人工筋肉を包み込む灰色の外皮は柔らかさこそ皆無であるが、しなやかで柔軟性が高そうに見える。
頭部に関して言えば髪が無いためハゲではあるが、わりかしイケメンな面構えの人間らしい肌色の外皮で包まれている。
服を着せた上で帽子かカツラを被せて肌を出さなければ、人間と見間違う見た目になるだろう。
「これぞ、男性型アンドロイドの試作型。スマートモデル3型だ!」
『もしかして、これを私が使えるのか!?』
「OSにはキャリーフレームのものをベースとしたソフトウェアを入れている。であればジェイカイザーでも動かせるだろう」
『では早速! 転送だ!』
裕太の携帯電話からピロピロとチープな音がなると同時に、灰色のアンドロイドのこめかみ辺りが緑色の光を放ち始める。
そうしてしばらくLEDの点滅を眺めていると、閉じられていたアンドロイドの目がくわっと見開かれた。
「おお、おお進次郎どの、裕太! 動く、こいつ動くぞおっ!」
興奮気味にアンドロイドの口から発せられるジェイカイザーの声。
手や足を色々と動かしているのを見るに、特に動作に問題はなさそうだ。
「どうだジェイカイザー。素晴らしいボディだろう」
「進次郎どの、ひとつ困ったことが有るのだが……」
「何だ? どこか動作に違和感でもあるのかね?」
「私の股間に何も付いていないではないかっ!!」
その場でずっこける進次郎。
額に手を当ててヤレヤレといった感じのジュンナは、先行きの不安を感じているようだった。
「どうでもいいだろうそんなことは!!」
「よくないのだ! これではデートの終わり際にホテルへ行って、仕上げの時に突っ込むことができないではないか!!」
「我慢しろ我慢! そういうところだぞ、ジュンナが嫌っているお前の性格!!」
「ぐぬぬぬぬ……裕太に先駆けて童貞脱出とはいかぬか……!!」
わりかしイケメンに作られた顔面から放たれるセクハラ発言の数々に、こんな見た目でも中身がジェイカイザーであることを意識させられる。
とはいえ、今の状態では頭部以外は露骨な人工皮膚むき出しのいかにもなロボットである。
この状態で外には出せないよなと思っていると、エリィがジェイカイザーの背中を押して裕太の私室の方へと向かわせはじめていた。
「エリィ、何をする気だ?」
「裕太の服でコーディネートしてあげるのよぉ! せっかくのデートだもん、精一杯のおしゃれをしなきゃ!」
要領を得ないまま、裕太の部屋へと連れ込まれるジェイカイザー。
閉じられた扉の先からエリィのはしゃぎ声とドタバタした物音が耐えず響き渡る。
無言でぽかんとした表情のまま、進次郎と共に扉を見つめ続けていた裕太。
その扉が再び開かれたとき、その中から出てきたジェイカイザーの姿に、一同は呆気にとられた。
ボーダーのTシャツをインナーに、上着として涼し気な七分袖のシンプルなリネンシャツ。
アンダーはベルトで止めた細目の青いジーパンに黒いソックス。
頭部に被せられたウィッグは、前に学校行事の出し物のために買ったきりの短い金髪のもの。
意図は不明だが、サングラスも良いアクセントになっている。
全体的に派手さは無いが、しっかりとまとまった色使いのコーディネートでまとめられていたイケメンがそこに立っていた。
「ど、どうだ裕太!?」
「どうって……いや、普通に普通だな」
「ほらぁジェイカイザー、裕太ったら掛ける言葉がないのよぉ! ねえジュンナ、これだったら良いでしょ?」
「……そうですね。まあ良いでしょう」
素直じゃない返答をしながら、静かに立ち上がるジュンナ。
そのままどこかへ歩いて行こうとするので、とっさに裕太は呼び止めた。
「おい、どこへ行くんだ?」
「ご主人さまのお母様のお部屋です。メイド服で外に出るわけにもいきませんし、衣服は自由にして良いとお母様よりお達しは出ております」
「あ、ああ……行ってら」
なんだかんだでノリノリじゃないかと思いながら、部屋へと入っていくジュンナの背中を見送る裕太。
またしばらく経ってから、部屋から出てきたジュンナの格好はこれまた見事だった。
空色のロングヘアーによく似合う、光を受けて輝くノースリーブの白いワンピース。
たしかあの服は、裕太の母が若い頃の写真で身につけていたものだったはずだ。
キュッと細く止められているウエストが、ジュンナのスタイルの良さを見事に表している。
また、長いひらひらしたスカート部分も、その下から伸びる細く美しい脚を引き立てていた。
「……どうでしょうか、ご主人さま」
「あ、いや。すげえと思う」
「似合ってるわよぉ、ジュンナ! これでデートの準備はバッチリね! はい、これ!」
まるで自分のことのように楽しそうなエリィが、革製の薄い財布をジュンナへと手渡す。
その場で中身を確認するジュンナが、財布から取り出したのは千円札が五枚。
「日帰りデートだったら、それで十分でしょ? あたしから二人への餞別よ!」
「今はじめて、マスターがマスターで良かったと思いました」
「ひどくなぁい!?」
「まてエリィどの! なぜ私に渡してくれないのだ!?」
「だってぇ、ジェイカイザーに渡したら……ぜぇーったいに無駄遣いするもの!」
「賢明な判断ですね」
「ぐぬぬぬぬぅ!」
悔しがって地団駄を踏むジェイカイザーだったが、信用の無さはこの中の共通認識だった。
───Dパートへ続く




