第6話「死闘! 海中決戦」【Bパート 荷物番ジェイカイザー】
【2】
現在は5月上旬。本来ならば海水浴が行える季節ではない。
しかし、裕太たちの住む場所から電車で数駅のところにあるこの砂浜は、最新の環境制御システムによって年中常夏の気候を維持し続ける事ができる。
もともとは沖に存在する海産物の養殖場の気候維持ためのシステムではあるのだが、範囲に引っかかる形となっている砂浜は一年中海水浴が可能なビーチとして有名な観光スポットとなっているのだ。
「さて、荷物番はどうしようか」
学生だけで海水浴に来た場合の問題にぶち当たる裕太たち。
できれば全員で遊びに行きたいののは山々だが、私物を手に持って泳ぐことなんて出来はしない。
かといって、ここに荷物を置いたままで全員が出てしまうのも防犯上よろしくないので、誰か一人はこの場所で番をしないといけない。
ジャンケンでもするか……と裕太が頭を悩ませていると、サツキがハイと手を上げた。
「荷物番なら私がやりまーす!」
「えっ? でもそれじゃあサツキちゃんが遊べないんじゃ……」
「こうすれば大丈夫です!」
そう言って目を閉じたサツキは、まるで単細胞生物の細胞分裂かのように中央から左右に分かれ、やがて小学生くらいの見た目のサツキふたりになった。
今まで変身は何度も見てきたが、これにはさすがの裕太たちも口をあんぐりと開けて驚く他なかった。
「「これで荷物番の心配はいりませんよ!」」
「「「いやいやいやいや」」」
ドヤ顔のふたりのサツキに向けて一斉に手を振って否定の意を表す3人。
個々の意識とかはどうなっているのかとか、身体が縮むだけで済むのかとかいろいろと言いたいことはあるが今の論点はそこではない。
サツキはそれでいいのかもしれないが、小学生体型ひとりを置いていくのは気が引けるし、連れ去りや声掛け事案が発生する可能性も高い。
せめてもう一手、なにか手段を講じなければ……。
『ううむ、やはり携帯電話からでは水着の美女が見づらいな』
状況を読まずにビニール袋に包まれた携帯電話の中から、ひとり勝手なことを言うジェイカイザー。
ジェイカイザーに見せつけるように、エリィが躍り出て軽くポーズを取る。
「あら、水着の美女だったらここにいるわよぉ?」
『エリィ殿では若すぎる! 私は年上派なのだ!』
「……スクール水着がどうこう言ってた口で言うセリフじゃないわぁ」
エリィが呆れている横で、裕太はひとつ妙案を思いついた。
その案を実行すべく、裕太は濡れ防止のため透明なビニール袋に入ったままの携帯電話を手に持ち、レジャーシート後ろの誰もいない空間で振り上げて叫ぶ。
「ジェイカイザー、カムヒア!!」
『!?』
ジェイカイザーが反射的に行ったのか、レジャーシートをつま先で踏んずけるようにして魔法陣からジェイカイザーの本体がせり上がるように姿を現す。
『裕太、何故呼び出した? 敵か!?』
「小さい金海さんに敵……というか不審者が近づかないように見張っててくれ」
『私に荷物番をさせようというのか!? 私は正義の戦士だぞ!』
「そのメインカメラならそこら辺にいる女の人たちがよく見えるだろう」
『……よし! 任務了解だ、裕太!』
張り切った声で叫び、左腕のシールドを砂浜に突き刺すジェイカイザー。
シールドがうまいこと日除けの影になり、レジャーシートに座る小さなサツキが手を叩いて喜んだ。
「よし、これで問題解決だな!」
「チョロすぎるわよぉ、ジェイカイザー……」
ジト目で呆れ果てるエリィをよそに誇らしげな裕太。
進次郎も「まあ、これなら大丈夫か」と満足そうに頷いた。
当面の問題が解決したので、各々ビーチボールや浮き輪などを手に持ち、4人揃って海を見据える。
「そんじゃ、銀川行こうぜ!」
「ああっ! ちょっと待ちなさいよぉ!」
「進次郎さんも行きましょう!」
「フム……なんだか子守をする気分だが仕方あるまい」
裕太はエリィの手を引いて、進次郎はサツキを抱きかかえて海へと走り出した。
───Cパートへ続く




