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第46話「星を発つ者」【Iパート それぞれの決意】

 【7】


 目を閉じたまま顔を赤らめるエリィの目の前で、裕太は固まっていた。

 せっかくいい雰囲気だったというのに、ガイと内宮が校舎に隠れつつこちらを見ていることに気づいたからだ。


「お前らなぁぁぁぁっ!!」

「なーんや、意気地なし。男らしくブチューっとかましたらんかい! ほれ、ブチュっと!」

「そうしようとしてたんだよ! けどお前らに見られながらできるかよ!」

「あーん! 今、裕太がキスしてくれようとしていたのよねぇ!? ね、ね、ほらあたしは見られながらでもいいからぁ……」

「そういう問題じゃなーーーい! 中止だ、中止!」


 キスされそうになっていたのがそんなに嬉しかったのか、いつの間にか元気を取り戻していたエリィ。

 裕太としてはここで彼女と口づけをして、戦いの前に恋人としての絆を一歩深めようと思っていたのであるが完全に台無しである。


「……もしかして拙者たち、何か悪いことしたでござるか?」


 頬をポリポリと掻きながら、何をしたのかもわかっていないガイ。

 思えば彼も富永巡査も、ひごろから仲良くしているくせに双方ともそういった知識が皆無のためか、恋人というより友人関係から発展していないらしい。

 であれば、裕太たちがやろうとしていたことが理解できないのも無理ではないか、と呆れ顔で諦めた。


「というかオヤジ、あまりにも当たり前にいるから忘れてたけど、タズム界はいいのかよ?」

「うむ、新生黒竜王軍もといネオ・ヘルヴァニアのお陰でパワーバランスが安定したらしくてな。我ら英傑の役目もそこまで多くなくなってある程度の自由が許されたのでござる」

「そりゃあよござんすねえ……そういえば、タズム界って俺達の世界がメタモスに滅ぼされた遥か未来なんだよな?」

「ということはぁ……もしかしてこの世界が平和になったらタズム界が消えちゃう!?」


「その心配はないぞ! とうっ!」


 校舎の屋上からマントを翻しながら飛び降り、格好良く着地する魔法騎士マジックナイトエルフィス。

 久々の登場と派手な出現方法に、裕太達はその場から一歩飛び退いた。


「ひ、久しぶりエルフィスさん……」

「その件についてタズム界の大賢者様に問いかけたのだが、我らの世界は独立した並列宇宙の一つとして確立しているようでな。この世界が平和になろうとも消滅することはないということだ」

「よくわからないけどぉ、平和になっても大丈夫ってことぉ?」

「そういうことだ。我々も、この世界がタズム界へとならぬよう地上から応援しているぞ!」

「応援だけかよ!」

「まあ、拙者達はウチュウとやらでは戦闘能力は発揮できぬゆえ、申し訳ござらん」


 そう言われれば強くは責めれなかった。

 まあ大気圏内だけで戦いが完結しているらしいタズム界出身であれば、当然の話ではある。

 いろいろと一度に起こって、疲れ果てため息を吐く裕太。

 そんな彼を、これまた校舎に隠れた格好で大田原が覗き込んでいた。


「……大田原さん、何ですか?」

「えーと、今出てきてもいいか? ほれ、戦いに向かう坊主にひとつ餞別せんべつをと思ってな」


 そう言って、大田原は裕太の手のひらの上にひとつのペンダントを乗せた。

 くすんだ銀色のチェーンに付いた、見覚えのある小さな飾り。


「これ、もしかして母さんの……」

「そうだ。いつか渡そうと思いつつ今まで渡しそびれちまってな。渡すシチュエーションとしては今が最高だと思って、わざわざここまで足を運んだってわけだ」

「ありがとうございます、大田原さん。……なんだか、気力が湧いてきましたよ」

「そいつは良かった。さあて、ガイにエルフィスさんよ。お二人はちぃとここいらの防衛作戦会議に顔だしてくれや。糸目の嬢ちゃんも、邪魔してばっかりだと恨まれちまうぞ?」

「しゃあないなぁ……ほな笠本はん、また明日な」

「ああ、おやすみ」


 Ν(ニュー)-ネメシスへと向かう内宮、大田原に付いていくガイとエルフィス。

 ようやく、校舎裏が再び静かになった。


「ええと……その、エリィ。キス……するか?」

「ううん、いらないわぁ」


 エリィの言葉に、機を逃したかとがっくり肩を落とす裕太。

 しかし、言葉とは裏腹に彼女は満面の笑顔を浮かべていた。


「今は、ね。全部終わって、平和になったその日まで……お預けにしましょ!」

「戦いが終わったらってか? なんか死亡フラグみたいだな」

「知ってる? こういうやり取りって、ヘルヴァニアでは生存フラグなのよぉ。お母様も、お父様が半年戦争の最終決戦に行く前に、こう言ったんですって!」

「英雄のお墨付きなら、頼れる生存フラグだな……!」


 ベンチに腰掛け夜空を見上げながら、裕太は明日の戦いに向けて英気をみなぎらせた。



 ※ ※ ※



「ねえ、進次郎さま」

「なんだい、レーナちゃん」


 Ν(ニュー)-ネメシスのレーナの部屋で、床に敷かれた布団に横たわる進次郎へとベッドの上のレーナが尋ねる。


「わたし、サツキを助けたあとに……進次郎さまがどういう選択しても、恨みませんからね」

「それって……」

「本当なら、ここで一緒に寝て……進次郎さまと恋人らしいことでもしたいわ。でもそれじゃあ、あの子がいないところでズルをしちゃうことになっちゃう」

「正々堂々サツキちゃんと僕を取り合うって話してたね。美少女二人に求められて、僕は幸せ者だよ」

「そんな本当のこと言われたら、照れちゃいます……。だから、ちゃんと恋愛バトルをするためにも、明日は絶対にサツキを助け出しましょうね?」

「……ああ、もちろんさ。でもレーナちゃん、寝る前にハグのひとつでもしてくれたら僕は……」


 そう言いかけて、レーナが寝息を立てていることに気がついた。

 そういえば彼女の目の下に、深くはないがクマがあったけと思いながら、頭を枕の上に戻して天井を見上げる。


(絶対に助けるんだ、絶対に……! だから……サツキちゃん、待っててくれ!)


 心のなかで強く意思を固めながら、臆病だった少年は目を閉じた。



───────────────────────────────────────



登場マシン紹介No.46

【戦艦級メタモス】

全高:不定

重量:不明


 水金族と同じ擬態能力を持つ怪物、メタモスの尖兵。

 兵士級よりもかなり大きく、名前のとおり戦艦クラスの巨体と戦闘力を持つ。

 擬態対象となっているのは地球にとって未知の宇宙生命体。

 底部に無数の熱光線発射器官と、先端を展開させて極太の光線を放つ攻撃能力を持っている。

 表面を覆う装甲のような外殻は生物としては規格外の頑丈さを誇り絶縁体のためショックライフルも無効化する。

 しかし、ハイパージェイカイザーやΝ(ニュー)-ネメシスのパワーの前には装甲としての役目を果たせなかった。

 ハイパージェイカイザーとの戦いにおいては大気圏上で浮遊していたが、あれはメタモスが擬態能力で内部に別の宇宙生命体の浮遊構造を構築しており、本来の戦艦型宇宙生命体の能力ではないと推察されている。

 巨大で複雑な構造を維持しなければならなためか、攻撃によって分離した破片が兵士級メタモスになるような現象は起こらず、すべての破片が再生のために働きかけている。




 【次回予告】


 宇宙に昇った僕らが見たのは、絶望の輝き。

 けれどもそれに臆することなく、ただ大切なもののために戦いへと向かう。

 愛しいあの子が、一番苦しんでいるとわかっているから。


 次回、ロボもの世界の人々第47話「天の光はすべて敵」


 ────少年よ、輝きを飲み込む光となれ。

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