第46話「星を発つ者」【Bパート 主役の指名】
マザーが片腕をゆっくりと上げ、その言葉が正しいことであることを示すように手を進次郎へと向ける。
「はい、岸辺進次郎さん。あなたこそが、地球をメタモスから救う鍵となる人物なのです」
「……いやいやいや! たしかに僕はサツキちゃんと仲が良かったけど……。そんな、僕の行動一つで地球がどうなるかなんて……そんな無理だよ!」
「進次郎さま、あなたはサツキさんを助けたいって思わないの?」
「……そりゃあ、助けられるなら助けてあげたいよ。でも敵は地球を滅ぼそうっていう連中だし、人間ですらないんだよ! そんな相手に、僕に何ができるっていうんだい!?」
進次郎が必死に否定する気持ちはわかる。
突然、地球の命運が自分ひとりにのしかかっていると告げられたに等しいのだ。
まるで、いわゆるセカイ系というジャンルの物語の主人公のような役割を押し付けられる。
本人としては、たまったものではないだろう。
ガタンと音を立て、突然マザーがその場に倒れ込んだ。
すぐさまシェンが「姉様!?」と叫び側に寄り、マザーは彼女の助けを借りながらよろめきつつ立ち上がる。
「確かに……あ、あなた一人では荷が重いかもしれません……。けれど、あなたにはこんなにも頼れる仲間がいるじゃないですか」
「仲間……」
進次郎が裕太たちの方へと振り向く。
もとからこの問題に対し協力を惜しまない気でいた裕太は、親友を安心させるためにもサムズアップを送った。
「水臭いぜ進次郎。俺たちの力を頼ってもいいんだぜ?」
「そうよぉ! 岸部くんもサツキちゃんも、あたしを助けるために協力してくれたんでしょ? 今度はあたしが助ける番よ!」
エリィに続いて、一拍置いてからレーナが立ち上がる。
彼女は手を震わせながらも、進次郎へとまっすぐ視線を向けた。
「わたしも、進次郎さまをお手伝いします!」
「レーナちゃん……! でも、サツキちゃんは君にとって……」
「確かにあの娘は恋敵ですよ! けれど、私は正々堂々と進次郎さまのハートを掴み取ってやるって決めているんです! このまま進次郎さまの心に傷をつけてサヨナラなんて、させないから!」
ワアっと、部屋中が盛り上がった。
地球を護るための大事業なんて、ネオ・ヘルヴァニアとの戦いですでに一度経験しているのだ。
遥かに規模の大きい宇宙生命体との戦いに対しても、裕太たちとネメシス海賊団のクルーたちの士気は、非常に高かった。
「とはいえ、です」
パンパンと、深雪が手拍子をならして場を鎮めて再び壇上へと上がる。
「この方、マザーの体調も心配ですし、宇宙に出るにしても準備が必要です。ひとまずは関係各所へ連絡をとりつつ作戦を立てます。作戦に同行する皆さんは夜10時までに〈Ν-ネメシス〉へと集合してください。いいですね?」
気迫のこもった低い声に、一同は一斉に首を縦にふる。
それから間もなくマザーはシェンの付添のもと担架で運ばれていき、ナインや他のクルー達は準備のためにとブリーフィングルームから出ていった。
あとに残ったのは、裕太と進次郎、そしてエリィとレーナ。
「……裕太」
「進次郎。お前、強がってただろ?」
「やっぱり……わかるかい?」
「付き合い長いしな。いきなり地球の運命どうのって言われたら、俺でもおっかないよ」
「けどさ、裕太は僕と違って戦う力はあるし、なにより名実ともに勇者じゃないか」
「勇者なあ……」
裕太は、ぼんやりと天井を見上げた。
勇者だなんだと周りで言われてはいるが、その称号が自分に似合うものなのか未だに納得しかねていた。
確かに勇者と呼ばれるに、ふさわしい働きはしているかもしれない。
タズム界で母が英雄をやっていて、その血を継ぐというというのも事実。
だからこそ、自分にそう言われるだけの力があるのかは、甚だ疑問だった。
「なあ進次郎。いったん気持ちを整理したほうが良い。お前が重要な人物だという事実は揺るがない以上、覚悟は決めないと……」
「……そうだな、裕太。すこし、ひとりにさせてくれ」
うつむきながら、ブリーフィングルームを後にする進次郎。
レーナも彼の名を呼びながら、その後をついていく。
裕太もひとまず外へ出ようかと、エリィの手を引いて廊下に出たときだった。
「笠本裕太くん。今、時間は良いかね?」
「訓馬さん……そういえば、俺達に話があるって言ってましたね」
「メタモス騒動のことで言いそびれていたが、これからのことにも関係することだ。ジェイカイザーは今、君の携帯電話の中かね?」
「いえ。外のグラウンドで整備受けさせてます。合体を解いてなかったので」
「それは……好都合だ。そうだな、少し場所を変えようか」
そう言って背を向け、歩き出す訓馬。
裕太はエリィと顔を見合わせ、お互い頷きあってからその背中を追い始めた。
───Cパートへ続く




