第42話「宇宙要塞攻略戦」【Eパート 相容れぬ思想】
【5】
宇宙に飛び出したハイパージェイカイザーの中で、裕太はレーダーに映る光点に目配せする。
「正面より〈ザンドール〉群。行動パターンから察するに自動操縦機です。数30」
「よし、ジュンナ! 敵移動パターンをスキャン、Ν-ネメシスに転送してくれ!」
「かしこまりました、ご主人様」
全機一旦その場で足を止め、レーダーに映る光点が接近するのを固唾を飲んで見守る。
直後、Ν-ネメシスから放たれた無数の光弾が敵陣へと突き刺さった。
次々と爆散する〈ザンドール〉を正面に、再び裕太たちは前進を始めた。
「クラスタービーム、抜群の効き目やな!」
「まあ黒竜王軍以外には撃ってない兵器だから、マークはされてないだろうよ」
「せやけどチャージに時間かかるさかい、こっからはうちらの踏ん張りどころやで!」
「でも、これで敵の頭数は一気に激減! とっつげきぃー!!」
先陣を切って加速する〈ブランクエルフィス〉。
追従するように裕太たちも後を追ってバーニアを吹かせる。
徐々に遠くに見える宇宙要塞が大きく見えてきたところで、再びレーダーに光点が現れる。
「ご主人さま、大量のガンドローン反応。〈クイントリア〉22機と……未知の巨大機体が1機」
「あれ量産機だったのかよ……! 未知の機体って?」
「ナンバーズの中に居るってんなら、ナインでしょ! あたしがテレパシー攻撃で隙を作るから、50点と千秋は要塞に!」
「隙を作るって……おい!?」
そう言い残して、レーナはビームシールドを全開にしながら敵陣へと飛び込んでいった。
※ ※ ※
「……来たか、ゼロセブン!」
オーバーフレーム〈⊿・ヘルヴァ〉のコックピットの中で、ナインは息を呑んだ。
モニターに映る黒いエルフィスの姿を確認すると同時に、頭の中へと流れ込むイメージ。
「くっ……! だがっ!」
周囲のナンバーズが乗る機体から苦悶の声が浮かぶも、ナインは一瞬額を抑える程度で乗り越える。
男同士が絡み合う映像など、この数ヶ月ずっと見続けてきたのだ。
しかし他のナンバーズたちには少なからず影響が出たようで、いくつかの〈クイントリア〉の動きが鈍っているのを感じ取る。
その隙を突いて、飛び抜ける白いエルフィスと派手な巨大ロボット。
そちらの迎撃へと振り向こうとしたところで、ディフェンスドローンが一発のビームを防いだことを知らせる。
今や〈⊿・ヘルヴァ〉はナインの身体そのものだった。
完全宇宙用として設計されたベージュの装甲に身を包んだ巨体は、脚に該当する部位こそ無いが全身に備え付けられた無数の推進機によって、思うがままの動きを実現できる。
また、ビームシールドを伴って周囲を浮遊するディフェンスドローンは搭乗者が感じ取った僅かな変化から危機を予測し防御を行う。
そして、両手の指先全てに装備された高出力ビーム砲により、敵に防御を許さず一瞬で撃滅をする。
「へぇ、あのイメージを受けて平気な顔してるなんて。成長したのね?」
これから〈⊿・ヘルヴァ〉に焼かれる相手が、余裕の声色で挑発をした。
その一言一言がナインの怒りを刺激し、闘志に火を灯す。
「フン、今までの私と同じだと思うと……怪我では済まんぞッ! 目を覚ませッ、ナンバーズども!」
ナインの激を受け、動きを鈍らせていた〈クイントリア〉達が覚醒する。
20機を超える機体から一斉に球状攻撃ユニット・インベーダーが射出され、同時にビームを宇宙空間へと撒き散らした。
※ ※ ※
「レーナはん、囲まれとるで!」
「大丈夫よ、千秋。わたしは大丈夫……!」
四方八方からビームが乱れ飛ぶなか、レーナは一瞬一瞬の安全地帯を見出し、そこへと機体を滑り込ませていた。
攻撃の隙間に潜り込みつつも、背部ユニットに装着したままのガンドローンから2連射を意識しつつ射撃を行う。
一発目のビームで〈クイントリア〉の黒いビームコーティング塗料を吹き飛ばし、二発目で胴体を貫く。
自身は一撃も食らえない極限状態の中、レーナは確実に1体ずつ相手を減らしていった。
不意に背後から5連ビームが襲いかかり、間一髪でスラスターを吹かせ回避をする。
正面に立ちはだかる巨大なオーバーフレーム。
その内部より感じるナインの気配に、レーナは再び精神攻撃を仕掛けた。
「えーい! イケメン寝取りイメージ!」
「無駄な抵抗はやめろ! 私達はこの3ヶ月、“ゲーポ・ルーノ”の鑑賞会と“フムーケドージンシ”の回し読みをし続けて鍛えたのだ!」
「腐向け同人誌? 何の本?」
「刀剣コレクションのムネクニ本だが……なぜそんなことを聞く!」
「それ読んでて、どう思った?」
ピタリと、攻撃が止んだ。
ExG能力のテレパシーが伝搬したのか、先程まで光線が飛び交っていた戦場が凪の海のように静まり返る。
「……悪くはなかった。素晴らしいを超えて尊いと思えるような……そんな感情を抱くほどに」
「でしょ? 地球にはもっといっぱい、尊くて暖かくて、素晴らしい作品がいっぱいあるのよ。それを作品も作者ももろとも焼こうとするなんて、馬鹿だとは思わない?」
「くっ……」
戦場に迷いが広がっていた。
おそらく、火星に浮かぶ要塞という環境では読める作品も限られるのだろう。
地球圏だけじゃなく、月に木星に金星に、尊い同人誌を描く作家はたくさんいる。
彼ら彼女らが書いた魂の作品群を、ナンバーズたちが火星から開放されて手に取れる未来。
レーナはナインに、ナンバーズたちに夢のような生活をこんこんと説いた。
「戦いなんてくだらないわ。同じ血を分けた姉妹でしょ、わたし達。ね、一緒に地球に行ってムネ×クニ本を探そう?」
「あ゛あ゛!? おい貴様、いま何と言った」
レーナの放った一言に、ナインが低い声を放った。
「何って……ムネくんが攻めでしょ?」
「貴様……! やはり貴様は生かしてはおけん!」
通信越しに響く怒声と共に、〈⊿・ヘルヴァ〉が両手の10本指をレーナへと向け、一斉にビームを発射した。
呼応するように周囲の〈クイントリア〉達も〈ブランクエルフィス〉へと攻撃を仕掛ける。
「ちょっと待って! いまいい雰囲気だったじゃない!」
「我々はクニ×ムネ以外は認めない!! ぶっ殺してやるッ!!」
「ああん? そう言うんだったらわたしだって退けないわよ!! クニくん総受け本を持っている身としてッ!! キィェァアアッ!!」
────Fパートへ続く




