第42話「宇宙要塞攻略戦」【Bパート 子供だけの会議】
【2】
Ν-ネメシス艦内のブリーフィングルームにて、正面の大ディスプレイに映し出されるコロニー・ブラスターの傍らに浮かぶ宇宙要塞。
それは3ヶ月前に裕太とレーナが連れて行かれた、あの宇宙ステーション。
地上からエリィ発見の報が無かったからには、彼女はあそこにいるに違いないと裕太は拳を握り固めた。
壇上に登った深雪が、レーザーポインターで要塞を指し示す。
「地上部隊の活躍によって、敵要塞を守るバリアー・フィールドは解除されました。次の作戦は、要塞内へと侵入しエリィさんの救出。並びにコロニー・ブラスターのコントロール掌握となります」
「はいはいはーい! しっつもーん!」
勢いよく立ち上がり、手を上げたのはレーナだった。
真紅のツインテールを揺らしながらその場で小刻みに跳ねる彼女に、呆れ顔で深雪が指をさす。
「ハイは一回で良いですよ。レーナさん、どうしましたか?」
「コロニー・ブラスターを止めるんだったら、砲撃でぶっ壊しちゃいけないの?」
「コロニー・ブラスターなる兵器の構造が不明な以上、うかつな破壊はハイリスクです。万一にでも大爆発を起こした挙げ句、火星に要塞の残骸が降り注ぎなんてしたら、火星の独立国家すべてを敵に回してしまいますよ?」
「うーん、なるほど……」
残念そうに椅子に座るレーナ。
もしかして、ただ主砲をぶっ放したかっただけじゃないのかと思いつつ、裕太は今度は自分だと手を挙げる。
「裕太さん、どうしましたか?」
「敵の戦力はどれくらいなんだ?」
これから戦いに出る身として、気になるのはそこである。
具体的な数がわからなくとも、少しでも前情報があるのとないのとでは心構えは雲泥の差である。
そもそもこちらは実質3機と1隻で要塞を攻めようとしている状況。
正確な敵の情報は何よりも優先される。
「地上部隊の報告によると、ネオ・ヘルヴァニア兵士の大半は地上軍に回されていたそうです」
「……せやったら、ナンバーズや無人機はおらんかったっちゅうことやな?」
「ええ」
ナンバーズ。
人為的に生み出されたクローン兵士達。
エリィからの情報で彼女たちが実戦運用されていることは判明している。
とはいえど、裕太たちが実際に目にしたのはナインだけだが、彼女ほどの実力者が多数存在する事は脅威である。
「つまりは、それらが宇宙要塞の防衛に回されている可能性は非常に高いですね」
「だったら楽勝じゃない!」
再び立ち上がり、得意げに声を挙げるレーナ。
その自信に満ちた目の真意は、今は裕太にしかわからないだろう。
「あの初心っ子ナンバーズ達には、またわたしがテレパシー攻撃すればいいわけだし!」
「テレパシー攻撃?」
「わたしとナンバーズはExG能力の波長が似ているの。だからちょっと刺激の強いイメージを送ればイチコロよ! 現にナインをそれで黙らせたことがあるし」
「それはどうでしょうか? 私がナンバーズの指揮官ならば、送られてくるイメージに対しての対抗訓練は欠かさないと思いますがね」
「ううー……」
至極当たり前の話である。
自陣営の兵士を無力化する方法が分かってて、それの対策をしない軍勢は無いだろう。
残念そうに椅子へと戻るレーナを横目に、裕太はひとつの懸念を抱いていた。
「……なんや? 笠本はん、何か気になるんか?」
その懸念に目ざとく感づいたのは内宮だった。
「いや。あのキーザとかいうオッサンに対しての対策がなかったなって」
キーザ・ナヤッチャー。
旧ヘルヴァニア帝国の実力者にして銀川スグルのライバルだったという男。
キーザにもスグルにも敗北を喫していた裕太には、どうにも彼らへの苦手意識が拭えないでいた。
不安に拳を固める裕太の肩を、内宮が優しく叩く。
「笠本はんは、お姫様の救出に専念せぇ! キーザはんやったら、うちが抑えたる!」
「でも、相手はキャリーフレームじゃなくて重機動ロボなんだぞ?」
「あのなぁ、うちはメビウスおったときに何度もキーザはんと模擬戦しとるんや。大丈夫やて心配すなや!」
自信満々な内宮に、裕太の緊張がほぐれていく。
エリィの救出、それが最初の目標である。
その目的を果たすためにも、裕太の闘志に覚悟の炎が灯った。
────Cパートへ続く




