第41話「火星の嵐」【Hパート ネオノアという男】
【10】
「久しぶりだね、木星の墓地以来かな?」
屈んだ〈雹竜號〉からグレイと共に降りてきたフィクサが、片手を上げて気さくな挨拶をする。
カーティスが「助かったぜ」と礼を言うと、彼は指を横に振った。
「勘違いしないでくれ。邪魔だったから連中を倒しただけだからね」
「フン、よく言う。こいつらがいい感じの状態になるまで待とうと言っていたくせに」
「あ、グレイ。それバラしちゃう?」
「……もしかして、見てたのか?」
静かに頷くふたり。
「ああああああっ!!!?」
二人きりだと思いこんでいたから恥ずかしげもなく吐きまくった臭い言葉の数々が、今になってカーティスの羞恥心に突き刺さってきた。
隣のロゼに心配されるほど頭をかきむしってから、ゴホンと咳払いをしてあらためてグレイとフィクサへと向き直る。
「とりあえず、だ。俺たちゃ今ネオ・ヘルヴァニアってぇ連中とやりあってるわけなんだが、お前たちも奴らを倒すのに協力してくれるってのか?」
「少し目的は違うかな。僕らはヘルヴァニアはどうでもよくて、ネオノアに用事があるだけだから」
「ネオノアって言やあ、大将格だろ? どういう用事があるってんだ?」
カーティスが投げかけた質問に、最初に答えたのはグレイだった。
「まずひとつ。奴は黒竜王軍を利用し、あまつさえ切り捨てた。そして……最大の侮辱行為を行おうとしている。その報いを与えねばならない」
「……よくわかんねえけど、もう一つは何だ?」
「もう一つは僕の個人的な事情だね。君たちは、ネオノアという男がどういった素性の人間か知っているかい?」
フィクサに改めて問いかけられて、敵の大将について何も知らないことを思い出す。
目線でロゼにヘルプを送るが、彼女は首を横に振るだけだった。
「わたくしも、ネオノアについては何も知りませんわ。ただ、ヘルヴァニアに詳しくてカリスマのある男としか……」
「よし、じゃあ簡単に説明しよう。ネオノア……彼のフルネームはネオノア・グーという。ちなみにぼくの名前はフィクサ・グーだよ」
「グー……というと、もしかして旧ヘルヴァニア銀河帝国摂政、グロゥマ・グーの」
「そう、僕はグロゥマの息子。そして、ネオノア・グーは……僕の実兄だ」
※ ※ ※
宇宙要塞の内部、その一角に設けられた自室でネオノアは本を読んでいた。
不意に扉がノックされ、ネオ・ヘルヴァニアの兵士が一人足を踏み入れ敬礼をする。
「ネオノア様、地上基地との連絡が途絶えました。送られてくるバリアーエネルギーの出力も低下していきます!」
「ふむ……やはり連中には荷が重かったか。わかった、キーザたちにも伝えよ」
「はっ!」
兵士が部屋を去ってから、ネオノアはグラスの中身を飲み干しほくそ笑む。
「それでこそ地球人というもの。どうやら、退屈はせずに済みそうだ……!」
自室で一人、ネオノア・グーは高らかに笑っていた。
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登場マシン紹介No.41
【ダイザー】
全長:10.9メートル
クレッセント社が開発中のキャリーフレームの推進補助航空機。
名前が示すとおりキャリーフレームを乗せる薄い台座のような形状をしており、1機につき1体のキャリーフレームを上部に載せて飛行することができる。
ダイザーのコントロールは上に乗るキャリーフレームのOSが握っており、リンクさせた機体であれば遠隔操作も可能である。
この機体にキャリーフレームを乗せることにより、長距離の移動をキャリーフレームの推進剤を使わずに行うことができ、また飛行能力のないキャリーフレームを空路で移動させることを可能とする。
しかも大気圏降下能力もあり、キャリーフレーム単機での大気圏突入をも可能とする。
ダイザー自体に武装は施されておらず、単体で攻撃機としての運用は不可能である。
またコックピットに相当する部分も存在しないため、人力での操縦も不可。
あくまでもキャリーフレームの支援機としてのみ設計されている。
ちなみに、ファンタジーや神話から名前をとることが多いクレッセント社にしては、無骨なネーミングである。
その理由は、ひとえに試験運用中の仮ネームであるゆえであり、Ν-ネメシスでの運用データが取れ次第正式に名前が決定される予定となっている。
【次回予告】
グレイ達の助けを借り、地上基地の制圧を成功させたカーティス達。
これによりバリアが剥がれた宇宙要塞へと、いよいよ裕太達が殴り込みをかける。
エリィと地球を救うために出撃した彼らの前に立ちふさがるのは、ナイン率いるナンバーズ軍団。
そして要塞へと突入した裕太の前でジュンナに、異変が起こる。
次回、ロボもの世界の人々第42話「宇宙要塞攻略戦」
────宇宙に交わされるのは、家族の愛か決別の言葉か。




