第41話「火星の嵐」【Dパート 交錯する罠】
【5】
「あーあー、宇宙海賊ども! 抵抗はやめることだな!」
スピーカー越しに聞こえる男の声。
その声のする方を見ると、〈ザンク〉をアレンジしたような外見の機体がこちらに銃を向けていた。
「ヤンロンではないか。〈ザイキック〉に乗り部隊を率いる身になったとは、えらく出世したものじゃの?」
「状況をわかっていないのか、姫巫女さんよ? これだけの軍勢に囲まれちゃあ、その数で勝ち目はないだろう」
ヤンロンと呼ばれた男の言う通り、数ではこちらが圧倒的に劣勢である。
レーダーに映る範囲だけでも40機以上が周囲を取り囲んでいる中、突破口は見当たらない。
「何だってんだ? まるで俺たちがここに降りてくるのがわかってたみてぇな配置じゃねえか」
「わかっているんだよ、地球人。ご苦労だったな、ジン・タッパー」
「ジン、テメェまさかっ!?」
ゆっくりと、ジンの乗る〈ザンドール〉がヤンロンの機体へと歩いていく。
無数のビームライフルを向けられ、身動きも取れない状態で彼を止めることはできなかった。
「お芝居は終わりでいいぜ、ジン。お前の情報のおかげで敵を簡単に包囲できたよ」
「そりゃあ……良かった」
真っ先に疑うべきだった。
あれだけ簡単に寝返ることに違和感を感じるべきだった。
自分の不甲斐なさと甘さに、カーティスはコンソールを殴りつける。
〈ザイキック〉から響くヤンロンの高笑いが、カーティスを嘲笑するかのように荒野へと響き渡った。
「よし、ジン。お前の働きはネオノア様にたっぷりと上申しといてやるよ。こいつらを仕留めてからなあッ!」
ビームライフルの銃口が、シェンの乗る〈キネジス〉へと向けられる。
今のカーティスには、どうにもすることはできない。
「まずはテメェだ、姫巫女さ────」
ヤンロンの機体が引き金を引くよりも早く、無数のビーム発射音が荒野にこだました。
それと同時に、カーティス達を取り囲んでいた敵機が次々と爆散。
レーダーから光点が次々と消え、機体を失った球状のコックピットブロックが次々と赤い土の上に転がってゆく。
「な、何が起こった!? 敵の増援か!?」
「……甘いのうヤンロン。ジン、今じゃ奴を!」
「ガッテンでいっ!!」
シェンの掛け声とともに、ヤンロン機のすぐ隣に立っていたジンの〈ザンドール〉がビームアックスを抜き振るった。
とっさに飛び退き直撃こそ免れつつも、装甲表面に傷を入れられた〈ザイキック〉からヤンロンの怒号が響き渡る。
「ジン、てめえ何のつもりだ!!」
「言ったじゃねえか、芝居は終わりだってな。ハハハッ! まんまと引っかかってくれて助かったぜ!」
未だに要領を得ないカーティスは、混乱しながらジンの機体がこちらへ戻ってくるのを眺めていた。
「何だ、シェン。おい、どういうことだよ?」
「すまんのう、カーティス。お主じゃあ芝居は無理だと思うて説明を省いておったのじゃ」
「いや……ジンが演技だったとして、何の狙いで、何が起こったんだよ?」
「敵をわざわざおびき出した理由は2つじゃ。ひとつはエリィとやらから送られた情報でわかったことじゃが、敵要塞があまりにもネオ・ヘルヴァニアの居住地に近かったこと。これでは戦いの余波で人民が犠牲になりかねん。正義の戦いを執行する我らとしては、これは避けたいことじゃ」
正義がどうとは置いといて、関係のない民間人を巻き込みたくないという気持ちはわかる。
ネオ・ヘルヴァニアの凶行を止めたとして、人々から非難を受けてしまえばこちらの行動が問題になってしまうからだ。
「2つ目の理由は、こうやって敵を減らせば、お主の目標が達成しやすいじゃろうと思ってな」
「俺の目標……ロゼのことか!」
「ここにおらぬということは要塞の方じゃろうて。ほれ、れでぃのエスコートをするのは殿方の義務じゃ。血路は開いてやった、ここは我らに任されい」
「へっ……粋なことしてくれんじゃねえか!」
カーティスはレバーをひねり、〈ヘリオン〉を航空機形態へと変形させた。
そのままペダルを力強く踏み込み、レーダーを頼りに要塞の方へ向けて加速していく。
(ロゼ……待ってやがれよっ!!)
想い人へ、思いが通じることを信じて。
───Eパートへ続く




