第41話「火星の嵐」【Aパート シェンの意思】
【1】
「へぇー、これが今回の作戦に使うっていうっていう〈ダイザー〉か!」
格納庫に並ぶ平べったい航空機のような乗り物。
その姿を見た裕太は、感嘆の声を出した。
その驚きっぷりが気に入ったのか、整備班長のヒンジー爺さんがカッカッとご機嫌に笑う。
「以前お前さんが木星に行ったときに、クレッセント社からテストにと贈呈された物なのじゃよ。キャリーフレームをこいつに乗せれば、推進剤を節約しつつ長距離の移動はモチロン。特殊装備無しでの大気圏降下も可能なのじゃとさ」
「大気圏か……」
修学旅行の帰り道を思い出す裕太。
あのとき、誤ってジェイカイザー単身で落下することになったが、ビームシールドをフォトンにより強化することで事なきを得た。
あのような危険な橋を渡らずに、大気圏突入が可能となるのはかなりの革新だろう。
「でもさ、ヒンジーお爺ちゃん。この〈ダイザー〉って、4機しか無いのよね?」
「そこなんじゃよ、レーナお嬢。火星で地上戦を行うと考えれば、あと3機は欲しかったのじゃが……」
不完全とはいえ、人が住めるくらいには惑星地球化が進んだ火星。
その周囲には地球と同じように大気の層が形成されており、突入に必要な条件は地球の大気圏とあまり変わらない。
それ即ち、〈ダイザー〉の数イコール地表に降ろせるキャリーフレームの数なのである。
宇宙要塞を守るバリアーを制御する地上基地。
その守りが薄くないということは想像に難くない。
「天才としてひとつ尋ねるが、宇宙に戦力を残しつつ戦艦ごと降下はダメなのか?」
「進次郎さまの意見だし、褒めてあげたいのはやまやまだけれども……。コロニー・ブラスターを艦砲で攻撃しなければならない可能性を考えるとリスキーね」
レーナの言うことはもっともである。
前情報の殆どない要塞へと攻め込もうとしている現在。
相手の切り札たるコロニー・ブラスターの強度がわからないとあっては、最大の火力を持つ戦艦を地上に下ろすのは好ましくないだろう。
スペースコロニーほどの大きさの建造物ともなれば、ハイパージェイカイザーの最大火力でも破壊するのは困難である。
エリィから送られてきた情報から、裕太たちは地上と宇宙に戦力を分け、それぞれでネオ・ヘルヴァニア軍を叩くこととなった。
総戦力が乏しい彼らにとっては、賭けに近い一発勝負をしなければならない。
各々が頭を悩ませていると、シェンが立ち上がって声を上げた。
「ゴチャゴチャと論を重ねても仕方がないじゃろう。わらわは宇宙戦での経験が浅いゆえ、地上で働かせて貰う。他に宇宙に慣れてない者は誰じゃ?」
「えっと……カーティスのおっさんの〈ヘリオン〉がそもそも大気圏用機だろ? あとは……ヘルヴァニア人のおじさん二人も宇宙は不慣れって言ってたかな」
「ならば決まりじゃな。むさ苦しい顔ぶれなのはちと不満じゃが、わらわたちに地上は任されよ」
「だとよ、てめぇら! なるだけ急ぎ、〈ヘリオン〉〈キネジス〉、それから〈ザンドール〉2機を合わせっぞ!」
「「「はい、おやっさん!」」」
ヒンジーの激を受け、早速地上組となるキャリーフレームの〈ダイザー〉との合わせ調整に入る整備員たち。
手すりにもたれかかり、自らの愛機を眺めるシェンの肩を、裕太は軽く叩いた。
「何じゃ?」
「俺たちのために戦ってくれてありがとう、シェン」
「勘違いをするでない。これは恩返しじゃ」
「恩返し?」
首をかしげる裕太へと、シェンはやれやれと言いたげに両手を広げる。
「そなたたちは3ヶ月前、命がけでわらわの国を救ってくれた。今度は、わらわが命がけでそなたたちの住む世界を救う番なのじゃ。それに……」
「それに?」
「ヤンロンじゃよ。奴はネオ・ヘルヴァニアの軍門に下ったという。身内の尻拭いもまた、わらわの役目でもあるのじゃ」
「真面目なんだな」
「褒めても何も出せんぞ? ワッハッハ!」
笑いながら格納庫を去る彼女の姿は、とても頼もしかった。
───Bパートへ続く




