第5話「裕太 VS エリィ」【Cパート 新型キャリーフレーム】
【3】
崎口に案内されて裕太とエリィ、それから大田原ら警察組は建物の中の広めのエレベーターに乗り、地下へと向かっていた。
「新型、地下にあるのか」
「上階にもテスト施設はありますが、なにぶんどこで誰が何を見ているかわかりませんからね。密閉された地下空間なら機密もバッチリということです。あ、言わなくても大丈夫とは思いますがくれぐれも今日のことは他言無用でお願いしますよ?」
崎口のお願いにその場にいる全員が黙って頷いたタイミングでエレベーターの揺れが止まり、彼の後ろにあった大きな扉が横に開く。
照明に照らされた廊下を進むと、やがて脇にガラス窓で囲まれた休憩スペースのうようなものが備え付けられた、まるで巨大な体育館の中のような広大な部屋へと裕太たちは足を踏み入れた。
おお、と感嘆の声をあげる裕太たちの方へと振り向いた崎口は部屋の隅に鎮座している黒い布で覆われたキャリーフレームを指差す。
「これが例の新型か?」
「そうです、我が社の全技術を惜しみなく投与した新型……!」
崎口がパキンと指を鳴らすと、江草重工のスタッフが黒い布を引っ張りキャリーフレームの姿を露わにする。
薄いグレーの塗装がされたそれは、青い光を宿すモノアイ式のメインカメラを頭部に持ち、シンプルな角ばった形状の手足を有する目立った特徴の少ないキャリーフレームだった。
「次世代型キャリーフレーム、〈ヴェクター〉です!」
自信満々に発表する崎口と裏腹に、〈ヴェクター〉を見た警察の面々の反応は今ひとつだった。
「新型にしては……」
「今ひとつ……」
「新鮮味が無いでありますね」
3人の厳しいコメントを聞いてか閉口する崎口。
「あたしもそう思うわねぇ。だってボディの形状、ほとんど既製品の〈アストロ〉そのまんまだもん」
「ま、まぁ確かにボディフレームは既製品〈アストロ〉の改良型ですが……」
崎口が反論を述べようとしたところで、休憩スペースの方から目付きの鋭い老人がコツリコツリと靴音を鳴らしながら歩み寄り、静かに口を開いた。
「〈ヴェクター〉は機体そのものではなく、ソフトウェア面において革新性のある機体なのですよ」
「ソフト面……つまりOSか。ところで崎口さん、このご老人は?」
「この方はヴェクターのソフトウェア開発をしているメビウス電子の訓馬さんです」
崎口に紹介されて訓馬は「よろしく」と軽く頭を下げ、しわだらけの顔でにこやかに微笑んだ。
「試しに動かしてもらえれば、その意味がわかるでしょう」
挑戦的な口ぶりで訓馬に言われた大田原は数秒考え込み、ビシッと裕太を指差す。
「よし、じゃあ若い順に……ボウズが最初に乗ってみろ」
「あ、ええ。わかりました」
大田原に言われ、素直に〈ヴェクター〉のもとへと向かう裕太。
「他の皆さんはそこの休憩スペースから彼の操縦を見物しましょう」
残ったエリィ達は崎口に案内され、休憩スペースへと場所を移した。
休憩スペースとは崎口は言っていたが、内装は実験の観測室にもなっていた。
壁に備え付けられたモニターには隣の広大な部屋──つまりは実験場──の様子が様々な角度から観察できるようになっており、更には〈ヴェクター〉のコックピット内までもが映し出されていた。
コックピット内では乗り込んだ裕太が、いつもジェイカイザーの中でやっているようにコンソールの横に携帯電話を置き、ブツブツとぼやきながら操縦レバーを握っている。
『コックピットの構造は私のものとあまり変わらないな』
「言ってただろ、国際規格だって。起動キーを回してっと……」
画面の中の裕太の動きに連動するように、実験場の〈ヴェクター〉が立ち上がった。
そのまま準備運動をするように〈ヴェクター〉が屈伸したり、腕を曲げ伸ばしする。
そして実験場の床に書かれる白いラインに沿って歩行させたあたりで裕太の表情が険しくなったことにエリィは気づいた。
───Dパートへ続く




