第39話「男たちの決意」【Cパート 思わぬ見舞客】
【3】
「ふつうあの場面で噛まへんやろ? うちの迫真の叱咤が台無しやないか」
「仕方ねえだろ。緊張してたんだから!」
「あら50点、思ったよりも元気そうね。千秋も」
病室前の廊下を歩いていた裕太たちを、壁に寄りかかっていたレーナが出迎える。
「ようレーナ。見舞いに来てくれたのか?」
「いいえ。進次郎さまに会いに来たの」
「……そこは嘘でも肯定しとけよ」
「あんたに会いに来たのはわたしじゃないもの。お客さん、来てるわよ」
「お客?」
軽部先生か警察の人たちでも来たのかと、病室の中を覗き込む。
そこに立っていたのは、予想外の人物だった。
「なんじゃ、しけた面をしてからに。久々の再会というのに感動も無しかの?」
「シェン……? シェン・グァンか!?」
堂々と、裕太のベッドに座っていたのは光国の姫巫女、シェン。
3ヶ月前、偶然訪れたコロニーの国で出会った、共に初めてネオ・ヘルヴァニアと戦った戦友。
「お前、なんで地球に? 国はいいのか?」
「姉さまの治世も一段落したからの、今後を考えて見聞を広めておるのじゃ。わらわはいずれは国を背負う身。時代への無知がたたって執政に影響が出ては困るからのう」
「そりゃあ、真面目なこって……」
「おいおいおいおい、ガキンチョはモテモテだな? 次から次へと女が見舞いに来やがってよ、おいこの!」
恨めしい顔で、隣のベッドからカーティスが文句をたれた。
シェンは一瞥し、嫌なものを見るような顔で彼を指さす。
「……裕太。この下品で口汚い男は何者じゃ?」
「カーティスっつう、まあ友達未満なオッサンだよ」
「ひでぇなおい!」
「かっかっか! 面白い男じゃな、裕太は。お主と一緒ならば、地球めぐりの旅も退屈しそうにない」
上機嫌なシェンとは対照的に、裕太の表情は暗い。
先の見えない状況に、不安の種は尽きないのだ。
「本当なら、お前の観光に付き合ってやりたい気持ちもあるがよ。今はエリィが攫われてそれどころじゃないんだ」
「エリィ? というと、一緒に居たあの長い銀色の髪のおなごかの?」
「ああ。誰がさらったのか、何のために連れて行かれたかもわからねえんだ。せめてどこに連れて行かれたかがわかりゃあ良いんだが……」
「そのおなごじゃったら、昨日わらわが地球に降りる直前に宇宙港で見たぞ?」
「「「えっ」」」
予想外の返答に、病室の時が止まる。
数秒して、正気を取り戻した裕太はシェンの両肩を掴み、大きく揺さぶった。
「どこだ!? どこに連れて行かれてた!? っていうかわかってて助けなかったのか!?」
「落ち着け、落ち着けと言っておるじゃろうが! わらわもこっちに来るまでそのような事情は知らぬゆえ、人違いかもしれぬのに声をかけられるわけはなかろう!」
「それも……そう、だよな……ごめん」
肩から手を離し、力なく床に座り込む。
シェンに責任がないことはわかっていても、やりきれないのが今の裕太の心境である。
「で、エリィはどこに連れて行かれてたんだ?」
「わらわの目が間違っておらねば、なんじゃったかな……火星行きの乗り場へと黒服に連れて行かれてたわい」
火星、という単語にカーティスが額を抑えた。
内宮やレーナも「そういうこと」と呟き、納得したように諦めの表情を浮かべる。
「火星か……見つからねえわけだ」
「ホンマやな。完全に盲点やったわ」
「火星……よりによって、そこだったなんて」
「なんじゃなんじゃ、揃いも揃って情けない顔をして。火星といえば木星よりも近いんじゃろう? 今すぐにでも迎えに行けばよいではないか?」
「そうだよ、なあレーナ。Ν-ネメシスで火星に行けば……!」
「50点も、姫巫女さんも、火星のこと……なーんにも知らないのね」
ゆっくりと、レーナが説明を始めた。
───Dパートへ続く




