第5話「裕太 VS エリィ」【Aパート 裕太と約束】
【1】
「なあ、銀川。今度の土曜、空いてるか?」
夕焼けに赤く照らされたエリィの住むマンションの前で、裕太が恥ずかしそうに頬を指で掻きながら言った。
「え、ええ。空いてるけどぉ……」
「じゃあさ、ふたりで出かけないか? 銀川と一緒に行きたいところがあるんだ」
不器用で飾り気のない誘い文句。
だが、そんな裕太の言葉はエリィの胸の鼓動を早めるには十分すぎる威力を持っていた。
「も、もちろんいいわよぉ!」
顔を赤らめているのが夕日の光で気づかれないか、胸の鼓動が聞こえてないか気にかけながら、エリィは首を縦に振って承諾する。
「集合場所とかはあとでメールするよ。じゃ、じゃあな」
エリィは飛び跳ねて喜びたい気持ちを抑えつつ裕太の後ろ姿を手を振りながら見送った。
今まで、エリィが裕太を引っ張って食事に連れて行ったり、進次郎達を交えて複数人で遊ぶことはあった。
しかし、裕太からの、それもふたりきりでのお出かけの提案。
それすなわちデートの誘いであることは誰の目から見ても明らかだろう。
もしかしたら、告白されるかもしれない!
ロマンチックな場所に連れて行ってもらい、キスとかもしちゃうかもしれない!
いやいや、もっと大胆にホテルとかに連れて行かれちゃったりするかも!?
エリィはとろけた顔でエヘヘと笑いながら、自分の部屋へとスキップで向かっていった。
【2】
「って、喜び勇んでオシャレして来たのにぃ……!!」
約束の日。
待ち合わせ場所で裕太と合流したエリィは、裕太の後に付いて数分前まではルンルン気分で歩いていた。
若者向けのショッピングエリアを通り過ぎ、繁華街を素通りし、住宅街を横切り、そして今はロマンチックとは縁遠い工業地帯へと足を踏み入れ、キャリーフレームを荷台に載せたトラックばかりが通る道路の脇を歩いている。
裕太やエリィの住んでいる代多市は、10年ほど前までは田園風景が広がる無名の農村地帯だった。
しかし、当時日本政府が打ち出した遷都政策の一環で大企業の本社や工場を地方へと移設する運動が始まった。
東京の一極集中を解消するために始まったその運動によって、過疎化していた諸地方には活気が生まれ、雇用を求めて人が集まり、集まった人を狙って商店が立ち並び、やがて町から都会へと開発が盛んになっていった。
裕太たちが今歩いている工場地帯も、都市圏から移設されてきた大企業のものばかりである。
代多市は大規模な都市開発の真っ最中であるため、土木・建築に有用なキャリーフレームの需要が高く、それらの姿を多く見かけることができる。
辺りからはガガガと金属を加工する耳障りな音が鳴り響き、大きな歩行音を唸らせながら巨大なコンテナを運ぶキャリーフレームの姿も見え隠れするこの場に入ってからというもの、最初こそ笑顔だったエリィの表情も徐々に曇っていき、今となっては眉がつり上がるまでになってしまっていた。
『裕太、エリィ殿から不穏なオーラが感じ取れるのだが』
「言うなジェイカイザー。俺は今振り向くのが怖い」
「だったらこんなところに連れてくるんじゃないわよぉ!」
頬を膨らませエリィが怒ると、裕太は恐る恐る振り返って立ち止まり申し訳なさそうな顔で祈るように手を合わせた。
「すまん。後で銀川の行きたいところに付き合ってやるから機嫌直してくれよ」
「乙女心を弄んで、それで済むと思って?」
なおもプイッとそっぽを向くエリィに裕太はダメ押しを加える。
「……パフェの一杯でも奢るからさ」
パフェという単語にエリィの耳がピクリと動いた。
甘いものを食べられるのも嬉しいが、ふたりきりで喫茶店に赴き向かい合ってパフェを食べるシチュエーションを想像するとなんともデートっぽいではないか。
そう考えたエリィは表情を和らげ、裕太の目を真っ直ぐに見つめながら優しげな笑みを浮かべ。
「それで手を打ちましょう。ケチなあなたの奢りなんて、二度あるかもわからないしぃ!」
機嫌の戻ったエリィを見て裕太はホッと胸をなでおろすが、その表情は少し苦笑い気味だった。
「ケチとはひでぇなぁ。あ、パフェは最小サイズな?」
「それをケチっていうのよぉ……」
そんなやり取りをしながら、二人は再び工業地帯を歩き始めた。
───Bパートへ続く




