第36話「刻まれたゼロナイン」【Fパート サツキを纏う】
【6】
「……どうして、男たちは艦橋に集まってくるんですか?」
「仕方ないだろ。ナインの奴、俺を見たらバケモンに会ったようにビビり倒すんだから」
深雪が不満を漏らす理由は、裕太にもわかっていた。
居場所を求めて艦内をうろついていた裕太は、ふらっと訪れた艦橋でスグルとカーティスが仲良さそうに談笑していたのを見つけた。
二人の邪魔にならないように艦橋の隅でうずくまっている姿が、深雪にとっては目障りだったのだろう。
なぜナインが裕太を恐れるのか。
それは艦内にいる人間の中で、光国でナインと顔を合わせ、はっきりと敵として戦ったのが裕太だけだからである。
おそらく、彼女はこの艦を中立だと思っているのだろう。
その中に敵として戦った相手がいては、ここは中立から敵地へと変わってしまう。
そんなわけでナインが心をひらいてくれるまでは、こうやって彼女が近づかなさそうな場所にじっとしているしかないのだ。
「ガハハハ! 女に振られたかガキンチョ」
「るせーよカーティスのオッサン。俺はただ……」
『裕太は寂しいだけなのだ! ワハハ!』
「んなわけあるかー! ……いや、あるかも」
寂しいという感情に、嘘は無かった。
ナインの心を開くため、比較的年齢の近い裕太以外の学生メンバーは彼女につきっきり。
ひとり接見を禁じられ、居場所を失うのはやはり寂しいものだ。
「ガキンチョの分際で青春すっからそうなるんだよ! 俺なんて学生の頃は恋愛なんぞにうつつを抜かさず……」
「笠本くん!」
「裕太さん!」
「お゛っ!?」
「銀川!? ……と金海さん?」
「艦橋では、お・し・ず・か・に……!」
「「「「はい……」」」」
血管の浮き出た深雪の睨みに、一斉に押し黙る一同。
その様子を離れてみていたスグルが「はっはっは」と静かに笑っていた。
※ ※ ※
「……で、何か用かよ」
艦橋から半ば追い出されるように出ていった裕太は、通路でエリィたちが訪ねてきた訳を聞き出していた。
裕太の問いかけに、エリィのポケットの中の携帯電話越しにジュンナが声を発する。
『バイタルの傾向から、そろそろご主人さまが寂しがってる頃ではないかと思いまして』
「あーそうかよ、プライベートもへったくれもねえな。まあ、ありがとよ」
『どういたしまして』
「んで、飯でも一緒に食うのか? って思ったけどナインも飯食ってるから無理か……」
「それがねぇ、金海さんが妙案があるんだって!」
「金海さんが?」
今日は調子が良さそうで元気そうなサツキが、裕太の前でにっこりと笑顔を浮かべる。
そのままもじもじとしたかと思うと、サツキが突然裕太に抱きついてきた。
「なっ!!? 寂しさをどうこうするってこういう!? コレウワキッテヤツジャナイデスカー!?」
「ちょちょちょ金海さん!? なになになにしてるのお!?」
「それはですね~~~こうですっ!」
ドロリと、裕太に抱きついたサツキが液状化した。
そのまま裕太の全身を包み込むようにサツキだった金色の液体がまとわりつき、その形状を替えていく。
「ぎっ!!?」
全身が締め付けられるような感触の中で、裕太は気合で立ち続けていた。
数秒の後、ようやく全身への圧迫感がなくなった。
「痛って~……金海さん、何をしたんだ? ってあれ、声が……」
変容が終わり、裕太は自分の声が高くなっていることに気がついた。
そう、まるで女の子のような声に。
「かさ、かさ……笠本くん、その格好……!?」
「格好? のわっ!!?」
裕太は視線を下ろし、自分の体を見て驚愕した。
輪郭が細くなり、胸には豊かな膨らみが生まれ、その身体を高校の女制服が包んでいた。
「お、お、お……女になってるぅぅぅぅ!!!?」
高くなった声で、裕太は絶叫した。
───Gパートへ続く




